今井明子

今井明子

土砂降り。京都の古い町家の長屋で雨宿りをした。

(写真:佐藤秀明

大雨が降り続けるとき、何が起こっているのか

今年は地方によっては梅雨明けしたという速報が入ったが、雨に注意しなければいけない季節はこれからしばらく続く。特に梅雨から秋の初めにかけては集中豪雨が発生しやすく、災害のニュースを耳にすることもある。大雨が降り続くとき、そこでは何が起こっているのか。身を守るために参照すべきデータは何か。気象予報士の今井明子氏が解説する。

Updated by Akiko Imai on June, 28, 2022, 9:00 am JST

夕立が1時間で降り止む理由

梅雨の後半や台風シーズンになると、土砂降りの雨が何時間も続き、ときには雷を伴うこともある。このように長く降り続く大雨のことを「集中豪雨」という。
この土砂降りの雨をもたらすのは、雷雲とも呼ばれる積乱雲である。積乱雲は強い上昇気流によって発生する、とても背の高い雲である。雲の正体は小さな水や氷の粒であり、氷の粒が水蒸気を取り込んで雪の結晶として成長したり、水の粒同士でぶつかって大きくなったりすると、そのうち落下する。これが雨や雪である(なお、雪が落下の途中にとけると雨になる)。積乱雲は背が高く、雲のてっぺんから底までの距離が長いので、落下する間に雨粒が大きく成長しやすい。だから、土砂降りの雨が降るのだ。

ちなみに、夕立も集中豪雨も、積乱雲によるものだ。しかし、夕立は30分~1時間程度でやむのに対し、集中豪雨は何時間も降り続く。この違いはいったい何なのだろうか。

実は、ひとつの積乱雲の寿命は30分~1時間程度である。これは、積乱雲は強い上昇気流によって発達するが、雨が降りだすと雲の中に下降気流が発生し始め、これが上昇気流を打ち消すからだ。上昇気流がなくなれば雲が発達できなくなり、消えてしまう。夕立の雨が30分~1時間ほどでやんでしまうのは、ひとつの積乱雲の寿命がそのくらいの時間だからなのだ。

集中豪雨はなぜ起こる?

積乱雲の寿命は短いはずなのに、集中豪雨はなぜ長時間続くのだろうか。それは、寿命が短いはずの積乱雲が、同じ場所で発生し続けるからである。たとえば、地表付近を吹く暖かく湿った風が、山に向かって吹き続けた場合、同じ場所で上昇気流が発生し続ける。すると山の斜面では積乱雲が発生し続け、大雨が続く。

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四万十川では夕立を「サダチ」という。サダチが来たら畔を切れという諺がある。田に雨水がたまらないように。それほどまでに激しく降る。

もしくは、積乱雲のもととなる地表付近の温かく湿った風と、積乱雲を動かす上層の風が同じ方向に吹いているとする。最盛期を迎えた積乱雲から冷たい下降気流が吹き出し、それが温かく湿った風と出会うと、暖かく湿った空気が上昇して、あらたな積乱雲ができる。そして、もともとそこに存在していた積乱雲は、上層の風に流されて移動する。すると、上空の風が吹く方向に積乱雲が列をなして並んだような状態になり、同じ場所で積乱雲の雨が降り続きやすいのだ。

なお、このように積乱雲が列をなして並ぶ現象のことを「バックビルディング現象」といい、レーダー画像で見ると、赤や紫などの強い雨が降っているエリアが線のような形で表示される。そして、線のような形の強い雨のエリアのことを「線状降水帯」という。この言葉は最近大雨の季節になると、耳にすることも多いのではないだろうか。

恐ろしいのは洪水だけではない

集中豪雨が発生すると、災害も発生しやすい。大雨による災害と聞いてまず頭に思い浮かぶのが、洪水ではないだろうか。特に集中豪雨では、河川の増水によって堤防が決壊したり、水が堤防を越えてあふれたりしやすい。その結果、建物に浸水することもある。川に流されて命を落とすこともあれば、家に住めなくなったり、大切なものが汚れた水で破損したりすることもある。

大雨は河川の氾濫による洪水や浸水だけではなく、土砂災害をもたらすこともある。大雨が降り続くと、土が水を吸った高野豆腐のようにジュクジュクになり、崩れやすくなるからだ。

土砂災害には「がけ崩れ」「地すべり」「土石流」の3種類がある。がけ崩れは、急こう配の斜面が突然崩れ落ちる現象だ。前触れがないので、人家の近くで発生すると逃げ遅れて死亡することが多い。

