岡村 毅

岡村 毅

North French|Death of the Virgin|ca. 1450–1500

(写真:メトロポリタン美術館 / The Metropolitan Museum

「医療では死は敗北なのです」。まだデータ化されていない看取りの現場で起きていること

医療はデータサイエンスがその力を大きく発揮できる分野ではあるが、同時に人間と人間の営みであるがゆえにデータ化されにくい事象が多い領域でもある。老年精神医学会専門医が終末ケアを担う人々の声を拾い、その実情を探った。

Updated by Tsuyoshi Okamura on May, 16, 2023, 5:00 am JST

社会に通底している死の禁忌。しかし生活の場である施設では、尊いものとして寄り添う人が徐々に現れている

私は、現在は以下のように整理している。

すべての文化に死の禁忌はあるが、日本は特に強いようだ。そのため、病名を隠す、わざわざ病院まで運んでから死なせるといったことも行われていた。医師としての個人的経験からも、病院や施設で、死を極度に異常とするスタッフとしばしば巡り合ってきた。いまでも死の禁忌は私たちの社会に通底しているように感じる。しかし、医療の場である病院ではともかく、生活の場である施設では、死にゆく間際を尊い時間として寄り添う人が徐々に現れている。それは、医師としては見えなかったのかもしれないが、僧侶と深くインタビューすることで分かってきた。医療者と、そしておそらく宗教者が、死を尊いものとして死にゆく人を支えるスタッフたちを、支えなければならない。

参考文献
1. Long SO, Long BD. Curable cancers and fatal ulcers. Attitudes toward cancer in Japan. Soc Sci Med. 1982;16(24):2101-8. doi: 10.1016/0277-9536(82)90259-3. PMID: 7157041.
2. 岡村毅,小川有閑,髙瀨顕功,新名正弥,問芝志保,宇良千秋.死が近い高齢者をケアする際の葛藤:ケアスタッフが僧侶と研究者に語ったこと.日本老年医学雑誌 58 巻 1 号 p. 126-133 https://doi.org/10.3143/geriatrics.58.126
3. Ogawa Y, Takase A, Shimmei M, Toishiba S, Ura C, Yamashita M, Okamura T. Meaning of death among care workers of geriatric institutions in a death-avoidant culture: Qualitative descriptive analyses of in-depth interviews by Buddhist priests. PLoS One. 2022 Oct 18;17(10):e0276275. doi: 10.1371/journal.pone.0276275. PMID: 36256668; PMCID: PMC9578581.