森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

あなたが怒りっぽいのは、感情を識別できていないからかもしれない

SNSを眺めていると「怒りっぽい人が増えているな」と感じることがあるかもしれません。実は攻撃的な人は、あるスキルが低い可能性があります。

Updated by Yuko Morimoto on July, 18, 2023, 5:00 am JST

幼児よりも思春期に感情の識別スキルが低下する理由

攻撃行動といえば、思春期ですね。私には9歳の子どもがいますが、今から反抗期に怯えています。そんな話はさておき、実は、子どもと成人では感情は細分化されているのに、思春期でだけ感情が細分化されなくなる、という研究結果が報告されています。

ハーバード大学のヌーク氏らは、5歳から25歳の参加者の、感情細分化の程度について調べました※4。すると、5歳から16歳頃にかけて感情の細分化が低下していき、そこから25歳に向けてまた細分化が進んでいくという結果になっていました。もちろん、すでに述べたように個人差が大きいので、16歳であればすべての人が感情の細分化が低いというわけではありません。あくまで、年齢で輪切りにすると全体としてそういう傾向が見られる、というふうにご理解ください。

それにしても、なぜ子どもは感情の細分化ができているのでしょうか? これはどうやら、幼少期には「悲しい」「楽しい」「腹が立つ」などの感情が独立していて、そもそも複数の感情を同時に経験することがないという事情によるようです。年齢が進むにつれて複数の感情を同時に経験するようになっていくものの、まだそれらを細分化することができない時期があります。これがちょうど思春期に当たります。そして、16歳ごろを境目にして、自分の感じた複数の感情を識別できるようになっていくのです。

思春期は、さまざまな精神疾患の増える時期でもあります。ヌーク氏らは、思春期に感情分化が難しくなることが、思春期に精神疾患や問題行動が増大する理由の一つなのではないか、と提案しています。実際、未成年の飲酒行動にも、感情細分化の小ささが関わっているようです※3。未成年は、強いネガティブ感情を経験したとき、感情の細分化が苦手であれば飲酒量が増えていましたが、感情の細分化が得意であれば飲酒量が少なく済んでいました。これはもしかすると未成年に限らないかもしれません。

さて、ここまで読んだ現在のお気持ちはいかがですか? その気持ち、もう少し細分化してみても面白いかもしれませんよ。

参考文献
※1. Barrett, L. F. Feelings or words? Understanding the content in self-report ratings of experienced emotion. J. Pers. Soc. Psychol. 87, 266–281 (2004).
※2. Demiralp, E. et al. Feeling blue or turquoise? Emotional differentiation in major depressive disorder. Psychol. Sci. 23, 1410–1416 (2012).
※3. Kashdan, T. B. , Ferssizidis, P. , Collins, R. L. & Muraven, M. Emotion differentiation as resilience against excessive alcohol use: an ecological momentary assessment in underage social drinkers. Psychol. Sci. 21, 1341–1347 (2010).
※4. Nook, E. C. ,Sasse, S. F. , Lambert, H. K. , McLaughlin, K. A. & Somerville, L. H. The Nonlinear Development of Emotion Differentiation: Granular Emotional Experience Is Low in Adolescence. Psychol. Sci. 29, 1346–1357 (2018).