森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

「リーダーシップがありそう」と思われたければ、○○な表現を使うといい

DX社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は、権威を感じさせる話し方について考えてみます。

Updated by Yuko Morimoto on December, 16, 2022, 5:10 am JST

「もっと具体的に話せ」と言われます

仕事をしていて、上司から「もっと具体的に話せ」と言われたことのある人も多いのではないでしょうか。具体的にと言われても、とか、たしかにちょっと抽象的だったかな、とか、人によって反応は様々でしょうが、「抽象的なのがいいんだよ、わかってないなぁ」と思う人は、わりと稀なのではないかと思います。仕事をするのであれば、抽象的であるよりは具体的である方がいい。そんなふうに考える人が多いでしょう。

さて、それでは質問です。具体的に話す人は、周りからどう思われるでしょうか。

具体的に話す方が望ましいのであれば、そういう人は人から良く思われるに違いない。それが普通の推測です。ところが、具体的に話す人は、社会的パワー(権威)がないと思われてしまうという研究が、2014年に発表されました。研究をしたのは南カリフォルニア大学のワクスラック氏とその共同研究者たち※1 です。

彼らは、何枚かの写真を研究参加者に見せました。写真には、「前の実験の参加者」であるAさんが書いたとされる、写真の説明文が添えてあります。その説明文を見て、Aさんをどんな人だと思うか答えてもらいました。その結果、「バーバラはノートを取っている」という具体的な説明文を書いた人よりも、「バーバラは一生懸命働いている」という抽象的な説明文を書いた人の方が、より社会的パワーがあると思われる、ということがわかりました。

ワクスラック氏は、政治家の発言も分析していきます。そしてやはり予想通り、具体的な発言をする政治家よりも、抽象的な発言をする政治家の方が、社会的パワーがあって、リーダーシップに優れ、地位が高いと思われるということがわかりました。なるほど、政治家の人が抽象的なスローガンを掲げるわけですね。「美しい国へ」とか、「コンクリートから人へ」とか。なんなら後者はちょっと具体的すぎるかもしれません。

そういうわけで、他人から「社会的なパワーがありそう」とか、「リーダーシップがありそう」と思われたければ、抽象的な表現を使うといい、ということが示されました。

ところで、抽象的に話すのはどういう人に多いのでしょうか?

抽象的に話すのはどういう人?

実は、話の抽象度には、性別による違いがあることが示されています※2。他の人を説得するように頼まれた時の説得の仕方を分析する、という実験を行うと、男性の方が女性より抽象的な表現で説得しようとしたそうです。研究者はそこで止まらず、2万人のブロガーが書いた70万件のブログ記事を調べます。そうすると、テーマに関係なく、やはり男性ブロガーは抽象的、女性ブロガーは具体的な表現を使っている、という結果が示されました。ブログは記事の内容以上の情報を提供してくれるようです。そしてさらに、アメリカの国会での演説を調べても、女性議員より男性議員の方が、演説内容が抽象的だったとのこと。いろいろな場面において、女性の話し方の方が具体的で、男性の話し方は抽象的なようです。

そうすると、女性の話し方は社会的パワーがないように思われやすいのだろうかと、女性である私はやや不安になります。ちなみに、上記の研究では、自分が仕事上のパワーがあると感じさせられた女性は、普段より抽象的な話し方に、仕事上のパワーがないと感じさせられた男性は、普段より具体的な話し方になったそうです。ということは、女性の地位が上がれば、女性も抽象的に話し出すのかもしれません。

さて、それでは最後に、ひとつ考えてみましょう。社会的パワーのある人って、本当に抽象的に話すのでしょうか? それとも、そんな事実はないのに、勝手にみんながそう思いこんでしまうだけなのでしょうか。

ニューヨーク大学のマギー氏ら※3 は、2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロ事件に関連してインタビューを受けた人のコメントを分析しました。一般人、専門家、消防士。様々な人のインタビューデータを分析したところ、実際に、社会的地位が高いほど、抽象的な表現でコメントしていたというのです。人は地位が上がると抽象的に話し出すのかもしれませんし、あるいは抽象的に話す人の方が出世するのかもしれません。どちらにしても、なんとも不思議な現象です。

これからは抽象的なことばっかり言おうかな、と頭では思いつつ、この記事では研究の具体的な説明をしてしまいました。どうか私の社会的パワーが低く見積もられませんように。

参考文献
1. Wakslak, C. J., Smith, P. K. & Han, A. Using abstract language signals power. J. Pers. Soc. Psychol. 107, 41–55 (2014).
2. Joshi, P. D., Wakslak, C. J., Appel, G. & Huang, L. Gender differences in communicative abstraction. J. Pers. Soc. Psychol. 118, 417–435 (2020).
3. Magee, J. C., Milliken, F. J. & Lurie, A. R. Power differences in the construal of a crisis: the immediate aftermath of September 11, 2001. Pers. Soc. Psychol. Bull. 36, 354–370 (2010).