Kaede

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(写真:PradeepGaurs / shutterstock

市場のポテンシャルと関税がカギに。インドがiPhoneの一大生産拠点になる理由

2023年12月、アップルは今後2~3年の間は年5000万台以上のiPhoneをインドで生産することを発表した。これにより今後数年間は、世界のiPhoneの4分の1がインドで生産されることになる。新たな生産拠点としてインドが選ばれた理由がなぜか。インド在住のKaede氏が紐解く。

Updated by Kaede on January, 30, 2024, 5:00 am JST

日本の定番土産は iPhone 

「日本でiPhoneを3台購入したよ。家族に頼まれてね」
日本へ出張に行くインド人の同僚や友人から、頻繁にこうした話を聞く。日本のAppleストアでは多くの外国人を見かけるが、そのなかにはインド人の観光客らしき人も少なくない。

なぜ日本でわざわざiPhoneを購入するのか。理由は、インド国内でiPhoneを購入すると高い輸入関税により高額になるからである。インドでは国内製造促進策により高額な輸入関税が掛けられるため、日本でiPhoneを購入するほうがお得なのである。例えば、iPhone 15シリーズの価格を比較すると、iPhone 15 Proの価格は、インドでは 134,900 ルピー(約235,576円)、日本では159,800円であり、インドでの価格は日本の1.5 倍である。

日本だけでなく、アメリカや東南アジア、ドバイなどで、インドの人々がiPhoneを購入するのも一般的である。出張や旅行の際に購入する、または外国に住むインド人の友人や親戚に購入してもらうのである。

インド国内では、 iPhone市場が急拡大している。これまで、インド国内のスマートフォン市場は、アンドロイドOSをベースにしたスマホが圧倒的に強かった。インドの人々の購買力が向上し、アッパーミドルクラス層や富裕層を中心に、 iPhoneユーザーが増えているのだ。

インドでは最新モデルは生産されていなかった

2023年12月、アップルは今後2~3年の間に年5000万台以上のiPhoneをインドで生産する計画を発表した。今後数年間で、世界のiPhone生産の4分の1はインドで生産される。

2022年度(22年4月~23年3月)時点で、全世界のiPhone生産のうち、インド製 iPhoneの割合は7%だったが、2024年度には18%まで拡大すると見込まれている(※1)。アップルは、iPhone を含む自社製品の9割を中国で生産してきたが、インドに生産拠点をシフトしようとしている。

アップルは2017年の時点で既にインドでのiPhone製造を開始していたが、iPhone SEなど旧モデルに限定されていた。しかし、インドにおける生産力の強化、新モデル機種の市場の拡大により最新機種の製造が推進され、2023年9月には最新モデルのiPhone 15が発売当初からインド製モデルとして市場に出回った。

現在、インド国内にはiPhoneの生産拠点が2か所ある。インド南部タミル・ナドゥ州では2017年から鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のフォックスコンが、インド南部のカルナータカ州では2023年からウィストロンが生産を開始している。同社は、2023年10月にインド現地のタタ・グループに買収された。

「ゼロコロナ政策」の影響を受け、中国以外の拠点が必要に

アップルはインドを「チャイナ・プラス・ワン」と位置づけ、生産拠点を拡大するための場所として利用してきた。

(写真:PradeepGaursO / shutterstock

アップルは過去15年にわたり自社製品のほぼ全てを中国で生産してきたが、2022年11月に従業員と当局が衝突する出来事が起きた。約20万人の従業員を擁する中国河南省のフォックスコンの工場が、中国政府の「ゼロコロナ政策」によるロックダウンの影響を受けて、7日間にわたり封鎖されたのだ。これにより、iPhone 14 Pro/Pro Maxの供給には大幅な遅れが生じた。

こうした中国拠点に依存した生産体制のリスク分散化、サプライチェーンの多様化を狙い、アップルはインドでのiPhone生産を強化することにした。さらには、インドで製造拠点を強化すれば、インド国内市場で需要を成長させられる可能性もある。

インドのiPhone市場も急拡大

インドではこれまで、アンドロイドOSのスマホが圧倒的なシェアを占めていたが、このところiPhone のシェアが伸びている。

2022年、インドにおけるスマホ市場は、アンドロイドが 95% を占めていた。iPhoneのシェアは、2019年でわずか1%だったが、2023年は6%にまで伸びている。(※2)

インドは、出荷台数と販売台数ともに世界第2位のスマホ市場であり、そのシェアは約12%に上る。それでもインド国内でのスマホ普及率は50%未満である。

これまでインドでは、アンドロイドOSをベースとする中国ブランド(One Plus, シャオミなど)の低価格スマホが、圧倒的なシェアを占めてきた。2022年時点で、インドでのスマホ価格は平均206ドル、対してiPhoneは898ドルである。しかし、インドの消費者の購買力向上の流れとともに、iPhone のシェアが年々伸びてきた。アッパーミドルクラスや富裕層を中心に、アンドロイドスマホからハイエンドブランドのiPhoneに買い替える人が多い。

インドでのiPhone生産に合わせて、価格はさらに下がる可能性があり、Appleにとって未開拓の巨大市場であるインドには、製造拠点として戦略的に投資が進められると見込まれる。

「インド国産」へのプライド

インドには「インド国産」の製品にプライドをもち、品質が良ければインド国産の製品を好んで購入する消費者が多い。インド財閥マヒンドラ・グループ会長のアナンド・マヒンドラ氏は、インド国産のiPhone15を保有しており、「誇りに思う」と公表したことで話題になった。

筆者の周りでも、アンドロイドからiPhoneにアップグレードする人が多く、「Made in India」のiPhone最新機種を購入したい、という声を聞く。

アップル以外にも、スマホ生産の拠点としてインドに投資する動きが進む。2023年10月、Googleも2024年以降、同社製スマートフォン「Pixel」最新モデルの一部をインドで生産すると発表した。2024年以降、最新モデルのPixel 8からインドでの生産を始め、2024年に市場に投入される予定だという。

韓国サムスンも、2018年からスマホブランド「Galaxy」の生産をインドで行っている。インドの工場で主に生産されるミドルレンジ以下のモデルは、主にインドがメイン市場である。輸入税をカットするためにも、インドでの現地生産、販売に注力している。

現在、インド国内でのiPhone最新機種の価格は、インド国外と比べてあまり大きな差がない。しかし、インドでiPhoneやPixel最新機種の生産台数が伸びていけば、インド国内市場向けに価格が下がる可能性もある。

これまで、インドの人々は「国内で購入するよりお買い得に」スマホ最新機種を外国で購入していた。今後、状況が逆転して、インド国内で「インド国産」の最新機種を購入する日も、そう遠くないかもしれない。

参考文献

※1 Apple’s Make-In-India Push; May Shift 18% iPhone Production to India by FY25 | Mint Primer
※2 調査会社カウンターポイント・リサーチによる
グーグル、Pixel 8をインドで生産へ アップルなどに続き | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
「iPhone 15」のインド生産、受託製造フォックスコンが開始-関係者 – Bloomberg
中国からインドへのシフトを進めるアップルiPhone|2023年 -野村総合研究所
インドへのiPhone生産移管進む、「15」は当初から市場投入(インド) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
Why Apple Is Manufacturing The iPhone 15 In India – Forbes
iPhone 17 may be developed in India from 2H 2024, says Apple analyst – The Economic Times