森本 裕子

森本 裕子

(写真:Mehaniq / shutterstock

すました表現は損をする?クソ汚い言葉遣いの意外すぎる効力

絶対に伝えたいメッセージを伝えるときには、マナーに則った的確な言葉遣いをやめた方がいいのかもしれません。オンライン上のコミュニケーションでも役立つ心理学を紹介します。

Updated by Yuko Morimoto on February, 6, 2024, 5:00 am JST

汚い言葉遣いの人は正直者?

ビジネスマナーを実践してらっしゃる方は、大事な取引先へのメールには「マジでお世話になりました」とはなかなか書けないことでしょう。もちろん私も書きません。「大変お世話になりました」とか「誠にありがとうございました」とか、そんなところでしょうか。ところでご友人に送るメールではいかがでしょうか。「マジ助かったわー」などと、少し崩れた言葉遣いをされることもあるのではないかと思います。

さて、取引先へのメールと友人へのメール、どっちが「本音」ですか?

そりゃもちろん、友人へのメールですよね。くだけた言葉遣い、もうちょっと言うと、汚い言葉遣いの方が、その人の正直な気持ちを反映しているのではないか、と考えたのは、マーストリヒト大学のフェルドマン氏たちです。

フェルドマン氏らは、参加者が日常的にどれくらい汚い言葉を使っているかと、参加者の正直さとの関係を、ウェブ調査で調べました。その結果、普段から汚い言葉をよく使っている人ほど、正直さも高いという結果になっていました※1。

これはなかなか興味深い結果です。日常的な感覚では、汚い言葉遣いの人は信用されないという方がしっくりくるのに、実は汚い言葉遣いの人の方が正直者だというのです。

政治のクリーンさと汚い言葉遣いの関係

フェルドマン氏はさらに、Facebookの投稿内容を分析して、投稿内容の正直さと言葉遣いの関係を調べます。正直な人ほど一人称代名詞(私)や三人称代名詞(彼女、彼ら)をよく使い、動きを示す動詞(着く、行く)をあまり使わないという研究※2 をもとに、参加者が書いた直近のFacebook投稿内容の正直さを推定します。同時に、投稿に含まれる汚い言葉(damn、fuck、pissなど)の割合を求め、正直さとの関係を調べました。すると、やはり投稿内に汚い言葉が含まれている割合が高いほど、その投稿の正直さが高いと評価されることが示されました。

フェルドマン氏が最後に行ったのは、アメリカの州ごとの政治のクリーンさと、その州に住む人のFacebookでの言葉遣いの汚さの関係を調べることです。その結果も、上記のデータと一致していました。客観的な指標でクリーンな政治システムだと評価されている州ほど住人の言葉遣いが汚かったというのですから、面白い話ですよね。

「この洗濯機はガチでクソうるさい」と書く方が信用される

さて、汚い言葉が使われているほど書き手が正直なのだとしたら、その文章を読んだ人に対しても、汚い言葉遣いの方が「きっと本当のことが書かれているのだろう」と思わせることができるのでしょうか。

これを調べたのがアルバータ大学のラフレニア氏らです※3。ラフレニア氏は、AmazonとYelpのオンラインレビューデータを分析し、汚い言葉の使用とそのレビューが「役に立った」と評価されるかどうかに関連があるかを調べました。たとえば「この洗濯機はガチでクソうるさい」と書かれたレビューと、「この洗濯機は本当にとてもうるさい」と書かれたレビューの、どちらが「役に立った」と評価されやすいのか調べたわけです。

結果はすでになんとなくお分かりではないでしょうか。AmazonでもYelpでも「この洗濯機はガチでクソうるさい」というような汚い言葉で書かれたレビューの方が、より役に立ったと評価されていました。たしかに汚い言葉遣いの方が「本当の」情報が書いてある気がしますよね。

ラフレニア氏は、さらに具体的に検討を進め、「この急速充電器は充電がクソ速い」と書かれたレビューと、「この急速充電器は充電が速い」と書かれたレビューでは、「クソ」の入ったレビューの方が、レビューを書いた人の感情の強さが表れていると感じられること、また、充電が本当に速いんだろうなと思わせることができることを示しています。

つまり、汚い言葉遣いの方が、レビュアーの心情も、書かれた内容も、どちらの信憑性も高いと思わせることができる、ということになります。

犯罪を証言する場合はどうか

さてさて、信憑性が大事になるといえば、証言です。エラスムス大学のラッセン氏らは、汚い言葉を使うかどうかで、証言の信憑性が変わるかを調べました※4。具体的には次のような文章を読ませ、容疑者が無実だと信じる程度を回答してもらいました。

刑事「もう一度聞くぞ。お前は先月ハヴェン通りで起こった強盗事件に関与しているのか?」
容疑者「いいや…ちくしょう。もう何度も言ってるが、俺は無関係だ。これはなんだってんだ?このクソみてぇな部屋にもう2時間もいるんだ。家に帰してくれ。じゃなきゃ弁護士と話をさせてくれ。なんてこった、クソが」

比較されたのは次のバージョンです。

刑事「もう一度聞くぞ。お前は先月ハヴェン通りで起こった強盗事件に関与しているのか?」
容疑者「いいや。もう何度も言ってるが、俺は無関係だ。これはなんだってんだ?この部屋にもう2時間もいるんだ。家に帰してくれ。じゃなきゃ弁護士と話をさせてくれ。なんてこった」

さて、どっちのバージョンの方が、容疑者が無実っぽいですか?

この研究でもやはり、汚い言葉遣いの容疑者の方が、より無実だと思われるという結果になっていました。続いて検討されたのは、被害者の証言の場合です。2つのバージョンを比較してみましょう。

刑事「Xさんに対する訴えの内容をもう一度伺えますか?」
被害者「さん付けなんて必要ありませんよ。あの野郎は私のカバンを引っ掴んで逃げたんです。私がカバンを離さなかったもんだから、何メートルも引きずられました。ちくしょう。ツケを払うべきなのはあのクソ野郎だ」

刑事「Xさんに対する訴えの内容をもう一度伺えますか?」
被害者「さん付けなんて必要ありませんよ。あの男は私のカバンを引っ掴んで逃げたんです。私がカバンを離さなかったもんだから、何メートルも引きずられました。ツケを払うべきなのはあの人だ」

被害者の場合もやはり、汚い言葉遣いの証言の方が信憑性が高いと評価されていました。読み比べると、たしかに汚い言葉遣いの方が本当の話に見えてしまいますね。

ということで、ここまで読んでいただいてありがとうございました。クソ感謝申し上げますので引き続きよろしくお願いいたします。

参考文献
※1. Feldman, G. , Lian, H. , Kosinski, M. & Stillwell, D. Frankly, We Do Give a Damn: The Relationship Between Profanity and Honesty. Soc. Psychol. Personal. Sci. 8、 816–826 (2017).
※2. Newman, M. L.、 Pennebaker, J. W. , Berry, D. S. & Richards, J. M. Lying words: predicting deception from linguistic styles. Pers. Soc. Psychol. Bull. 29, 665–675 (2003).
※3. Lafreniere、 K. C. , Moore, S. G. & Fisher, R. J. The Power of Profanity: The Meaning and Impact of Swear Words in Word of Mouth. J. Mark. Res. 59, 908–925 (2022).
※4. Rassin, E. & Heijden, S. V. D. Appearing credible? Swearing helps! Psychol. Crime Law 11, 177–182 (2005).