中村航

中村航

ボート競技は、その歴史を紀元前エジプトまで遡る。イギリスの伝統行事にもなるなど、今も世界中の人々に親しまれている。

(写真:ChaiyonS021 / shutterstock

デジタルの市場はアマチュアにある

DXはプロスポーツ業界に多大な影響を及ぼしているが、実はアマチュア業界においてはさらに大きな変革をもたらしている。
海外報道をもとにライターの中村航氏が読み解く。

Updated by Wataru Nakamura on April, 8, 2022, 8:50 am JST

プロスポーツよりも魅力的な身内のイベント

「魅力的なスポーツイベント」と聞いて思い浮かべるものは何だろうか。オリンピックやワールドカップ、ツール・ド・フランスといった世界的なスポーツイベントを挙げる人もいれば、有馬記念や競艇のグランプリのような公営競技の一大イベントを毎年心待ちにしている人もいるだろう。あるいは、最近では「リーグ・オブ・レジェンド」や「フォートナイト」のようなeSportsの世界大会に注目している人も増えているはずだ。

思い浮かべるものは人によって違うだろうが、ほとんどの人にとって魅力的であろうスポーツイベントがある。それは「家族や友人など、自分にとって身近な人が参加するスポーツイベント」だ。息子が参加するサッカーの大会、恋人が走る市民マラソン、あるいは母校が初出場する甲子園といったイベントは、当人にとってはあらゆるスポーツコンテンツに勝る魅力を持ち得るもので、もし生放送があったならば、是が非でも見たいという人は多いのではないだろうか。

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野球はプロアマの垣根を越えて楽しまれているスポーツの1つだ。(写真:Suzanne Tusker/shutterstock)

もちろん、甲子園や箱根駅伝のような全国規模のイベントでない限り、テレビ局や動画配信サービスのような大々的な放送を期待することは難しい。しかし、5G通信やモバイル端末によるライブストリーミングが身近になった最近では、アマチュアの小規模なスポーツイベントであっても自宅のテレビや外出先のスマホなどからライブで視聴したり、アーカイブを見直したりすることが可能になりつつある。そして、このような観戦環境の変化は、一般の人々の観戦体験だけでなく、アマチュア選手へのスカウティングのあり方にも影響を与えている。

スポーツ中継のようなライブ配信を可能にするアプリ

このようなアマチュアスポーツのライブ配信を可能にする仕組みの中で、最近特に興味深く感じたのが「Game Changer」というモバイルアプリだ。2009年にリリースされたこのアプリは同名のテック企業が開発したもので、当初は野球やソフトボールのスコアブックアプリとしてスタートした。その後、同社は2016年に米国で約900店舗を展開するスポーツ用品チェーンのDick’s Sporting Goodsの傘下に入って事業を拡大。同アプリはチームマネジメントアプリに生まれ変わった。2020年には、新型コロナウイルスの流行に伴う遠隔観戦の需要の高まりを受け、ライブストリーミング機能をベータリリース。現在、同アプリは野球やソフトボール、バスケットボール、サッカー、アメフト、ラクロスなど様々なスポーツのライブストリーミングに対応。これまでに55万以上のユースチームに活用され、30万件以上のアマチュアスポーツイベントが配信されてきたという。

同アプリが面白いのは、スマホや専用のカメラで試合をライブ中継できるだけでなく、配信画面内に様々な情報を付加できる点だ。たとえば、野球であれば画面内にチーム名やスコアボード、カウントボード、進塁状況、選手名、球速などの情報を表示でき、カメラの切り替えこそないものの、一見するとテレビ中継のような画面になっている。試合を途中から観戦する場合などには特に便利だろう。また、試合中に選手がヒットを打った場面から自動的にハイライト映像を生成する機能もあり、このクリップは選手ごとのプロフィール画面(現在は野球のみに対応)に追加され、ダウンロードしたりSNSなどに共有することもできる。選手本人にとっても、応援する家族や友人にとっても嬉しい機能ではないだろうか。もちろんアーカイブ機能もあり、選手やコーチ、関係者が試合を後から見直すことも可能だ。

スカウティングを民主化する

同アプリはリトルリーグや高校スポーツ、大学スポーツなどのチームが利用しているというが、多くのアマチュア選手のプロフィールやデータ、映像が充実することで、将来的に新人選手のスカウティングプラットフォームとなる可能性も秘めている。同社は今後、「90マイル以上の球投げるすべての選手のハイライト映像を自動的に生成する」など、よりスカウティングに役立つ機能をアプリに追加する計画にも言及。また、選手のプロフィールに外部のトラッキングシステムから取得された球速や打ち出し角度といったデータを統合したり、手入力可能にすることも検討しているという。音楽業界でYoutubeからジャスティン・ビーバーのようなスターが次々と誕生したように、このようなプラットフォームから新世代のスター選手が登場してきても不思議ではないだろう。

同社のCEOを務めるSameer Ahuja氏は「ほとんどのユースチームがGameChangerを使っているため、特定の選手の全キャリアを把握できることが差別化要因になる」とコメント。同社は将来的にバスケットボールやサッカー、アメフトなどの他のスポーツにも自動ハイライト作成や選手プロフィールなどの機能を追加する構想もあり、Ahuja氏は「新人選手のスカウティングを民主化する」と語っている。

新たなドラマはアマチュアスポーツの世界から

スポーツ観戦、特にライブ観戦の醍醐味の1つは、刻一刻と変わる状況の中で、崖っぷちからの逆転劇や弱小チームの大番狂わせといったドラマを目の当たりにできることではないだろうか。そして、このようなドラマはプロスポーツの世界だけでなく、アマチュアスポーツの世界でも日々生まれ続けている。Game Changerのような仕組みでアマチュアスポーツの配信がますます一般的になっていけば、これまで一部の選手や関係者の間でだけ話題になっていたようなドラマやスーパープレーが多くの人の目に触れることになる。また、配信されていたりアーカイブとして残るという事実がフェアプレーを促進するという側面も考えられるし、まだまだ一般的に知られていないマイナースポーツなどでは、積極的な配信が新たなプレイヤーやファン層の開拓にもつながる可能性もある。アマチュアスポーツの観戦事情が変わることで、コンテンツとしてのスポーツの魅力はさらに深まっていくはずだ。

参照
GameChanger 
【SportTechie】GameChanger Isn’t a Misnomer; the Digital Scoring App Is About to Unleash Real-Time Highlights and Morph Into a Quasi-Recruiting Site
【Authority Magazine】Sameer Ahuja of GameChanger: 5 Things I Wish Someone Told Me Before I Began Leading My Company
【PR Newswire】GameChanger Partners With Logitech’s Mevo to Enhance Live Video Streaming for Youth Sports