芙和せら

芙和せら

(写真:Julija Ogrodowski / shutterstock

高齢者も褒められたい、出会いたい。超高齢社会の落とし穴「社会的フレイル」を予防する

超高齢社会において、人々の幸せの総量を減らさないためにできることの一つが、要介護人口や要介護の度合いを高めないことである。そのための第一歩が「社会的フレイル(虚弱性)」の抑制だ。芸術療法によって、高齢者が社会的フレイルに陥らないための取り組みを続けている心理カウンセラーから届いた現場のレポートと、高齢者の意外な心理を紹介する。

Updated by Sera Fuwa on May, 26, 2023, 5:00 am JST

社会的フレイルは予防することができる

高齢者だけを1カ所に集めてお世話をするだけでは、社会的フレイルの予防はできません。私たちの社会が高齢者とともに暮らす社会づくり、仕組みづくりをする必要があります。
たとえば、仮に独居であっても、下記のような場や機会があれば社会的フレイルにはなりません。

 1.近所に集まっておしゃべりできる居場所がある。
 2. 趣味の場で仲間と交流ができる。
 3. ボランティアで地域に貢献する機会がある。
 4. 若年世代に経験を伝える機会がある。       

国や行政の施策の重要性はもちろんですが、私たち一人ひとりが高齢の人も若い人も住みやすい社会環境を作るという意識が必要でしょう。

「お花あそび」を通じた交流に効果があった!

ところで、筆者は芸術療法を専門とする心理カウンセラーです。芸術療法とは、絵画、音楽、写真、詩歌、演劇など芸術表現を用いた心理療法のこと。芸術表現による心理療法効果は目覚ましいものがあります。

筆者は1988年に生花による芸術療法「フラワー心理セラピー」をベースにした、健康長寿に特化した芸術療法の場「健康長寿のお花あそびサロン」を創始しました。
このサロンは、高齢者施設ですでにレクリエーションとして取り入れられている生け花やフラワーアレンジメントのレッスンとは大きく異なります。老年学や心理学を学んだ「健康長寿の花*コミュニケーター」による認知機能を高めたり、情緒の安定をはかったりするためのワークショップです。

●プログラム例
 ①アイスブレイク
 ②花器づくり
  (自分だけのオリジナル作品を紙パック、折り紙、リボンなどを使って制作)
 ③花選び
  (数十種類の花の中から好みの花を8~12本程度選ぶ)
 ④フラワーアレンジメント制作
  (お手本なしの自由制作。モールや毛糸なども花とコラボレーションさせる)
 ⑤シェアタイム
  (参加者や花*コミュニケーターと花作品を囲んで団らんタイム)

プログラムを一見するだけでは、なんてことのないワークショップに見えるかもしれません。しかし、効果測定をしてみると、実際にこの「お花あそび」が社会的フレイルを抑制するための効果があることが証明できました。

お花あそびによって、ネガティブ感情が低減し、ポジティブ感情が増大した

下のグラフはお花あそびの前後に「POMSⅡ」という気分変化を測定する心理テストを実施した結果です。1回目というのがお花あそびの前、2回目というのがお花あそびの後のデータです。「怒り-敵意」「混乱-当惑」「抑うつ-落ち込み」「疲労-無気力」「緊張-不安」は低下し、「活気-活力」が上昇しています。その結果、「総合的な気分」が大幅に改善しています。いずれも統計学的な有意差があります。(n=40)

「上手につくること」にこだわらない作品づくりが、創造性を発揮させる

参加者によかった点について質問したところ、最も多かった回答は「上手も下手も関係なく作品づくりができたこと」でした。生け花やフラワーアレンジメントのレッスンはお手本通りの作品を作らなければならず、講師からテクニックの指導がありますが、お花あそびサロンではどのような作品も制作者の表現として大切に扱われます。上手下手を意識しない場での作品作りは、創造性を発揮させる機会となるようです。

続いて多かったのが「生花に触れることができたこと」でした。筆者が生花にこだわるのは、造花やドライフラワーとは異なり、高齢者の五感を刺激できるからです。参加者の皆さんは鮮やかな色彩にときめき、香りにうっとりと酔いしれ、手触りも存分に味わえるようにプログラムを組んでいます。加えて季節感を味わっていただくことも大切な要素です。皆さん生き生きとした様子で、生花を手に取られます。