田口善弘

田口善弘

ハワイのオアフ島ノースショアで波を見る人々。

(写真:佐藤秀明

AIの強みは「間違えられる」ことにある

《3月28日配信》シンギュラリティはすでに起きている? 予想を越えているAI技術とその空洞の中身」では、AIが意識を持つかどうかが論点になるかもしれない。そもそも現在のAIとはどのようなものなのか、機械学習を使って研究を進めてきた田口善弘氏はAIをどのように捉えているのかを紹介しておこう。

Updated by Yoshihiro Taguchi on March, 13, 2023, 5:00 am JST

フラジャイルな人工物、ロバストな生命体

DIGIOME※1は、このAI=機械学習と同じような特質を持っている。いつも正確に同じことを繰り返すことができないのと引き換えに想定外の事態にも対応が期待できる。生命体が接する環境はどのように変化するかわからず、フラジャイルなシステムでは対応できない。その意味では現実への対応において、ロバストなAI=機械学習と同じような戦略を生命体が採用したのは偶然ではないだろう。もっとも生命体の学習時間は何十億年もあって桁が違うわけだが。

生命はロバストで人工物がフラジャイル※2なことを我々は当たり前のように捉えてきたが、「機能する」という意味ではどちらも同じもののはずだ。なぜ、人間が作るものはフラジャイルなものが多く、生命体はロバストなシステムを好むのか、AI=機械学習の登場でロバストな人工物が巷に溢れる未来を迎えるのが確実な現代、そのことはもうちょっと真剣に議論されてもバチは当たらない気がするのだが。

※1 DIGIOME(ディジオーム)……生命が持つゲノムをデジタル信号処理系として捉える考え方のことで、田口氏による造語。デジタルの「デジ」と様々なデータの総体を表現するときにつかう「オーム」を組み合わせている。田口氏は人間が作るシステムの脆弱性に比べ、生命が持つシステムの応用力の高さ、ロバスト性に注目している。

※2 生命はロバストで人工物がフラジャイル……一般的に人工的なシステムはわずかな瑕疵が全体の動きを止めてしまうことが少なくないためフラジャイル(脆弱)である。一方、生命のシステムはどこかに欠損・欠陥があっても他の部位などがそれを補って機能しつづけることが多い。よって生命のシステムは人工的なシステムよりもロバスト(堅牢)であるといえる。

*この本文は『生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像(ブルーバックス) 』(講談社 2020年)の一部を抜粋し、ModernTimesにて若干の編集を加えたものです。

イベント情報

この本の著者である田口善弘氏が登壇するイベントが、2023年3月28日にオンラインにて配信されます。タイトルは「シンギュラリティはすでに起きている? 予想を越えているAI技術とその空洞の中身」。参加費は無料。どなた様もお気軽にご参加ください。お申し込みはこちらのフォームからhttps://forms.gle/5tu8okUpbQq4uxMV6