森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

あなたが怒りっぽいのは、感情を識別できていないからかもしれない

SNSを眺めていると「怒りっぽい人が増えているな」と感じることがあるかもしれません。実は攻撃的な人は、あるスキルが低い可能性があります。

Updated by Yuko Morimoto on July, 18, 2023, 5:00 am JST

攻撃的な人は、感情を細分化していない?

あなたは腹が立ったとき、その怒りがどのようなものかを――たとえば罪悪感が混じった怒りなのかそうではないのかを――細かく識別しているでしょうか。そりゃそうだよ、と思われる方もいらっしゃるでしょうし、いやそんなの識別しているわけないでしょ、という人もいらっしゃるでしょう。どうやら、さまざまな感情をどの程度細かく分けて経験しているかには、個人差があるようなのです※1。

そして、細分化された感情を経験するか、大きく分けられた感情を経験するか、という個人差が、どうやらうつと関連しているぞ、という論文が、2012年に「Feeling Blue or Turquoise?」というタイトルで刊行されています※2。英語では、落ち込んだ気分を「ブルー」と表現します。このタイトル、日本語に訳せば、「あなたはブルー?それともターコイズ?」という感じでしょうか。要するに、「私はブルーだ」と大きく感情を感じるのか、それとも「私は……ブルーの中でも……ターコイズだ」と細かく感情を感じるのか、という問いなわけです。

この研究を行ったミシガン大学のデミラルプ氏らは、うつ病の人53人と、そうではない人53人に、携帯型電子機器を渡しました。この電子機器からは、1日8回、午前10時から午後10時までの間に、ランダムに電子音が鳴ります。参加者の人たちは、電子音が鳴ると3分以内に、次のような感情を今現在感じているかを回答しました。

 ネガティブ:悲しみ、不安、怒り、不満、恥、嫌悪、罪悪感
 ポジティブ:喜び、興奮、警戒、活動的

さて、ここからがポイントです。もし参加者が悲しみを感じたときにはいつも不安を感じていて、逆に悲しみを感じていないときは全然不安を感じていないとします。その場合は、その人の悲しみと不安はいつも連動していて、細分化されていないということになります。一方で、悲しみは悲しみ、不安は不安として別の時間帯に経験しているとしたら、その人の悲しみと不安は細分化されているということになります。

ということで、デミラルプ氏らは、ネガティブな感情とポジティブな感情それぞれで、感情が連動しているかを調べました。するとうつ病の人の方はそうでない人に比べ、ネガティブ感情が連動していることがわかりました。つまり、うつ病の人はネガティブ感情の細分化が小さいということになります。ところが、ポジティブな感情では、連動するかどうかにうつ病の人とそれ以外の人で差がありませんでした。

さて、最初に、あなたは怒りを細かく識別するか、と尋ねましたね。怒りに限定してお話しすると、怒りを細分化する人は、腹が立ったときでも攻撃行動に出にくい、という結果が報告されています※3。感情を細分化する人ほど、感情のコントロールが得意なため、うまく行動を調整できるというのです。よく攻撃行動をしている人は、もしかしたら自分の感情を細かく分けて経験していないのかもしれません。

幼児よりも思春期に感情の識別スキルが低下する理由

攻撃行動といえば、思春期ですね。私には9歳の子どもがいますが、今から反抗期に怯えています。そんな話はさておき、実は、子どもと成人では感情は細分化されているのに、思春期でだけ感情が細分化されなくなる、という研究結果が報告されています。

ハーバード大学のヌーク氏らは、5歳から25歳の参加者の、感情細分化の程度について調べました※4。すると、5歳から16歳頃にかけて感情の細分化が低下していき、そこから25歳に向けてまた細分化が進んでいくという結果になっていました。もちろん、すでに述べたように個人差が大きいので、16歳であればすべての人が感情の細分化が低いというわけではありません。あくまで、年齢で輪切りにすると全体としてそういう傾向が見られる、というふうにご理解ください。

それにしても、なぜ子どもは感情の細分化ができているのでしょうか? これはどうやら、幼少期には「悲しい」「楽しい」「腹が立つ」などの感情が独立していて、そもそも複数の感情を同時に経験することがないという事情によるようです。年齢が進むにつれて複数の感情を同時に経験するようになっていくものの、まだそれらを細分化することができない時期があります。これがちょうど思春期に当たります。そして、16歳ごろを境目にして、自分の感じた複数の感情を識別できるようになっていくのです。

思春期は、さまざまな精神疾患の増える時期でもあります。ヌーク氏らは、思春期に感情分化が難しくなることが、思春期に精神疾患や問題行動が増大する理由の一つなのではないか、と提案しています。実際、未成年の飲酒行動にも、感情細分化の小ささが関わっているようです※3。未成年は、強いネガティブ感情を経験したとき、感情の細分化が苦手であれば飲酒量が増えていましたが、感情の細分化が得意であれば飲酒量が少なく済んでいました。これはもしかすると未成年に限らないかもしれません。

さて、ここまで読んだ現在のお気持ちはいかがですか? その気持ち、もう少し細分化してみても面白いかもしれませんよ。

参考文献
※1. Barrett, L. F. Feelings or words? Understanding the content in self-report ratings of experienced emotion. J. Pers. Soc. Psychol. 87, 266–281 (2004).
※2. Demiralp, E. et al. Feeling blue or turquoise? Emotional differentiation in major depressive disorder. Psychol. Sci. 23, 1410–1416 (2012).
※3. Kashdan, T. B. , Ferssizidis, P. , Collins, R. L. & Muraven, M. Emotion differentiation as resilience against excessive alcohol use: an ecological momentary assessment in underage social drinkers. Psychol. Sci. 21, 1341–1347 (2010).
※4. Nook, E. C. ,Sasse, S. F. , Lambert, H. K. , McLaughlin, K. A. & Somerville, L. H. The Nonlinear Development of Emotion Differentiation: Granular Emotional Experience Is Low in Adolescence. Psychol. Sci. 29, 1346–1357 (2018).