田口勉

田口勉

ネイティブアメリカンであるナバホ族の人々。ニューメキシコ州の町ギャラップは、彼ら先住民族が大勢暮らしている。1969年撮影。

(写真:佐藤秀明

“お作法”を乗り越え、データを自在に活用する方法

クラウド接続ストレージの「Neutrix Cloud」を提供するNeutrix Cloud Japan 代表取締役社長 CEOの田口勉氏に、データ活用のポイントを訊ねる本連載。第3回は、マルチクラウド化のトレンドと、その先に見えてくる新しいデータファブリックの姿への展望について話を聞いた。

・第1回:データ駆動型社会を実現する思考とストレージ
・第2回:数学が紡ぐ、革新的なストレージ

Updated by Tsutomu Taguchi on May, 31, 2022, 9:00 am JST

データ駆動型社会を日本でも実現し、データの有効活用が求められることは、官民ともに異論のないところだろう。Neutrix Cloud Japanの田口氏は、ストレージの仮想化、クラウド化による低コストでスケーラブルなストレージが必要であること、そうしたストレージの実現には、数学とソフトウエア技術が不可欠であることをここまでの連載で説いてきた。

それでは実際にデータを仮想化・クラウド化したストレージに載せて有効に活用できるようにするには、どのような構成が求められるのだろうか。

マルチクラウドに顕れる日米の感覚の差

田口氏は、クラウド分野で日本よりも先を進む米国の状況から、ストレージのクラウド化への方向性を示す。
「クラウド管理ツールベンダーの米RightScaleの調査から、米国の状況が読み取れます。2018年のレポートでは、米国の従業員1000人以上の企業のクラウド戦略として、81%がすでにマルチクラウドを利用しています。ここでいうマルチクラウドは、オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドも含めた数字ですが、数年前で8割以上がマルチクラウドを活用しています。さらに2021年のレポートでは、92%がマルチクラウドを利用しているという圧倒的な数字が得られています」。

日本では、マルチクラウドの利用をこれから推進するといった論調で説明されることが多いが、米国ではマルチクラウドが「当たり前」のクラウド利用法になっているというわけだ。「日米で感覚が違う」と田口氏は基本的な状況の違いを語る。

米国のマルチクラウド動向
米国ではマルチクラウドを利用する企業が大多数を占める。

なぜマルチクラウド化が早く進んだのかについて、田口氏はこう説明する。
「1つのポイントは、2010年以降のクラウド化の進展で、ハイパースケーラー各社が提供するパブリッククラウドの信頼性に確信が持てなかったことがあるでしょう。特定のパブリッククラウドに頼った構成では障害やダウンタイムを防ぐ方法がなかったので、冗長性を持たせるために、マルチクラウド化が進んだと考えられます」。

もう1つのポイントとして「パブリッククラウドにはそれぞれ特徴があることも要因だと考えています。例えば、Microsoftのクラウドは、Microsoft製品に近い領域で機能や性能が厚く整えられています。一方で、GoogleのクラウドはAIの使い勝手が良いといった特性があるようです。適用業務にあったクラウドを選択すべきという意味で、マルチクラウド化にする意味があります」と田口氏は語る。

“お作法”がデータの活用を阻害する

また、Neutrix Cloud Japanが主張する「データの主権を守る」視点からのマルチクラウド化もある。
「それぞれのクラウドベンダーは、ボリュームディスカウントなどによりデータのロックインを推進しています。本来、データの主権はクラウドベンダーではなく、ユーザー側にあるはずであり、データロックインを防ぐ手法としてマルチクラウドを採用することもあります」(田口氏)。
さらに、特定の法律や企業ポリシーによって、あるデータはオンプレミスにしか置けないけれど、クラウドの機能も不可欠という場合には、ハイブリッドクラウド構成を採ることになる。マルチクラウド化する要因は多彩だ。

一方で課題もある、と田口氏は指摘する。
「1つは、それぞれのクラウドで“お作法”が違うこと。マルチクラウドでは異なるお作法に対応しなければなりません。また、あるクラウドから別のクラウドにデータを移動するには、コストが掛かります。マルチクラウドでデータを活用する際の運用上の大きな課題です」。

すなわち、ハイブリッドクラウドを含むマルチクラウドの実際の運用は、現実には単に複数のクラウドを使っているだけという状態になりがちなのだ。データの観点から、複数のクラウドやオンプレミスの間を自在に行き来して活用することは、従来の仕組みのままでは難しい。

Neutrix Cloud Japanが提供するクラウド接続ストレージ「Neutrix Cloud」は、複数のパブリッククラウドやプライベートクラウド、オンプレミスのシステムから、等しくアクセスできるクラウドストレージである。だからこそ、マルチクラウド化のメリットを生かしながら、データの自由な活用を実現する方法の1つとして、Neutrix Cloudの利用が有効な解となる。

