細野昭雄

細野昭雄

日本のIT産業は、もっと自らの付加価値をつけたオリジナルなものを作らなければならない

GAFAトレンドに追随するだけに成り下がってしまった日本のIT企業を尻目に、ジャパンオリジナルの価値で快進撃を続けているのが株式会社アイ・オー・データ機器だ。2022年にはMBOを実施し、新しいステージに突入した。「アイデアが湯水のごとく湧くのを抑えられない」という同社代表取締役会長の細野昭雄(ほその・あきお)氏に新しいサービスとその戦略を聞いた。

Updated by Akio Hosono on March, 7, 2023, 4:00 am JST

現状の日本のIT産業が抱える最大の課題は自分自身の強みを持たず、ベースを海外に依存しすぎているということ

──現状の日本のIT産業が抱える最大の課題は?

細野 自分の強みを持たず、海外への依存度が高いということでしょう。外資系プラットフォームは確かに便利かもしれませんが、今やそれらのプラットフォーム上だけでビジネスが行われ、そこから抜け出すことが難しい。昨今の円安でコスト負担が増しているITベンダーも多いはずです。それでも言いなりにならざるを得ないというのは、企業経営としては致命的ですよ。だから日本のIT産業は、もっと自らの付加価値をつけたオリジナルなものを作っていかないといけない。

加えて、クラウド系の技術者が少ないのも課題ですね。IT系大手のベテラン、あるいはOBでさえもクラウドの開発や運用の経験に乏しい。初期導入時は海外の人材に頼るのもいいかもしれませんが、やはり最終的にはしっかり運用できる日本人エンジニアを最小限維持しておく必要があるでしょう。

日本ならではの強みとITをバンドルせよ

──日本ならではの自らの価値というものを作っていけるとしたら、それはどういうものになるのでしょうか?

細野 当社の例を挙げてみます。NAS(Network Attached Storage)=ナスのRAID(Redundant Array of Independent Disk)はデータを安定して保存できますが、それらを構成する各ドライブは、経年劣化でRAID崩壊を起こす恐れがあります。RAIDは3ドライブであろうが4ドライブであろうが、ほぼ同時に同じように使うので同時に経時劣化する。

そこで当社が考えたのは、RAIDを利用しない当社独自の「拡張ボリューム」という冗長化技術です。リビルド時間を短縮し、HDDが故障した際の素早い復帰を可能にします。使いながら容量を拡張できるので、仮に容量不足になっても運用しながら簡単に増強できます。ハードディスク2台を1組のペアとみなしてファイル単位のミラーリングを行い、ペア内で稼働時間に差をつけて読み書きするというのがミソです。ペアが同時に故障する可能性が桁違いに少ない独自方式です。
このように既存のスタンダードに囚われず自らの頭で考えることにより、新しい価値を生み出すことは出来ると考えています。

日本企業の大部分を占めるのは中小企業です。IT管理者が不在の中小企業の気持ちに寄り添おうと考えた時、グローバルなサービスは日本の実情に合わない。日本オリジナルのITが周回遅れになっているのは、その辺りに起因するような気がします。みんな「グローバル」と言う言葉に惑わされているのかもしれません。外資系ビジネスを当たり前だと思って使うのではなく、自身で裁量権を持ってオリジナルなアイデアを考えるほうが遥かに楽しいと思います。しかしここまで離されてしまったら、何か別の日本の強みと組み合わせる必要があるのかな、という気もしますね。

──日本の強みの具体的な例はありますか?

細野 同じ石川県にアルム株式会社というすごい会社があります。金属加工会社へ加工プログラムを提供している会社です。金属加工という業種は、大手への依存度が高いという業界構造的な課題、多品種少量生産による生産性の低下、「金属加工は属人的」という固定観念から、自動化の遅れという深刻な問題を抱えています。そこで、アルムは“町工場がつくる製造AI”「ARMCODE1」を開発しました。加工プログラムをAIにより完全自動化が出来るものです。

図面データが「ARMCODE1」にドロップインされると、5ミクロンレベルの特殊形状の識別解析を行い、100万通りの加工条件からAIが最適解を選択し、高精度の加工を自動で行います。加工プログラム作成から、見積書の発行、作業指示書の発行までが自動化されるというのですから、すごいですよね。金属加工会社の熟練の職人技を膨大なデータとして収集し、アルム独自のアルゴリズム(AI)で分析・加工するのです。工作機械は元々日本メーカーが強い分野ですが、こうしたソリューションをプラスすることで町工場自体も強くすることができます。

当社はハードウェアメーカーではありますが、2,3年後にはモノ(ハードウェア)は他社製であろうとも、アイ・オー独自のソフトウェアソリューションを乗せることでユーザーに価値を提供できるような事業も柱に育てていきたいと考えています。アルムさんを見習うわけではありませんが。

──アイ・オー・データ機器ならではの新展開を教えてください。

細野 例えば、簡単ビデオサービス「PlatPhone」を作りました。このサービスは、面倒なアプリのインストールもアカウント登録不要で、電話番号さえあればビデオ通話が可能になります。電話番号がわからない人と会話するということはないでしょ(笑)。音声通話している状態からその人にSMSを送るだけで、すぐにビデオ通話ができます。これは便利ですよ。詳しい使い方はこちらに書いてあるので、ぜひご一読ください。これらが「ソフトウェア重視」の当社の新しいサービスになると期待しています。

さらにもう一つ「命名くん」をご紹介します。2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法で電子取引の取引情報に係る電磁的記録(データ)の保存義務が定められました。 この改正電子帳簿保存法で定められた「可視性の担保」には、電子取引情報のファイル名を検索しやすいように、一定のルールを定める等の作業が新たに発生します。

このようなファイル名の変更作業の負担を軽減するためのファイルリネーム機能と、Blu-rayへの書き込み機能を搭載した電子帳簿保存法対応アプリケーションが当社の「命名くん」です。会計ソフト自体は種類を問わないので、今お使いのアプリを変える必要はありません。

誰でも簡単に使えるように、細かいUIにも配慮しました。例えば見積書などのPDFを見ながらリネームを行おうとすると、ファイルを開いているためリネームができません。「命名くん」では、ファイルを開いて内容を確認しながらリネームできます。また、複数の担当者がリネームすることで起きる入力ゆれをなくすために、社内での共通設定を登録することができ、簡単に統一化したファイルを管理できます。そして、電子データは7年間の保存義務がありますが、「命名くん」は100年保存できるブルーレイディスク(M-DISC)に定期的に保存もできるのです。

ただし、これらもいずれ偽物が出てきたり、Windowsの標準になる可能性すらありますが、そうしたことになれば光栄なこととも言えますね。

──それにしても、このように次から次と色々なアイデアが浮かんでくる源泉はどこにあるのでしょうか。

細野 考えることが好きなんでしょうね。グローバルスタンダードなどに囚われずに自由に発想するのは、無条件に楽しい。この楽しさをぜひ他のITベンダーのみなさんと共有したいですね。特にこれからさらに巨大化するであろう膨大なデータを、自由裁量で収集・整形・蓄積・活用していきたいと考える日本企業とは、提携・連携含め仲良くやっていきたいと考えています(笑)。