森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

そのメール、全然相手に伝わっていないかも

DX社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は、メールと電話の差について考えてみます。

Updated by Yuko Morimoto on March, 22, 2023, 5:00 am JST

母親からの電話で愛情ホルモンが上昇

つらい出来事があったとき、他人に慰められたくなることもあるでしょう。できれば会って話がしたい。ところが、直接会わなくても、電話で慰められるだけで、十分な効果があるようだという研究があります。

ウィスコンシン・マディソン大学のセルツァー氏とその共同研究者らは、女の子に、人前でスピーチをさせるという社会的ストレス課題に取り組ませました。このストレス課題のあとに母親から電話を通じて慰められた子は、そのまま一人で映像を見た子に比べて、ストレスホルモン(コルチゾール)が低く、愛情ホルモン(オキシトシン)が高いという結果が示されています※1。

セルツァー氏らは、さらに次の研究で、電話のうちのどの要素が効果的だったのかを探ります※2。声が大事なのか、言葉が大事なのか。というわけで、電話とメールを分けて、その効果を比べたところ、結果ははっきりしていました。電話は、直接慰められたのと同じようにストレスホルモンを低下させ、愛情ホルモンを上昇させていたのに対し、メールは、一人で映像を見るのと変わりがありませんでした。つまり、声を通じたコミュニケーションがあるかどうかが、ストレス状況に置かれたときの回復度を変えるかもしれないということになります。

ただ、研究にはもちろん限界がつきものです。セルツァー氏自身も、「この年代の子は、親とメールする機会が少ないからかもしれない」とか、「母親がメール下手だったからかもしれない」(!)といった、研究の限界については認めています。それにしても、電話の力は大きいですね。直接会うのと同じくらい、ストレスが緩和されるというのですから。

あなたが思っている以上にメールで感情は伝わらない

メールは対面のやり取りほどの力がないかもしれない、という研究をご紹介しました。ところが、人はメールの限界を甘く見積りがちだということもわかっています。ニューヨーク大学のクルーガー氏※3は、こんな例を挙げて説明します。なんでもいいので、なにかのメロディを、机をタップして誰かに伝えてみてほしい。このとき、相手にうまく伝わるのは全体のうちわずか3%に過ぎないのだが、タップした人の50%は「相手に伝わっただろう」と考えてしまうのだ※4、と。これと同じことが、メールのやり取りでも起こるというのです。

実験の中で、皮肉や、悲しみ、怒りなどの気持ちを、メールを通じて伝える場面で、送信者は自分の気持ちがだいたい90%くらいの確率で相手に伝わると思っています。対面や音声を通じて伝えるときもだいたい90%くらいの確信度で相手に伝わると思っているので、つまり、対面だろうとメールだろうと、自分の気持ちが相手に伝わる確率には差がないだろうと考えているのですね。もちろん、対面(73.9%)や音声(73.3%)でも思っているよりは相手に伝わらないのですが、メールで相手にニュアンスが伝わる確率は62.8%と、思っているよりずっと感情が伝わりにくいという結果になっていました※5。

自分の頭の中では、皮肉や悲しみ、怒りのニュアンスを込めた音声情報とともにメールを読めるのに対して、相手にはその音声情報が伝わらない。メロディをタップで伝えようとするときと同じことが起こっているのではないだろうか、というわけです。

ところで、我が家の連絡手段は、主にFaceTimeというアプリでのビデオ通話です。単なる連絡事項も、なぜかいつもビデオ付き。今回紹介した研究結果から察するに、どうやら音声だけでも対面とそう変わらないみたいですよね。これからは、音声通話に切り替えてもいいかもしれないなと思っています。

参考文献
1. Seltzer、 L. J.、 Ziegler、 T. E. & Pollak、 S. D. Social vocalizations can release oxytocin in humans. Proc. Biol. Sci. 277、 2661–2666 (2010).
2. Seltzer、 L. J.、 Prososki、 A. R.、 Ziegler、 T. E. & Pollak、 S. D. Instant messages vs. speech: hormones and why we still need to hear each other. Evol. Hum. Behav. 33、 42–45 (2012).
3. Kruger、 J.、 Epley、 N.、 Parker、 J. & Ng、 Z.-W. Egocentrism over e-mail: Can we communicate as well as we think? J. Pers. Soc. Psychol. 89、 925–936 (2005).
4. Newton、 L. Overconfidence in the communication of intent: Heard and unheard melodies. Unpublished doctoral dissertation、 Stanford University、 Stanford、 CA (1990).
5. Torrez、 B.、 Wakslak、 C. & Amit、 E. Dynamic distance: Use of visual and verbal means of communication as social signals. J. Exp. Soc. Psychol. 85、 103849 (2019).