マスクド・アナライズ

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(写真:kovop / shutterstock

ChatGPTを活用するため重要な「データ」「意識」「コミュニティ」

ChatGPTは2024年にはますます普及し、あらゆる業界のあり方・働き方を変えていくと予想されている。ChatGPTを導入し、活用するために必要なことを解説する。

Updated by Masked Analyz on January, 9, 2024, 5:00 am JST

ChatGPTは今後も性能の向上が期待できるため、現在では対応できていない業務も将来的には実現できる可能性を秘めています。幅広い分野でChatGPTが普及すれば、人手不足などの問題の解消へ向けて明るい展望が見えてくることでしょう。

一方でChatGPTは企業間や業界間にこれまで以上の格差をもたらしそうです。ChatGPTを利用するかどうか、すなわちChatGPTを使いこなせる人材を雇用するかどうかという問題もありますが、ここは企業の意思決定のプロセスに関わる部分ですので、経営層が前向きな判断を下すより他ありません。

ただChatGPTを使用の是非を検討する前に知っておかなくてはならないのは、企業が保持している「データ」の重要性です。ChatGPTはインターネット上にある情報を基に学習しています。そのため文章作成やプログラミングは得意ですが、知識が不足している分野もあります。そしてそこにこそ差別化のポイントがあるのです。企業が独自に保有しているデータをChatGPTに学習させれば、事業を優位に進めることができます。
例えば、画像認識で不良品を検知させるプログラムを組んだとしましょう。この場合、学習させた不良品のデータの質が良く、量が多いほど、高い精度の仕事をさせることができるというわけです。2024年は、このように企業が独自に学習させた自社専用ChatGPTを展開していくことが予想されています。

すぐに思い浮かぶような懸念事項は、導入企業では対策済み

ChatGPT導入において、多くの企業が懸念を抱えているのも事実です。しかしすぐに思い浮かぶような懸念は、すでに導入企業が対策を終えています。一例を紹介しますので、導入にあたって悩みを抱えている方は参考にしてみてください。

・ChatGPTは間違える
ChatGPTでは間違った答えをさも正しいかのように伝えたり、架空の答えを作り上げたりすることがあります。このような現象はハルシネーション(幻惑)と呼ばれ、問題視されています。しかしバージョンアップしたGPT-4では精度が向上しており、答えられない質問に対しては回答を拒否するようになりました。
ChatGPTを既に導入している企業は社外向けの業務には利用しないなどの制限を設けたり、回答結果を人間が確認するチェック体制を構築したりするなどの対策をとっています。
人間も意図せず間違えることもあるので、ある種の割り切りが必要とも言えるでしょう。

・導入時のハードル
新たにChatGPTを導入するにあたっては、社内システムとの連携部分といった開発作業に加えて、入力したデータの学習を拒否するなどの処置が必要です。必要なサービスを自社システムに組み込みつつも、同時にセキュリティ対策やデータの学習拒否にも対応しているサービスもあるので検討してみるといいでしょう。

・情報漏洩などのセキュリティ対策
ChatGPTに入力した情報が、外部に漏洩するのではないかと懸念を抱いている方も多いでしょう。この点、すでに導入している企業では、ガイドラインやルールにおいて個人情報や機密情報の入力を禁止したり、第三者が盗み見する可能性がある通信経路を制限したりといった対策をとっています。また、利用者が入力したデータはChatGPTの学習に利用されますが、設定により学習を拒否することも可能です。 

・ネット検索(Google検索)との違いがわからない 
ChatGPTは従来のネット検索とは異なり、単語の組み合わせで検索しても望んだ回答は出てきません。そのためネット検索とは異なる自然な文章で指示を出すという教育が必要になります。

技術よりも大切な、組織の意識改革

このように、ChatGPTを導入するにあたり多くの人が懸念している事項はすでに先行者たちが対策を打っているため、ある程度は他社の事例を参考にしてクリアすることができます。それよりも重要なのは、ChatGPTを使いこなすための組織の意識改革です。特に経営層の危機感こそがカギとなるでしょう。ChatGPTの存在はいわばインターネットやスマートフォンのように、大きな変革となりつつあります。

早期にChatGPTを導入できた企業と未だ二の足を踏んでいる企業との差は新興技術に対する準備の差にあります。
現在、ChatGPTを導入したくともできずにいる企業は、社内の情報システムを外注に委託しており、何かを変えるには時間と費用がかかるところが少なくありません。しかし数年前からシステム開発を内製化するためにエンジニアを直接雇用する企業では、このような取り組みはいち早く着手できるのです。ChatGPTの早期導入にはこうした事前準備が大きく影響しています。内製化と言ってもChatGPTのような比較的小規模な開発案件にとどめて、大規模な開発計画は従来通りノウハウのある外注先に委託するなど、棲み分けも進んでいます。こうした体制づくりの有無によって、ChatGPT導入における格差が広がりつつあります。

新技術普及の肝は「コミュニティ」

新技術は導入するだけでは意味がありません。それを社内に普及させる必要があります。
ChatGPTを導入後に社内で普及させるためには、ガイドラインの制定とコミュニティ運用が肝となります。ガイドラインはChatGPTを利用するための独自ルールであり、自社の状況に合わせて個別に作成します。それぞれの企業でChatGPTを利用する目的や環境が異なるため、他社と横並びで同一のガイドラインを作っても、うまく機能しません。なおガイドラインは日本ディープラーニング協会よりひな形も提供されており、こちらをベースに自社に合わせて内容を修正すると良いでしょう。

コミュニティ運用は、社内でChatGPTの利用促進を行うサークル活動のようなものです。使い方や活用方法を社員同士で共有しながら、盛り上げていくことによって、徐々に普及させていきます。具体的には、興味はあるものの操作がわからない人に研修を行なったり、社内の活用事例を共有するなどの活動を行います。コミュニティが重視される理由は、過去のIT系ブームにおいて、新たなツールを導入しても使われないことが問題視されたためです。新たなツールが出てきても、誰もが自力で使いこなせるわけではありません。現場の要望を無視したツール導入や外部の人間による一時的な研修では、ほとんどの人が使いこなすことはできないのです。
しかしコミュニティがあれば、親しい人が自発的に取り組んでいる人を見る機会があるため、「自分もやってみよう」という気持ちになる人が出てきます。ChatGPTを本当に活用したいのであれば、このような組織の運用を検討するといいでしょう。

ChatGPTは2024年に本格的な普及と活用段階に進むと予想されます。現在はいわば時代の変革期。時代の変化をただ見過ごすだけでは取り残されてしまいます。仮に数年後にはChatGPTが廃れたとしても、変化に適応するためにまずは体験しながら現在の状況を知ることが重要です。本記事の読者であれば既にChatGPTを活用している人も多いでしょうが、社会全体から見ればまだまだ少数派です。まだ未体験の人に本記事を紹介して年末年始の休みで知ってもらい、来年から一緒にChatGPTを活用して意見交換してみるのも良いでしょう。