森本 裕子

森本 裕子

(写真:BrAt82 / shutterstock

高評価を得る秘訣は、内容よりも音質!? オンライン会議最大の武器は「マイク」かもしれない

データを参照することで見えてくる人の心の意外な動き。今回は、音質が内容の評価に大きく影響するという大問題について考察します。

Updated by Yuko Morimoto on January, 16, 2024, 5:00 am JST

高音質な講演は高く評価される

コロナ禍以降、オンラインで会議をしたり、動画を撮ってウェブ上で情報提供したりすることが増えました。私自身も大学の授業を動画化してYouTubeで公開したり、Zoomで会議に参加したりすることがけっこうあります。仕事のスタイルもずいぶん変わりましたよね。

ところでみなさん、会議や動画では音質にこだわってらっしゃるでしょうか。在宅期間中にすごくいいマイクを買ったよという人もいれば、PC付属のマイクで十分なんとかなっているよという人もいるでしょう。たかが音質、されど音質。今回は音質の良さがどんなふうにコンテンツの評価に影響するかについての研究をご紹介します。

南カリフォルニア大学のニューマン氏らは、科学的な内容の動画において、音質の良さがコンテンツへの評価に影響するのかを調べようと考えました。YouTube上にアップロードされていた物理学と工学の学会講演の動画を1本ずつ選び、音声にフィルターをかけます。エコーを取り除き、話を聞き取りやすくした高音質バージョンと、エコーをかけて話を聞き取りにくくした低音質バージョンです。果たして、音質の違いは動画コンテンツへの評価に影響するのでしょうか?

結果ははっきりしていました。高音質な動画を見た参加者の方が、低音質な動画を見た参加者よりも「良い講演だった」と評価していたのです※1。ちなみに講演者に対する好感度も話されていた研究の重要度も、高音質な場合の方が高く評価されていました。違いは音が聞き取りやすいかどうかだけなのに、研究の重要度評価も異なってしまうとは!なんとも理不尽な話です。

ニューマン氏は続いて、サイエンスフライデーという科学ラジオ番組内で研究者にインタビューをしている音声を使って、同じことを試してみました。この時は、高音質な音声は番組で流れたそのままの音声、低音質な音声には、電話の音が悪い時のようなノイズを乗せました。

結果は同じです。高音質なインタビューを聞いた人の方が、インタビューを受けた研究者の研究は優れていて、研究者は有能であったと回答していました。また、インタビュー自体も良かったと感じられており、SNSでシェアしたいと回答されていました。別の研究でも、高音質で研究を紹介した動画の方が、低音質の動画よりも実際にSNSやブログなどでシェアされやすいことが報告されています※2。聞き取りやすい音声だったというだけで、研究内容も研究者自身も、インタビューも良かったと思われ、他人と共有してもらえるわけですから、音声の良さがいかに重要かがわかります。

法廷における証言の信憑性は、高音質で高くなる

さて、研究への評価くらいであれば可愛いものですが、法廷での証言にもこの高音質低音質の影響があるとしたらどうでしょうか。日本では、平成12年に刑事訴訟法が改正された結果、証人が法廷にいなくても、裁判所内の別室からビデオカメラを通じてマイク越しに尋問を受けることが認められています。音質の良さが証言や証人への評価に影響するとしたら……大問題ではないでしょうか?

オーストラリア国立大学のビルド氏らは、参加者に陪審員として法廷で子どもの証言を聞いているつもりになるように教示し、2分間ずつ、2つの音声を聞かせました。10歳または11歳の子どもが映画に行った話をしている音声、または、お医者さんの問診を受けている音声です。参加者ごとに、映画館の話の音質が悪い条件と、問診の音質が悪い条件がありました。もちろん、音質以外の内容はまったく同じです。

証言の内容は同じだったにもかかわらず、子どもの話の真実らしさや、事実に基づいている程度、正直に話しているかどうかという評価は、証言を高音質で聞いた場合の方が高くなっていました※3。また、高音質な場合の方が、子どもの証言内容もよく覚えられていたことがあわせて示されています。

高音質で聞いた証言に引っ張られた判断

ビルド氏はさらに、より現実的な法廷に近い状況での音質の効果を調べました。まず参加者に危険運転についての文章を読ませ、どの程度有罪だと思うかを判断してもらいます。内容は、下校時間に学校の外で子どもが他の保護者の車で轢かれたというものでした。参加者は、子どもが道路に飛び出したときに車からどのくらい距離があったかについて、弁護士側の証人と検察側の証人の証言をそれぞれ聴きます。弁護士側の音質が良い条件と、検察側の音質が良い条件で、評価に影響はあるのでしょうか。

この実験でもやはり、音質のいい方の証言の方が信用されるという結果になっていました。ここで問題なのは、有罪の判断にも影響するか、です。文章を読んだ段階での有罪判断に比べ、証言を聞いたあとの有罪判断は、高音質で聴いた証言の方に引っ張られていました。高音質で弁護側証言を聞いた人は、文章を読んだときよりも無罪の方へ、高音質で検察側証言を聞いた人は有罪の方へと判断を変化させていたのです。

マイクにはこだわった方がいいかもしれない

音質が研究の信頼性や証言の信憑性の評価に影響するというのは、単純なようで、けっこう重要な問題ではないかという気がします。証言はなるべく高音質で法廷に届くようにした方が良いだろうし、就職面接を受けるときにはマイクにも気を遣った方が良いかもしれないし、オンライン会議では音声のいい環境の方が説得力が増すかもしれません。

ちなみに私はコロナ禍に入ってすぐ、大学の授業と研究の会議のために良い音質のマイクを購入しました。ところが、自分ではあまり違いを感じないので半分眠ったままになっています。さてさて、音質が良いとなにかいいことがありそうなので、引っ張り出して使ってみましょうか。私の発言力が上がったとしたら、きっとマイクのおかげでしょうね。

参考文献
※1. Newman, E. J. & Schwarz, N. Good Sound, Good Research: How Audio Quality Influences Perceptions of the Research and Researcher. Sci. Commun. 40, 246–257 (2018).
※2. Ferreira, M. , Lopes, B. , Granado、 A. , Freitas, H. & Loureiro, J. Audio-Visual Tools in Science Communication: The Video Abstract in Ecology and Environmental Sciences. Frontiers in Communication 6, (2021).
※3. Bild, E. et al. Sound and credibility in the virtual court: Low audio quality leads to less favorable evaluations of witnesses and lower weighting of evidence. Law Hum. Behav. 45, 481–495 (2021).