薄井研二

薄井研二

(写真:GaudiLab / shutterstock

中央集権型か、分散型か。データ活用で競争を優位にする組織とは

データを活用するための取り組みは各社で始まっている。実は、データをより効率的で実践的活用するためには、組織の作り方が非常に重要なポイントとなる。現役のデータアナリストが紹介する。

Updated by Kenji Usui on November, 7, 2023, 5:00 am JST

優れた組織の構造がデータの活用を促進する

データ駆動型の経営を実現するためにデータ分析チームを新設する組織が増えてきました。データアナリストやデータサイエンティスト、データ基盤エンジニアなどデータ分析に係る人材を採用し、新たなチームとして立ち上げたという話は昨今頻繁に耳にします。

一方で、データ分析チームを組織のどこに配置にすべきかということはあまり話題になりません。どこの企業も独立したデータ分析チームとして配置されているケースがほとんどなのでしょう。果たして、それは適切な組織構造だといえるのでしょうか。

実は、組織におけるデータ分析人材の適切な配置は非常に重要です。データドリブンな意思決定を行い、事業の変化に迅速に対応するためには、事業部とデータ分析人材の連携が不可欠です。同時に、データ分析基盤やBIツールなど様々なシステムを導入し、運用していかなければなりません。そのためにデータ分析人材が能力を発揮しやすいようなアサインがなされるべきなのです。データ活用による競争上の優位性は、適切な人材配置により組織全体がデータを活用できるようになることで確保されていくのです。

それではデータ分析人材の配置はどのように考えるとよいのでしょうか?会社のビジネスモデルや組織構造によって考えるべきポイントはたくさんあります。まずはシンプルに中央集権型組織と分散型組織、そしてその2つを組み合わせたハイブリット型について考えてみましょう。

リソースを配分しやすい中央集権型組織

私が知る限りほとんどの企業で、この中央集権型の組織構造をとっています。中央集権型組織では、データ分析というジョブに対してデータ分析チームという1つの組織が割り当てられ、複数の事業部や組織を横断して分析業務にあたります。例外もありますが、原則として分析者やデータ分析基盤エンジニアなど、分析に関わる人材をこの分析チームに集めます。

中央集権型組織のメリットは、分析に携わる人材を一元管理できるため、組織で一貫した方針や計画に向けて効率よくリソースを配分できることです。組織とビジネスは常に変化するものですので、重点的にリソースを割きたい対象も変わっていきます。そのようなときに柔軟に向き先を変えながら手厚く人材をアサインすることができます。

このメリットはデータ活用を始めた段階で特に恩恵があります。初期フェーズでは人材の数が少なく分析に必要な環境も乏しいでしょう。そのような状態で人材を分散させてしまうと一向にデータ活用の実績をあげることができず、導入に失敗するような事態になりかねません。最初は実績をあげるために1つの目標に対してチームが一丸となって取り組むほうがよいでしょう。

一方で、中央集権型のデメリットは事業部とのコミュニケーションコストが高いため迅速で柔軟な意思決定が難しいことにあります。構造上、事業部と分析チームが異なる組織であるため社内受託のような状態になりがちです。そうなると素早い意思決定や複雑な課題の解決は難しくなるでしょう。また、依頼する側・受ける側というあたかも上下関係のようなものが生まれてしまい、組織の関係性に問題が起きやすくなります。これは分析者のモチベーションの低下にもつながります。

コミュニケーションしやすい分散型組織

次は中央集権型の対局ともいえる分散型組織について考えてみましょう。分散型組織では、データ分析人材を事業部ごとに配置します。それぞれの事業部と共同でデータ分析業務を進めていくのです。

分散型組織のメリットは、事業部とデータ分析人材が同じ組織にいるため密な情報連携が可能になり、素早く柔軟な意思決定ができることです。距離が近くなればコミュニケーションを増やすことも容易ですから、分析を利用した改善活動がしやすくなるでしょう。事業の細かい方針転換にも素早く対応することが可能です。

また、現場と分析者の距離が近くなることで分析人材が業務について深く理解できるようになり、現場で使いやすい分析結果を提供しやすくなります。データ分析業務ではドメインを理解することが非常に重要ですが、コミュニケーションコストが高いとそれも簡単ではなくなってしまいます。事業部と分析者が密接に連携できる環境であれば、ドメインへの理解は容易になり、より本質的な分析を行うことができるようになります。

では分散型組織のデメリットはなんでしょうか? それは組織をまたいだプロジェクトを実行しにくいため、全体最適化が難しくなることです。事業部内部で閉じるような問題であれば高速に実行できますが、組織をまたいだ問題解決には時間がかかります。また、分析人材同士の交流が減るため分析に関する知見を深めにくくもなります。

ハイブリッド型組織で現実的な解決を目指す

では、中央集権型と分散型組織型のどちらを採用すれば、データ駆動型の経営はうまくいくのでしょうか。実際のところ、組織をこのどちらかに完全に寄せてしまうよりも、2つを組み合わせたようなハイブリッドな構造を長期的に目指していくことが望ましいでしょう。

分析組織の立ち上がりはほとんどのケースで中央集権型からはじまりますので、現実的に分析組織の改変は中央集権型から徐々に分散型の要素を取り入れてハイブリット型になるという変遷を辿っていくことになります。中央集権型で事業部の依頼された分析に対応するという形から一部の事業部にメンバーをアサインして密に連携をとれるようなケースを増やしていくのは私もよく提案する進め方です。

データ活用を進めて、事業部と分析チームでデータ活用の方向性がはっきりした事業部から人材のアサインを進めることで、モデルケースができあがっていきます。うまくいきそうな場所に集中投資をするという極めて当たり前の話ではありますが、データ活用のように新しい概念を持ち込むときは、うまくいくケースを作っておくということはその後の展開において重要です。

一方で、データ分析基盤は中央集権的にデータ分析チームで一貫した指針のもと開発していくことが望ましいでしょう。分析基盤はデータの一元管理とガバナンスが重要ですので、分散するのではなく意思決定を集約したほうが会社全体としてプロジェクトを進めやすいものになります。もちろん現場とのコミュニケーションは課題として発生しますが、分析者が現場に分散して配置されている場合は分析者と協力することでその課題を解決しやすくなるでしょう。

データ活用を進めるに当たって組織構造は重要なポイントです。コンウェイの法則にあるように、組織とシステムは密接な関係があります。組織を超えたやりとりが多いため組織構造が適切なものになっていなければ機能不全に陥ります。これは分析者や事業部の担当者など個人だけではどうしようもない問題です。もし社内でデータの活用が進まないのであれば、組織構造による連携の問題が発生していないか検証してみてはいかがでしょうか。