地滑りは比較的ゆるやかな斜面がゆっくりと滑り落ちる現象で、こちらは亀裂や樹木の傾きなどの前触れがあるので、がけ崩れに比べれば避難はしやすいものの、建物や土地などに大きな被害が出るほか、川をせき止めて洪水をもたらすこともある。

そして土石流は、山腹や川底の石などが雨によって一気に下流まで押し寄せる現象だ。速度は時速40km程度と自動車並みに速く、破壊力がとても大きい。2016年に発生した西日本豪雨では、広島県で100人以上と近年まれにみる多さの死者が出た。このとき発生した土砂災害も、土石流である。

何ミリの雨が降ると危険なのか

このように、集中豪雨はさまざまな災害をもたらす。では、集中豪雨が発生しそうなとき、どうすれば命を守る行動をとれるのだろうか。よく、大雨が降りそうなときは。ニュースで「〇〇地方で〇〇ミリの雨が降る恐れ」などと報道される。ここでよく聞かれるのが、「じゃあ何ミリの雨が降れば危険なの?」ということだ。

これは答えるのが難しい。というか、「わからない」としか答えられない。というのも、同じ1時間に30ミリの雨でも、普段からその程度の雨が降る場所もあれば、めったにそこまで降らない場所もあるからだ。また、地盤の強さも地域によって違う。当然ながら、地盤がもろい場所は土砂災害が発生しやすい。実際に、2018年の西日本豪雨でも、降水量が最も多かった地域は四国地方だったが、死者の数が多かったのは中国地方だった。これも地盤のもろさが被害の大きさにつながったと考えられている。さらに、最近地震が発生した場所や大雨が降ったばかりの場所、何らかの開発が行われた場所などは、以前よりも地盤が弱くなっている。その地域の地盤の固さが不変というわけでもないのだ。そういうわけで、大雨で注意すべきポイントは、〇〇ミリ以上という単純な数字では推し量れないのである。

では、私たちはどうやって自分の居場所の危険度を知ればいいのかというと、それはハザードマップと気象情報である。まずは普段からハザードマップを見ておき、自分の居場所の災害リスクが高いかどうかを知っておくことは大切だ。また、「重大な災害が発生するおそれがあるとき」に警報が発表されるが、その地域にとって災害が発生しやすい雨の量は違うため、警報の発表基準は、地域によって違う。しかも、地震などで地盤が緩くなったら、発表基準も変わる。というわけで、自分のいる場所のリスクを知っておき、今後警報が発表されそうかどうかを注意深くチェックしておくとよいのである。

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四万十川の梅雨。この地方の雨は恐ろしい勢いで降り続くことがある。軒先に非難用の船がぶら下がっている家もある。

ちなみに、気象庁ホームページには「キキクル(危険度分布)」というページがある。ここでは、自分の居場所の洪水や土砂災害などの災害が発生しやすいかどうかが5段階の色で表示される。大雨が降り続いたらキキクルを見れば、いつ頃避難すればよいかの目安がわかる。ポイントは、警戒レベル3の赤になったら避難の準備を始め、それよりもレベルの高い警戒レベル4を示す紫になったらすぐに避難し、警戒レベル5の黒になる前に避難を終えるということである。黒で表示される段階は、災害が切迫しているかすでに発生しているため、避難のために外に出るとかえって危険である。くれぐれも、避難の判断は近くの川の様子を見に行ってするのではなく、キキクルを見てほしい。実際に川などを見に行くと、流されてしまうこともあり、かえって危険である。ちなみに、家族に高齢者や病人・けが人、乳児などがいる場合や、ハザードマップで災害リスクが高いとされている場所にいる場合は、警戒レベル3で避難を始めよう。

なお、災害による危険が切迫した状況で緊急に避難する先の「指定緊急避難場所(自治体によって呼び名は違う)」は、地震や津波、洪水や土砂災害など災害の種類によって開設される場所が違う。「近くの小学校が確か避難所だったよね」と漠然と考えて足を運ぶと入れなかった、ということのないように、避難の前には自治体のホームページなどを見て、今の時点で避難できる最寄りの避難場所はどこなのかをチェックしておこう。

そして避難は何も、近所の小中学校などの避難場所に行くことだけが避難ではない。たとえば、浸水の恐れがあるときは2階以上に「垂直避難」をするという手もある。まだコロナ禍が完全には収まっていない現在では、分散避難も大切だ。皆が皆避難場所に行くのではなくて、親戚や友人の家に避難すると密を避けられるというわけだ。

夏本番を迎えても、大雨による災害は多発する。情報を上手に入手して、命を守る行動を心掛けたい。

参照リンク
気象庁キキクル(警報の危険度分布):
https://www.jma.go.jp/bosai/#area_type=class20s&area_code=1312100&pattern=rain_level