森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

フェイクニュースだとわかっているのに、シェアしてしまう人々

DX社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は、繰り返しのパワーについて考えてみます。

Updated by Yuko Morimoto on February, 22, 2023, 5:00 am JST

無意味な単語も「良い意味の単語だ」と思い込む

今回は、繰り返しのパワーについてお話ししていこうと思います。繰り返されたものに対して、私たちは「なんか好き」という気持ちを抱きます。自分はそんなに単純じゃないよ、と思われるかもしれません。さらには、繰り返し聞いた嘘に対しては、だんだん本当らしいと思ってしまうようにもなります。いやいや、これも当てはまらない、と思われたでしょうか? そして最後に、人は、繰り返しSNSで見たフェイクニュースなら、たとえフェイクだとわかっていても、他人にシェアしてしまうというのです。もう全く自分には当てはまらない!……でしょうか。さて、それぞれ見ていきましょう。

心理学では、何度も繰り返し出会う人、何度も繰り返し見た単語、何度も繰り返し聞いた音楽のことを、人は好きになってしまうことが知られています。皆さんも経験があるのではないでしょうか? 最初に聴いた時はそれほどでもないなと思った曲が、何度も聴くうちにお気に入りになったり、電車で何度も見かけた人のことがだんだん気になるようになってしまったり、なんとなく毎週観ていたアニメがいつしか良い思い出になっていたり。このような現象は、「単純接触効果」と呼ばれています。その名の通り、ただ単に繰り返し接触するだけで、ちょっと好きになってしまう!という効果です。

この効果は、ザイアンス氏が、1968年に初めて報告しました※1。外国語や、無意味な単語、知らない人の写真などを何度も見せると、一度だけ見た場合よりも「良い意味の単語だ」と判断したり、ポジティブな態度を持つようになったりしてしまうというものです。広告やCMは、消費者に商品を繰り返し接触させることで、商品を好きにさせるという効果を狙っていると考えられますね。古典的な研究ではありますが、現代の心理学研究にも、そして現実社会にも、大きな影響を持っている研究だと言えるでしょう。

流暢に処理できるものは「真実らしい」

さて、続いては、繰り返された主張は本当らしく聞こえてくる、という、こちらも非常に古典的な1977年の研究です。ハーシャー氏とその共同研究者らは、参加者に短い文を読ませ、書いてある内容が本当かどうか判断させました。例えば、「カピバラは有袋類の中で最も大きな動物である」というような文です。さて、本当でしょうか、嘘でしょうか?

こうした判断を、2週間ごとに3回繰り返します。すると、3回繰り返し読んだ嘘の文は、1度だけ読んだ嘘の文よりも、本当だと判断される割合が高くなっていました。繰り返し読むと、1度目は嘘だと思った内容でも、だんだん本当だと思えるようになってしまうというのです。(ちなみに、最も大きな有袋類はレッドカンガルーなので、上の文は嘘、ということになります。)

広告やCMは、やはりこの効果を利用しています。また、政治的プロパガンダなども、繰り返すことで、最初は嘘だと思われていても、だんだん本当らしく聞こえてくるという効果を利用していると思われます。

さて、この効果がなぜ生じるかというと、どうやら私たちは、「流暢に処理できるものは真実らしい」と思ってしまうらしいのです。言い換えれば、読んだり聞いたりするときに、なにか引っかかりがあるなら嘘、引っかかりがないなら本当、という単純さで物事を判断しているようだ、ということになります。繰り返し聞くと、最初は感じていた引っかかりが減ってしまい、その結果本当だと思ってしまう、というわけです。

ということは、です。たとえその分野の知識が十分にあっても、嘘を何度も聞くと、引っかかりが減ってしまい、本当らしいと思うようになってしまうリスクがあります。ファジオ氏らは、知識のある人でも、「カピバラは有袋類の中で最も大きな動物である」と繰り返されると、あれ? そうだったかな? と感じてしまうという結果を報告しました※2(繰り返しますがカピバラは有袋類で最大ではないですよ!)。

さて、さらに怖い話をしましょう。この繰り返しによる引っかかりの少なさは、「……というのは嘘でね」という注意が嘘の直後に行われたときでも生じます。もちろん、嘘だと聞いてすぐ、例えば30分後にはまだ嘘だと覚えています。ところが、3日も経てば、嘘だと繰り返し注意された偽情報は、1度だけ嘘だと注意を受けた偽情報よりも、真実だったように記憶されてしまうというのです※3。

つまり、あまり嘘情報について警告しすぎると、かえってその情報の信憑性が増してしまう、というわけです。しかも、この効果はお年寄りほど強いのです。テレビ世代である人たちが、テレビで繰り返し「これは嘘ですよ」と警告を受けると、かえって間違った情報を本当だと思い込むというようなケースがあるかもしれません。

繰り返されたフェイクニュースはシェアしてもいい?

