森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

AIに人間味をもたせる最速の方法

DX社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は、人が発するあるもののパワーについて考えてみます。

Updated by Yuko Morimoto on January, 25, 2023, 5:00 am JST

声を聞くだけで賢そうに思えます

2015年、「知性の響き」というタイトルで、ひとつの研究が発表されました※1。私たちは、他人の印象を評価するときに、音声情報がある方が、その人のことを賢そうだと思ったり、ポジティブな印象を抱いたりするというのです。

研究の中で、シカゴ大学のシュローダー氏は、何人かのMBA(経営学修士)の学生に、就職面接を受けるところをイメージした動画を撮影させてもらいました。そしてその後、別の参加者の人に、それぞれの学生の評価をさせました。撮影した動画をそのまま見せる場合、音声だけ聴かせる場合、話した内容を書いた文章を読む場合で比べると、動画と音声では同じくらい賢そうに思われ、印象が良く、自分が面接官だったら雇ってもいいと思われていました。ところが、まったく同じ内容を、文章に書き起こしたものを目で読んだ時は、あまり賢そうではなく、印象もいまいちで、雇う気もあまりしないという評価を受けていたのです。

この効果は、音声情報を削除して文章のみにした場合だけではなく、文章に音声情報を足したときでも見られました。書いてもらった文章を、男性あるいは女性の声で読み上げた場合には、文章そのままのときよりも、賢そうで、印象が良く、雇ってもいいと思われていたのです。内容はまったく同じなのに、音声がつくかどうかが、印象に大きな影響を与えるようです。賢そうに見られたければ、手紙ではなく、電話をした方がいいのかもしれません。

声がつくと賢そうに思える、という効果は、AIの「声」でも同じように見られています※2。車の自動運転AIに、名前をつけたり、性別を与えたりすると、人間らしく思え、その結果、性能が良いだろうと信頼されるようになるのですが、名前や性別の他に、声も同じような効果を持つことがわかりました。AIがしゃべると、人間っぽく思えて、信頼してしまうというわけです。

人間らしさは声に宿る

そう、お気づきになりましたか。声があると人間らしく思えるという効果も報告されているのです。シカゴ大学からカリフォルニア大学に移ったシュローダー氏は、同じ情報でも、音声付きの方が「人間によって考えられた内容だ」と評価されることを色々な実験で確かめました※3。人間が話した内容を、音声込みで聞かせる場合と、文章に起こして読ませる場合を比較したところ、音声込みで聞いたら80%の人が「これは人間が考えた内容だ」と判断した内容が、音声情報を消した文章で読んだ人では、50%が「コンピュータが考えた内容だ」と判断してしまったそうです。

シュローダー氏はさらにこんな比較も行います。動画から音声を抜いて、話の内容は字幕で見せたらどうなるんだろう?その結果、字幕動画では、音声のみを聞いた場合よりも、「人間が考えた内容だ」と感じられにくいということがわかりました。声の大事さがよくわかりますね。

ただし、読み上げソフトの無アクセントな音声では、「人間らしく思える」効果が起こらないそうなので、それなりに感情の乗った声である必要はあるようです。

シュローダー氏は、さらにさらに、この「人間っぽく思える」という効果を、意見の対立する相手への偏見解消に使えるのでは?と考えました※4。私たちは、自分と意見の違う人を、「人間らしくない」と感じがちな傾向を持っています。自分とは反対の意見を書いた文章を読もうものなら、「なんだよ、こいつ、人間味がないな」と思うわけです。ところが、同じ文章を音声で聞くと、一転して、「あれ、それなりに人間っぽいな」と感じるということが示されました。すごいですよね。立場の違う人とは、テキストを通じてよりも、声を通じての方が理解し合えるのかもしれません。

できればみなさん、この記事は誰かに読み上げてもらってください。きっと私のことを、賢く、いい人で、人間らしいと感じられることでしょう。

参考文献
1. Schroeder, J. & Epley, N. The Sound of Intellect: Speech Reveals a Thoughtful Mind, Increasing a Job Candidate’s Appeal. Psychol. Sci. 26, 877–891 (2015).
2. Waytz, A., Heafner, J. & Epley, N. The mind in the machine: Anthropomorphism increases trust in an autonomous vehicle. J. Exp. Soc. Psychol. 52, 113–117 (2014).
3. Schroeder, J. & Epley, N. Mistaking minds and machines: How speech affects dehumanization and anthropomorphism. J. Exp. Psychol. Gen. 145, 1427–1437 (2016).
4. Schroeder, J., Kardas, M. & Epley, N. The Humanizing Voice: Speech Reveals, and Text Conceals, a More Thoughtful Mind in the Midst of Disagreement. Psychol. Sci. 28, 1745–1762 (2017).