中村航

中村航

カナダのドーソン。かつて砂金で栄えた街は、クラシック・カジノでも有名。2017年ごろ撮影。

(写真:佐藤秀明

新たな財源としてのスポーツベッティングの可能性

規制の変更一つで、ギャンブルの世界は大きく変貌する。スポーツベッティングもその一つだ。急拡大するアメリカのスポーツベッティングの事情について、中村航氏が紹介する。

Updated by Wataru Nakamura on March, 4, 2022, 8:50 am JST

プロスポーツの主な収入源には「チケット販売」、「スポンサー収入」、「放映権料」、「グッズ販売」の4つがあるが、新型コロナ禍でこのうち放映権料を除く収入源は大きな打撃を受けている。一方、放映権料については主要スポーツの多くで拡大の一途をたどっており、日本でも2021年、ワールドカップ予選のアウェー戦が放映権料高騰の影響で地上波から消えたことは記憶に新しい。そして、このような放映権料の高騰が近年特に顕著に見えるのは米国だ。たとえば、NFLは2021年3月、新たに11年間で1050億ドル(約12兆円)規模の放映権料契約を締結。年間1兆円以上はこれまでの契約のほぼ倍額となる。また、NBAも新たに9年間で702億ドル(約8兆円)規模の放映権料契約を結ぶ可能性が伝えられており、こちらはこれまでのおよそ3倍弱だ。このような放映権料の高騰の背景には、ネット配信などを含めた視聴者数やその総視聴時間の拡大があるが、米国で近年これらの数字を押し上げている1つの要素にスポーツベッティングがある。スポーツベッティングとは、プロスポーツの試合結果や選手のパフォーマンスなどを対象にしたギャンブルで、米国では2018年の合法化以来大きな盛り上がりを見せている。そこで今回は、デジタルやデータとも関わりの深いスポーツベッティングについて、その現状や将来性に触れつつ、日本における可能性を考察する。

急拡大する米スポーツベッティング市場

データインテリジェンス企業のMorning Consultによれば、米国のスポーツベッティング市場は2021年、前年の倍以上に拡大。ベッティング参加者の賭け金の総額は527億ドル(約6兆円)に達したという。同市場の急拡大の背景には、新たに11州でスポーツベッティングが合法化されたことがある。これにより、2018年の解禁以来、米国でこのギャンブルは30州とコロンビア特別区(ワシントンD.C.)で合法化。また、2022年中にはオハイオ州で合法化が予定されているほか、フロリダ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、マサチューセッツ州などでも同様の動きが進行している。

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リオのカーニバルにて。衣装を着た男たちが挑発的に踊る。

同じギャンブルのくくりで言えば、日本のJRA(日本中央競馬会)の2021年売上高が約3兆円なので、その倍の規模の巨大な市場がわずか3年で登場し、さらに成長しているというのだから凄まじい話だ。同じMorning Consultの調査によれば、2021年1月時点で少なくとも1カ月に1度はスポーツベッティングに参加する米国の21歳以上の成人の割合は10%であったものの、2021年12月にはこの数字は18%まで拡大。1年弱で80%増加したことになる。また、National Council on Problem Gamblingによれば、米国のスポーツベッティング人口は2021年9月までの18カ月間で30%、数にして1530万人増加したというデータもあり、多くの米国人のスポーツ観戦という娯楽を変化させつつあることがわかる。スポーツイベントの視聴者数とそのイベントを対象にした賭け金の総額に強い相関関係があることは以前から指摘されているというが、スポーツベッティング市場の拡大がスポーツイベントの視聴者数や総視聴時間に大きな影響を与えていることは間違いないだろう。

デジタル化の功罪

このようなスポーツベッティング市場の成長を牽引しているのは、特にオンラインでのスポーツベッティングだ。同分野はスマホから気軽にベッティングできる利便性、試合中にリアルタイムで様々な項目に賭けられる「ライブベット」などで人気を博しており、多くの事業者が参入。高速通信からデータ分析、セキュリティ、仮想通貨まで様々なテクノロジーが活用されている。

