田口勉

田口勉

(写真:Friends Stock / shutterstock

企業の競争力を高める、データの利活用に必要な準備

企業の競争力を高めるためには、データの利活用が必要であるという事実はすでに多くの人の知るところとなった。しかし、一体どのくらいの企業が実際にデータを利活用できているのだろうか。その準備方法すらわからないという企業が多いのではないだろうか。データの利活用に必要な考え方の基礎を紹介する。

Updated by Tsutomu Taguchi on February, 13, 2024, 5:00 am JST

世界デジタル競争力ランキング、日本は過去最低の順位に

スイスのローザンヌに拠点を置く、IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が公表しているデジタル競争力に関する国際指標『世界デジタル競争力ランキング』があります。IMD世界デジタル競争力ランキングは、デジタル技術をビジネス、政府、社会における変革の重要な推進力として活用する能力を、国・地域ごとに測定、比較するものです。

デジタル競争力は「知識」、「テクノロジー・技術」、「将来への備え」の要素から構成されており、各ファクターの下にサブ・ファクターが設定されています。日本の順位は残念ながら10年前の20位から徐々に下降し、2022年は63か国中で過去最低順位である29位となっています。

この中の「将来への備え」配下のカテゴリに「ビジネスの俊敏性」というサブ・ファクターがあります。この「ビジネスの俊敏性」中の3つの項目「機会と脅威」「企業の俊敏性」「ビッグデータの分析と活用」での日本の順位は、「機会と脅威」63位 (1位はデンマーク)、「企業の俊敏性」63位(1位はデンマーク)、「ビッグデータの分析と活用」63位(1位米国、2位台湾、3位カタール)と、いずれも最下位になっています。

データ分析や活用に課題があると捉えている日本の企業は多いと思われますが、世界的なランキングを見ても評価はよくないようです。日本はもっとデータ分析や活用について真剣に考えなければなりません。

データ活用に関して、
・どのような点が企業にとってのチャレンジになっているのか?
・どのようにブレイクスルーしていけばいいのか?
・データを守り、活用していくことで、何がチャンスになりえるのか?
・未来をどう切り開いていくか?
ということにより踏み込んで考えていく必要があると思います。

将来的なデータロストの危険性が内在しているケースすらある

現在の日本で、自社が保有するデータを長期に渡り安全に保管し、自由に活用することができている、と言い切れる企業はどれだけあるでしょうか。

自社が保有していると思っているデータが、実は、必要な人が自由にアクセスし分析や活用ができる状態ではない、構成上はデータ利活用が可能な設計となっていても実用に耐えられるパフォーマンス・レベルでないということはよくあります。なかには、将来的なデータロストの危険性が内在しているケースすらあるのです。

データ駆動型社会という言葉が認知されるようになってから10年近く経ち、データの利活用が新たな価値を創造し、企業の競争力を高める鍵となるということは広く知られるようになりました。また、世界で生み出されるデータはますます増え、外部データも含め、企業が利用できる可能性があるデータの量は、一昔前とは比べ物にならないほど多くなっています。

一方で、自社が所有しているデータをなくさずに持ち続け、自由に、有効に使うというのは、案外難しいというのも事実です。多くの企業活動がそうであるように、データ活用も様々な角度から考える必要があります。インフラ的な側面もありますし、技術的な側面、組織的な側面、戦略的な側面も検討しなければならないでしょう。

データとアプリケーションやサービスは分離すべき

真にデータを守り、活用していくためには、自分たちのデータを将来に渡り、しっかりと所有し続けること、またそれを活用できる形に複製していく仕組みを整えることが必要です。

極論を言うと、アプリケーション側はなくなったとしても、再構築、再設計の余地があります。また、利用しているアプリケーションを他のシステム基盤へ移行することもできます。しかし、もしもデータがなくなったら、同じものを再生成することはできず、ビジネスへの影響が非常に大きくなります。

そこでまずすべきことは、データとアプリケーションやサービスは分離することです。次に、データの源泉が複数ある場合は、データのサイロ化を防ぐために、ストレージに集約し一元的に管理するようにしましょう。

さらにデータをSnapshotやReplicationにより複製します。最新のSnapshotやReplication技術を利用することで、効率よく負荷をかけずに2次利用、3次利用が可能なデータとして複製することができます。そのうえで複製したデータに、アプリケーションやサービスからアクセスし、分析や活用を行っていきます。

このように、データロストしないクラウド環境でデータを一元的に守り、一方でマルチクラウドによってデータ利活用を推進するのが良いということになります。

バックアップデータがもたらす価値を再認識しましょう

企業活動においてデータの利活用が叫ばれて久しいですが、実際にはどこから手をつけていいかがわからないケースも少なくないでしょう。企業がまずするべきことは、どのようなことでしょうか。

次に課題になるのは、活用できるデータを持っていないということです。この課題をお持ちの企業もおられると思いますが、自社のビジネスで生み出されるデータというのは、自分たちにとって最良のデータになります。そこで、そのデータの保護と同時に、データの活用も考えていきます。

こうしてみると、バックアップデータの価値は、いつかなにかが起こったときに復元されるのを待っている(守り)ということだけではないことがわかると思います。自社システムのデータ、これは最新の本番環境のデータにもっとも近いデータということになります。たとえば、システムの開発や検証をするときに、テストデータとして使うことができますし、障害対策や災害対策としての役割を果たしながら、新たな方法でビジネスの加速にも貢献できます。

昨今の社会情勢をみますと、パンデミック、世界各地での紛争、急激な円安、消費者物価の急激な上昇など、企業活動そのものも迅速な経営判断が必要になってきています。ITに求められる役割も、今までの効率性重視型からマーケット主導型のビジネスオペレーションに役立つものへと進化しなければなりません。データに基づく迅速な意思決定、レジリエンシーとして突発的な外部環境の変化を乗り越える、想定外の事態を回避する、データ駆動型オペレーションの実現が必要です。

これらは、データバックアップから始めることができます。バックアップデータがもたらす価値を再認識しましょう。

外部のサービスを活用すれば、成果が出るまでの道のりを短縮できる

自社ですべてをまかなうのではなく、既にあるサービスや外部データをうまく活用していくことも考えていきましょう。分析に使えるクラウドサービスは、優れたものが数多くリリースされています。多くのサービスはAPI連携などが可能なので、データは自社で管理し、アプリケーションだけサービス利用することも可能です。

アライアンスを組んで共有データを持ったり、オープンデータを活用したりすることで、データに関する選択肢が広がります。エコシステムを活性化し、外部の力をうまく使うことで、成果を出すまでの道のりを短縮させることができます。

デジタル社会における新たなパートナーシップを形成、マルチクラウド、データ/インサイトの共有、オペレーション/専門知識の共有など、エコシステムの活性化が必要です。国内クラウド連合、マルチクラウド連合の形成を、データの主権を守りながら推進していくべきです。

これからはクラウドにデータを置いて、それを一元管理し利活用していく、同時にエコシステムを築き、ビジネスの進化を加速していく、クラウドの新たな選択肢が必要です。

本文の内容は2023年11月22日に開催されたオンラインセミナー「Democratic Data Day Autume 2023 真にデータを守り、活用する方法 ~データ駆動型社会に潜むトラップを回避せよ~」のオープニングセッションおよびクロージングセッションから構成したものです。