中村航

中村航

1950年代撮影。電動ソリに乗るイヌイットの男性。電動ソリの登場は彼らの生活を根本から変えた。犬ぞりが徐々になくなり、ガソリンを買うために現金を稼ぐように。そこから毛皮の乱獲が始まった。

(写真:佐藤秀明

新世代のアスリートを育むメタバース

前回の記事では、中村氏はブロックチェーンの可能性に注目した。ブロックチェーンとも関わりが深く、スポーツ界が活用を模索しつつある分野に「メタバース」がある(メタバースという言葉の定義はまだ使用者によってまちまちではあるが、ここでは一般的な「3次元の仮想空間」と定義する)。フェイスブックが「Meta」に社名を変更したことで一躍注目を集めているメタバースだが、スポーツ界では観戦からトレーニング、ファンサービスまで幅広い側面での応用が期待されている。そこで、今回はスポーツ界におけるメタバースの活用について、いくつかの事例を紹介しながら考察する。中でも、トレーニングにおける活用に注目した。

Updated by Wataru Nakamura on February, 3, 2022, 8:50 am JST

トレーニングにメタバースを活用するメリット

スポーツのトレーニングに仮想空間を活用することのメリットの1つは、フィジカルコンタクトがないため怪我の可能性が低いということだろう。当然ながら、新型コロナのような感染症が選手間で広がるといった心配もない。コンタクトがなければリアルな感覚がないようにも思えるが、Rezzilを含めて多くのVRアプリは触覚フィードバック技術で物体との接触感覚を再現しており、よりリアルな感覚をもたらす「VRグローブ」のようなデバイスも次々に登場している。もちろん、現実の練習を代替できるレベルになるのは遠い将来の話かもしれないが、「Player 22」のヘディング練習のような、特定の技術の習得や改善を目的にしたトレーニングへの利用価値は高いのではないだろうか。

一方、仮想空間では試合や大会における様々な状況をシミュレーションできるというメリットもある。トップレベルのスポーツ選手が試合前にイメージトレーニングでメンタルを整えることは一般的かもしれないが、VRを使えばより臨場感の高いトレーニングも可能だ。たとえば、メジャーリーグのオークランド・アスレチックスでは、対戦チームのピッチャー対策にVRを活用しているという。同チームが利用する米テキサス州のWIN Reality VRという企業のVRプログラムは、打者がVRヘッドセットを使って対戦投手との打席をシミュレーションできるというもの。打者は相手の球速や投球動作、リリースポイントなどを体感でき、特に初対戦の投手に備える際に大きなメリットがあるという。
また、2022年の箱根駅伝では青山学院大学が圧倒的な強さで優勝したことが記憶に新しいが、同大学の練習拠点には、箱根駅伝や東京マラソンなどのコースでのランを疑似体験できる特製のトレーニングマシンが導入されているという。

競技自体がメタバースに移行される未来も

個人的には、ジム通いに飽きて日常的に「リングフィットアドベンチャー」や「フィットボクシング」のようなフィットネスゲームを運動不足解消に利用していることもあり、仮想空間でのスポーツのトレーニングが一般的になったとしても不思議ではない。あるいは、モーションキャプチャーなどのセンサー技術がさらに発展すれば、トレーニングに限らず、既存の競技の一部がメタバースに移行したり、メタバースを舞台にした新たな競技が人気を博すのも遠い未来の話ではないかもしれない(最近ではARやVR、ドローンなどのテクノロジーを活用した「テクノスポーツ」という言葉も生まれている)。そうなれば、スポーツとeスポーツの境界はますます曖昧なものになっていくだろう。

参照
【Sports Promedia】Manchester City become first soccer club to feature in Rezzil’s Player 22 VR training app
【SPORTTECHIE】VR Training Platform Rezzil Adds Manchester City as First Soccer Club Partner
【SPORTTECHIE】Rezzil Enables Athletes to Train—and Relive Games—in Virtual Reality Environments
【REZZIL】
【MLB】Olson, A’s utilizing VR to prepare for at-bats
Win reality】
【青山学院大学】NEWS 『GMOバーチャルジム』の納入セレモニーが行われました