オンライン・スポーツベッティングには、デジタルで完結するゆえの利点と欠点がある。たとえば、あらゆるギャンブルには依存症の問題がつきまとうが、デジタルであれば依存症予防に役立つようなシステムを考案・導入することは比較的容易だ。事実、ユーザーが自らの勝敗などの詳細データを確認できたり、限度額やプレー時間を設定できるようなシステムはほとんどの事業者が導入しており、AIによってユーザーの依存症の有無を判定するような仕組みを取り入れることも十分可能だろう。また、スポーツに賭け事が絡むとしばしば不正や八百長などの問題も生じるが、デジタルなら異常な投票や疑わしいプレーを検知したり、お金の動きなどを追跡することもできる。

一方、「世界各国のスポーツにいつでもどこでも賭けられる」という利便性が依存症を助長することは想像に難くない。また、悪意のある事業者がデジタル技術を活用してユーザーを搾取することも容易い。たとえば、先ごろThe Guardianが報じた話によれば、一部のブックメーカーは「Stake Factoring」という手法で顧客のアカウントを格付けし、個々の顧客の賭け金の上限をコントロールすることで、勝ち組を減らし、負け組を増やして利益を上げているという。営利企業が運営するだけに、公平性や透明性を確保するための一定の監視や規制は必要だろう。

日本での可能性

このようなスポーツベッティングは現在、日本国内では賭博行為として違法となっている。しかし、米国の例を見てもわかる通り、スポーツ業界の新たな収入源として大きな可能性を秘めていることは間違いない。実際、サイバーエージェントが2020年10月にリリースしたプレスリリースによれば、日本でスポーツベッティングが解禁された場合の市場規模は年間最大7兆円との推計も出されている。スポーツくじ「toto」の売上規模が例年1000億円前後であることを考えれば、そのポテンシャルは桁違いだ。「toto」では毎年100〜200億円がスポーツ振興のための助成に充てられているが、同様に10〜20%ほどがスポーツ界に還元されるとすれば、その額は7000億〜1兆4000億円にもなる。

また、米国がスポーツベッティングを解禁した背景の1つには、オンラインベッティングが一般化する中で違法市場が拡大していたことがある。実際、同様の状況は日本にもあり、外国発行のクレジットカードなどを使用して海外事業者のスポーツベッティングやオンラインカジノにアクセスする日本人の数はコロナ禍で急増。このような日本人による賭け金の総額は年間400億ドル(約4兆5000億円)に上るという業界幹部の話もある。このような違法市場を野放しにせず、適切に管理・課税していく道は検討されてしかるべきだろう。

英Financial Timesは2021年4月、日本政府が野球やサッカーを対象にしたギャンブルの合法化を検討する協議を開始したとする情報筋の話を報道。早ければ2024年にもこれらのベッティングが合法化される可能性を伝えた。これまでスポーツベッティングの解禁に二の足を踏んでいた日本でも、新型コロナウイルスの影響がスポーツ界に直撃する中で潮流は変わりつつある。適切なルール作りや不正対策、依存症対策などまだまだ課題は多いが、実現すればスポーツ界に新たな財源とファン層をもたらす大きな転換点になることは間違いない。

参照
【Forbes】NFL, TV Networks Sign $105 Billion Broadcast Rights Deals
【CNBC】NBA is next up for a big rights increase, and $75 billion is the price
【FORTUNE】Legalized sports betting in the U.S. doubled in 2021. Here’s why that will continue after ‘the greatest weekend in NFL playoff history.’
【Variety】Survey: Legalization of Sports Gambling Could Lead to Increased Sports Viewing
【The Guardian】Revealed: how bookies clamp down on successful gamblers and exploit the rest
【サイバーエージェント】プレスリリース サイバーエージェント、日本のスポーツベッティング市場規模を7兆円と推計
 【FINANCIAL TIMES】Covid hit prompts Japan to rethink rules on sports gambling
【GROWING】スポーツ振興くじ助成の仕組みと収益の使いみち
【日本経済新聞】海外オンラインカジノ、日本からアクセス急増 規制困難