SNSでも、誤情報やフェイクニュースが問題になっています。繰り返し読むことで、本当らしく思えてしまうという問題もありますし、さらに困った問題として、「繰り返しタイトルを見たことのあるフェイクニュースは、内容が嘘だとわかっていても、なんとなく他の人にシェアしても良い気がしてしまう」という効果もあるらしいのです※4。

エフロン氏とラジ氏は、フェイクニュースのタイトルを12個準備しました。そして、そのうち6個のタイトルを4回ずつ参加者に見せ、1回ごとに、興味深さ、魅力度、笑える度合い、よく書けている度合いをそれぞれ尋ねました。続いて、「最近ネット上で公開されたフェイクニュースのタイトルを読んでもらいます。このタイトルに書かれている情報は本物ではないことが確認されています」と示した上で、12のタイトル全てを参加者に見せました。参加者は、6つのタイトルについては4回すでに見ており、残りの6つについては初めて見るタイトルです。

さて、直前に「フェイクニュースだ」と注意を受けたわけですから、参加者はちゃんと嘘だとわかっていることになります。実際に、何度も見たタイトルでも、初めて見たタイトルでも、本当かどうかの判断には差がありませんでした。全部フェイクニュースだと判断できます。

ところが、そのフェイクニュースがもしSNSに流れてきたとしたら、自分がそれをシェアする可能性がどのくらいあるかについては、何度も聞いたタイトルの方が、初めて見たタイトルよりも、「シェアしてしまうと思う」という回答になっていました。そのフェイクニュースについて、「そこまで非倫理的とは言えないのでは」と感じてしまい、そのため、シェアすることへの抵抗感が低くなってしまうというのですね。

ただし、効果としてはそれほど大きくはありません。ちょっとした差ではあるようです。ただ、直前に「フェイクニュースだ」と言われていてさえ、少し「シェアしても良いかな…」と思ってしまうわけですから、フェイクニュースだと注意を受けてから時間が経っていたら、あるいは、フェイクニュースかどうかわからないまま何度も情報を受け取っていたら、人はそのフェイクニュースをシェアしてしまうリスクがもっと高いだろうと考えられます。そして、シェアされることで他の人が何度も繰り返しタイトルを見ることになり……と、フェイクニュースの繰り返しには、たしかに一定の効果があるのだろうなと思わせられます。

ちなみに、私が最もショックを受けた「繰り返されたせいで広く信じられている偽情報」は、「ビタミンCには風邪予防効果がある」でした。10年も前に、ビタミンCは風邪を予防する効果はない、という研究が報告されているらしいのです※5。思わず変な声が出てしまったのは私だけでしょうか。

追記:カピバラは有袋類の中で最も大きい動物ではありません。

参考文献
1. Zajonc, R. B. Attitudinal effects of mere exposure. J. Pers. Soc. Psychol. 9, 1 (1968).
2. Fazio, L. K., Brashier, N. M., Payne, B. K. & Marsh, E. J. Knowledge does not protect against illusory truth. J. Exp. Psychol. Gen. 144, 993–1002 (2015).
3. Skurnik, I., Yoon, C., Park, D. C. & Schwarz, N. How Warnings about False Claims Become Recommendations. J. Consum. Res. 31, 713–724 (2005).
4. Effron, D. A. & Raj, M. Misinformation and Morality: Encountering Fake-News Headlines Makes Them Seem Less Unethical to Publish and Share. Psychol. Sci. 31, 75–87 (2020).
5. Hemilä, H. & Chalker, E. Vitamin C for preventing and treating the common cold. Cochrane Database Syst. Rev. 2013, CD000980 (2013).