六本木には6月生まれの人が多い??
先日、息子が10歳の誕生日を迎えました。あの激動の日から10年かぁ、となかなか感慨深いものがあります。ところでみなさん、お誕生日はいつですか? たまたま時計を見たときに、時間が自分の誕生日と同じ数字だったとしたら、ちょっと嬉しくなったりしませんか?
人が自分の名前に近い都市に住んだり、自分の誕生日に関連する街に住んだりしやすいという現象を指摘したのは、ニューヨーク州立大学バッファロー校のペルハム氏らです※1。彼らは死亡記録や電話帳のデータを調べ、たとえば、ミルドレッドさんはミルウォーキーに、フィリップさんはフィラデルフィアに住みがちであることを示しています。また、名前だけではなく、2月2日生まれの人は2のつく街(ツーハーバーなど)に、3月3日生まれの人は3のつく街(スリーオークスなど)に住んでいる確率が高いというのです。日本で言えば、たとえば六本木には6月6日生まれの人が多いのでしょうか。お住まいの方、いかがでしょう?
いずれにしても、このように、自分の名前や誕生日など、自分に関連したものを好む効果を、ネームレター効果※2 と呼びます。このネームレター効果は、日本人でも見られ、自分の名前に含まれるアルファベットは全体的に好まれるそうです。さらにその中でも、男性は氏の頭文字(田中真弓さんならT)、女性では名の頭文字(田中真弓さんならM)を特に強く好むというのですが、これは結婚時に女性が姓を変えることが多いからでしょうか。また、自分の生まれた月や日の数字は、残りの数字よりも好まれる傾向にありました※3。
3月22日生まれの私も、たしかに3や22という数字は好きです。実は、このネームレター効果を知るまでは、あくまで客観的に3や22は良い数字なのだと信じていたのです。でも、もしかしたら他の誕生日の人は私とはまた違う感覚をお持ちなのでしょうか。いまだに他人に確認できずに生きています。ああ知りたくない。
死亡率が高まる誕生日
さて、誕生日には危険もつきまといます。なんと、誕生日には死亡率が13.8%高まるというのですね※4。スイスの死亡統計を、1969年から2008年までデータ解析した結果によると、誕生日には、心血管や脳血管系の病気、また、事故で亡くなる人が増えていました。血管系の病気で亡くなるのは男性より女性が多く、転倒事故で亡くなるのは男性の方が多いようです。ここまでは、誕生日で浮かれてしまったのかな?という感じですが、なぜか誕生日にはガンで亡くなる人も多かったそうです。どうぞ誕生日には病気や怪我にお気をつけくださいね。
また浮かれているはずの 誕生日に(あるいは、浮かれているはずの誕生日だからこそ)、自死率が高くなるというデータもあります。日本、スイス、イングランド、ウェールズなど、各国のデータによると、誕生日には6〜40%も自死のリスクが高くなっていたそうです。
さらにこの効果は「意味のある」誕生日ほど強くなるようで、1974年から2014年までの日本の自死者100万人分のデータによると、男女ともに20歳の誕生日にリスクが特に高く、男性では30歳、40歳、60歳に再度リスクが高くなること、また、女性では77歳に再度リスクが高くなることが示されています※5。
誕生日には判決が軽くなる
とはいえ、やはり誕生日は誕生日。ポジティブな空気ももちろんあるのです。その一つは、誕生日の人に対しては、周りの対応が優しくなるということです。それは、優しくなってはいけないはずの裁判官まで、です。
トゥールーズ第一大学のチェン氏らは、誕生日の被告人には裁判官が優しい判決を下してしまうのではないか?という仮説を確かめるために、フランス、アメリカの刑事事件480万件のデータを分析しました※6。その結果、被告人が誕生日の場合には、フランスでは量刑が1%少なく、また5%短くなっていました。ほんの少しですが、見逃せません。また、アメリカの連邦裁判官は、誕生日の被告人に対してだけ、量刑の切り捨てを行ってあげていたそうです。日本の判決だとどうなのでしょう。気になるところです。
なお、これは誕生日だけのボーナスで、判決日が誕生日の前日や翌日だと、この効果がさっぱりなくなってしまうそうです。もし自分がフランスやアメ リカで量刑を受けることになるならば、ぜひ誕生日に判決を受けたい!と思ってしまいますね。
参考文献
※1. Pelham, B. W. , Mirenberg, M. C. & Jones, J. T. Why Susie sells seashells by the seashore: implicit egotism and major life decisions. J. Pers. Soc. Psychol. 82, 469–487 (2002).
※2. Nuttin,J. M. , Jr. Narcissism beyond Gestalt and awareness: The name letter effect. Eur. J. Soc. Psychol. 15, 353–361 (1985).
※3. Kitayama, S. & Karasawa, M. Implicit Self-Esteem in Japan: Name Letters and Birthday Numbers. Pers. Soc. Psychol. Bull. 23, 736–742 (1997).
※4. Ajdacic-Gross, V. et al. Death has a preference for birthdays—an analysis of death time series. Ann. Epidemiol. 22, 603–606 (2012).
※5. Matsubayashi, T. , Lee, M.-J. & Ueda, M. Higher Risk of Suicide on Milestone Birthdays: Evidence from Japan. Sci. Rep. 9, 16642 (2019).
※6. Chen, D. L. & Philippe, A. Clash of norms judicial leniency on defendant birthdays. J. Econ. Behav. Organ. 211, 324–344 (2023).