今井明子

今井明子

海を見る人々。サーファーも波を観察している。サーフィンは南アフリカの国技だ。

(写真:佐藤秀明

1週間先を見通せない理由

天気予報は複雑な数式を使って算出している。しかしその計算は万能ではない。特に数日先の予報ともなると、計算結果がばらばらになることもある。1週間先ともなればなおさらだ。そもそも、天気予報とはどのように出しているのだろうか。私たちは情報をどのように活用すべきなのだろう。気象予報士の今井明子氏が解説する。

Updated by Akiko Imai on April, 20, 2022, 8:50 am JST

週間天気予報がくるくる変わっていく理由

行楽シーズンになると、屋外のイベントを計画したり、参加したりすることが増える。そんなときに気になるのが天気である。特に、春や秋のような過ごしやすい季節は天気が周期的に変わるので、イベント当日に雨や強風などの荒れた天気になると最悪である。屋外だから、天気によっては中止や延期を判断しなければいけない。だから、イベントの主催者や参加者はイベントの日が近づくと、週間天気予報とにらめっこするものだ。

しかし、毎日のように週間天気予報をチェックしていると、気づくことがある。それは、先のほうの予報は結構コロコロ変わっていくということだ。

自分の話になってしまうが、今年の3月下旬に子どもの春休み遠足の予定があった。雨天順延のため、1週間前から気象庁や民間気象会社の予報を見比べ、にらめっこしてきた。気象庁の予報では、1週間前までは曇り時々晴れで、民間気象会社では雨の予報が出ていた。「どうか晴れてほしい…」と気象庁の予報を信じたい気持ちでいっぱいだったが、遠足の日が近づくにつれて、気象庁の予報も雨混じりに変わり始めた。そして前日には、どこも曇りのち雨の予報に変わった。主催者の意向で遠足は決行となったが、結局当日は15時ごろまでは曇りで、その後は雨であった。

なぜ、このように週間天気予報の先の日程の予報は変わっていくのだろうか。それは、天気予報のもとになっている数値予報というコンピュータで計算された値に限界があるからなのだ。

数値予報の計算は、地球を格子状に区切って行う。格子の間隔は予報の種類によっても違うが、2~20km程度である。しかし、直径20kmよりも小さい雲は存在するので、現実よりも解像度が粗い前提で計算していることになる。しかし、解像度を高めようとすると、それだけ計算量が膨大になって、予報したい時刻に予報が間に合わなくなる。だから、地球全体の予測を行う場合は、ある程度解像度を粗くせざるを得ないのである。

図解01
全球の大気を格子で区切ったイメージ。出典:気象庁HP

コンピュータで計算を始めるためには、地球上の格子の交差する点(格子点)のところに気温や気圧、湿度や風などの値(初期値)がないといけない。しかし、地球上にまんべんなく観測地点があるとは限らない。陸地よりは海のほうが観測網が粗くなるし、発展途上国は先進国に比べると観測設備を設置しにくい状況だからだ(ただし、気象衛星からの観測データがその観測地点の偏りをある程度カバーしている)。

そして、 観測値自体も正しいとは限らない。観測器が故障するなど、何らかの原因で正しく観測できなかったかもしれないからだ。だから、初期値は観測値をそのまま使うのではなく、明らかに間違った値を排除して、不均一に分布した観測点からの観測値を、均一に分布した格子点で観測したかのような値に修正しなければいけない。こうやって初期値が作られるのである。

さらに、コンピュータでの計算では、大気の振る舞いの複雑さを再現しきれない。だから、数値予報ではたとえ初期値がほんの少しだけ違ったとしても、時間の経過ごとに計算結果に大きな隔たりが出てしまう傾向にある。それで先の予報ほど当たりにくくなるのだ。

そこで、週間予報では「アンサンブル予報」という別の手法も使って、誤差の拡大を防ぐようにしている。アンサンブル予報とは、ある時刻にほんの少しずつ異なる初期値を用意し、それぞれの結果の平均やバラつきの程度などから、将来最も起こりやすい現象を予報するというものだ。

ちなみに、気象庁ホームページにある週間天気予報には、気温の下に( )で囲まれた幅のある気温の数値が表示され、ABCで分類された「信頼度」という項目もある。気温の幅はアンサンブル予報によって出された値の幅を示し、信頼度はアンサンブル予報の結果のばらつきが小さければA、大きければCとなる。もし、1週間後の天気を見て「雨」と表示されていても、信頼度が「C」とついていれば、当日が近づくにつれて雨マークが消える可能性がある。

台風は日ごとに大きくなっていくのではない

アンサンブル予報が使われるもうひとつの予報が、台風の予報である。台風が近づいたときに、テレビなどで表示される台風の進路予報には、24時間後や48時間後の台風の位置とともに、円が描かれているのを目にするはずだ。これは予報円といい、中心がその縁の中に入る確率が70%以上ということを示すものである。

図解02
出典:気象庁HP

この予報円は、下の図のような進路に関するアンサンブル予報の結果、中心が通る可能性が高いところを円で囲んでいるのだ。

図解03
出典:気象庁HP

台風の進路予報は、先のほうの予報円が大きく表示されている。これを見ると、一瞬「わあ、3日後には台風はこんなに巨大化するんだ!」と思ってしまいがちだが、そうではない。先ほども述べたが、台風の予報円は中心がその中に入る確率が70%以上ということなので、予報円が大きくなればなるほど予測される進路にばらつきが出ているということなのである。先のほうの予報ほど予測結果がばらつくので、予報円は大きくなりがちなのである。

なぜだかわからないが、やたらと晴れる日がある

さて、話は変わるが、テレビの天気予報で「今日は晴れの特異日です」「台風の特異日です」などという言葉を耳にしたことはあるだろうか。

特異日というのは、特に根拠ははっきりとしていないのだが、毎年なぜかその地域で、前後の日と比べるとその日は決まった天気になりやすいというものを指す。
たとえば、「晴れの特異日」「花冷えの特異日」「雨の特異日」「猛暑の特異日」「台風の特異日」などが挙げられる。

晴れの特異日として知られているのが、11/3の文化の日。そして台風の特異日として知られているのは9/26で、洞爺丸台風伊勢湾台風が上陸した日でもある。なお、10/10は1964年の東京オリンピックの開会式が開かれた日ということもあり、「晴れの特異日だからこの日になったのではないか」とまことしやかに言われているのだが、実は晴れの特異日ではない。

このような特異日は、過去数十年のデータを見ると特にその傾向が強いとされているものだが、なぜそうなるのかははっきりとわかっていない。

科学的な根拠はまったくないが、なぜ特異日が存在するのかを私が妄想半分で考察すると、これは「春分の日など、1年の決まった日だけに迷宮の、石造りの壁のある一つの石に光が当たる。その石を押すと寄木細工のからくりのように石が動いて、隠れた通路が出現する」みたいな感じなのではないかと思っている。なんのこっちゃと思うかもしれないが、「1年のある日」というのは、太陽がある決まった位置から地球を照らすということである。その太陽の照らし方が、独特の気圧配置を作り、それが「なぜか決まってこの日は晴れやすい」となるのではないか。もう一度念を押すが、これはあくまで根拠のない妄想にすぎないので、話半分に聞いてもらいたい。しかし、個人的には誰かに真面目にこれを究明してほしいと思っている。

人が計算式を駆使して割り出す予報にも限界があるが、逆に「なぜだかわかってはいないが、決まってこの日は晴れる」というものもある。
そう考えると、やはり気象はまだ解明されていないことが多い分野なのだと実感させられるのだ。