松村秀一

松村秀一

奈良の興福寺。寺の歴史は大化元年(645年)に藤原鎌足が釈迦三尊像を造立したことに始まる。五重塔は五回の消失・再建を経ている。現在のものは1426年(応永33年)ごろに建てられた。右に伸びるロープは避雷針。

(写真:佐藤秀明

ものづくり人の世界こそが文化の基層である

DXにおいて重要なのは、既存の文化を尊重し利便性との折り合いをつけていくことである。何も、不要なものまで無理矢理にデジタル化する必要はないのだ。Modern Timesでは折り合いをつける方法というのは和文化のなかに見いだせるのではないかという仮説を持っている。「和洋折衷」という言葉があるほど、和は何かを程よく取り混ぜることに長けているからだ。しかし一方で和の文化は日常のメインストリームから追いやられつつある。このままではこの地で培われてきた叡智が力を失ってしまう。
この連載では『和室学』の作者である松村秀一氏による和の文化の考察を紹介するとともに、和が力を取り戻すために必要な「基層」について考えていきたい。

Updated by Shuichi Matsumura on January, 24, 2022, 0:00 pm JST

高級なものだけが「文化」というのはおかしいやろ

年末年始の特番の中に、3大コンビニの加工食品を、「何年連続ミシュランいくつ星」というレベルの料理人や菓子職人が厳しく審査するというものがあった。コンビニ側は商品開発の責任者と担当者が数名スタジオに来ていて、同じくスタジオで試食する「ミシュランいくつ星」レベルの料理人や菓子職人の様子を固唾をのんで見守る。評価を下す専門家は10名ほど。彼らが合格あるいは不合格の判定の札を上げたその瞬間、コンビニの人々は歓喜の雄叫びを上げたり、悔しさに泣き崩れたりする。初めて観たが、人気の企画なのか半年に1度やっているらしい。確かに、コンビニの方々のこの番組にかける気持ちが画面から飛び出してきそうな勢いで、ついつい最後まで観てしまった。
私がこの特番に興味を持った理由はもう一つある。確かに「食」という点では同じだが、コンビニと高級料理店のシェフやパティシエたちがそもそも同じ目で評価できるものをつくっているとは思っても見なかった。ところが、この番組での評価のコメントや質疑応答を観ていると、どうやら両者は同じ世界に属しているのだという誠に意外な認識に至った。そう、同じ食文化の世界の「ものづくり人」たちなのだ。その新鮮な発見が時を忘れさせてくれたのだと思う。

そう言えば、高校時代に「それはおかしいやろ」と思った先生の一言を思い出す。同級生たちがそれなりに考え、工夫した文化祭の出し物や展示を見た担任の先生が「君たちの『文化』は文化住宅の『文化』やなあ」と仰ったのだ。確かに関西で文化住宅と言えば、決して高級とは言えない庶民の住宅のある種類のことを指す。そして、先生の頭には桂離宮やフランク・ロイド・ライト設計の旧山邑邸のようないわゆる「文化財」の「文化」があったのだろう。しかし、高級なものだけが「文化」というのはおかしいやろ。どっちも「住文化」やないか。どっちにもものづくり人はおるやろ。そう思ったのである。