田口氏は「ストレージの仕組みを途中で変えることは、飛んでいる飛行機のエンジンを飛びながら交換するぐらい難しいです。データベースは常にアクセスがあり、バックアップも随時行われているからです。それぞれのクラウドからデータに自由にアクセスでき、複数のクラウドにデータを保存しておくなど余計なコストのかからないNeutrix Cloudにデータを保存しておくことは、マルチクラウドの活用に不可欠な手法です」と説明する。

伸縮性のあるデータファブリックで、稼働しているエンジンを付け替える

マルチクラウド活用を支える有効な手段であるNeutrix Cloudは、イスラエルのINFINIDATが開発した技術を使っている。INFINIDATは、クラウド接続ストレージのNeutrix Cloudと並行して、同等の機能をオンプレミス提供するアプライアンス製品のINFINIBOXも提供している。これらを組み合わせていくことで、新しいデータストレージの姿が見えてくるという。

「今後のビジョンとして、INFINIDATは『エラスティックデータファブリック(Elastic Data Fabric)』を掲げています。“エラスティック=伸縮性”のあるデータファブリックを、Neutrix CloudなどINFINIDATの技術で実現する考えです」(田口氏)。

米国では、東西に2つのNeutrix Cloudのアベイラビリティーゾーンが設けられている。これとは別に、オンプレミスのINFINIBOXが3000社ほどで稼働しているという。Neutrix Cloudのクラウドストレージの技術を用いると、データは物理的なハードウェアから独立した仮想化したストレージ上に存在することになる。すなわち、Neutrix CloudのサービスとオンプレミスのINFINIBOXを融合した大きな仮想化ストレージの上で、データを有効に活用できるようになる。

エラスティックデータファブリック
エラスティックデータファブリックで柔軟なストレージ利用が可能に。

「既存のハードウェアの概念から、データのライフサイクルを切り離して利用できるようになります。データ主権を確保しながら、必要なストレージ性能を維持し、遅延を減らすために物理的に近い場所に保存するなどの柔軟なストレージの利用が可能です。このエラスティックデータファブリックを使うと、アクティブ-アクティブのデータレプリケーションをダウンタイムゼロで実現することが可能です。下の図では4拠点が描かれていますが、100拠点までを1つの透過的なストレージとして利用できる技術です」(田口氏)。

エラスティックデータファブリックは、INFINIDATの製品であるINFINIBOXとクラウドストレージのNeutrix Cloudを組み合わせて、分散しているINFINIDATのストレージを1つのサービスとして使えるようにしたものというわけだ。実現すると、ストレージは透過的にスケーラブルな形で利用できるようになる。ストレージがどこにあるかは意識する必要がない。一方で、データの物理的な保存場所は設定でコントロールでき、国外への持ち出し禁止などのポリシーに準拠することも可能だ。

田口氏は、「こうした機能を持ちながら、アクティブ-アクティブでデータのレプリケーションができるので、飛んでいる飛行機のエンジンを付け替えることができるようになるのです。エンジンがなければ飛行機は飛ばないように、データがなければコンピューティングもできません。データを柔軟に扱える仕組みはこれからさらに重要性が増すでしょう」と語る。

データを自在に活用する「本当のデータクラウド」実現のために

エラスティックデータファブリックは、ストレージのあり方を大きく変える可能性がありそうだ。
「実際の利用の観点で語られるのはもう少し先のことになります。現時点ではロードマップの上のビジョン、コンセプトという位置づけですが、既存のクラウドやオンプレミスとは異なる将来のデータクラウドの1つのモデルになると考えています」と田口氏は今後に期待を寄せる。
そこで重要になるのが、エンタープライズ向けのストレージ製品であるINFINIBOXや、クラウド接続ストレージのNeutrix Cloudを統合管理するためのオーケストレーションであり、INFINIDATの技術でオーケストレーションを実現していく。

田口氏は、「プライベートクラウドは、現在はVMwareの利用が主体でしょう。しかし今後マルチクラウド化を推進することを考えると、(ホストOSのリソースを論理的に分割して使う)コンテナ技術や、(コンテナを統合管理するオーケストレーションツールである)Kubernetesの重要性が高まってくるでしょう。どのクラウドでも資産が利用できるように、コンテナの中にサービスやデータを格納して利用できるようにします。そうしたとき、Kubernetesをどこに格納するのかと考えると、INFINIDATのエラスティックデータファブリックが有効になるでしょう」と語る。

「クラウドの技術の7割から8割はストレージが占めています。ぼくらがやりたいのは、データ主権があり、自在にデータを活用できる『本当のデータクラウド』を実現することで、そのために最重要の要素であるストレージ技術に磨きを掛けていきます」(田口氏)。
マルチクラウドをデータの視点から実際に活用できるように整備し、その先にエラスティックデータファブリックのような新しいクラウドストレージの具体化を進めることで、本当のデータクラウドの実現に寄与していく考えだ。

真のマルチクラウドを実現するNeutrix Cloudとは?