今井明子

今井明子

ハワイのモロカイ島。人間の手が入っていない大自然が今なお残る。

(写真:佐藤秀明

実は謎多き梅雨前線

いよいよ雨の季節がやってくる。梅雨の正体は梅雨前線だが、その構造は複雑であり、いまだに謎が多いという。いったいどういうことなのだろうか。

Updated by Akiko Imai on May, 26, 2022, 9:00 am JST

梅雨前線はふたつの高気圧の間にできる

雨の日が続きがちな梅雨。梅雨はご存じの通り、梅雨前線によってもたらされる。前線とは性質の違う空気の塊どうしの境目であり、前線のある場所には雲が発生しやすい。梅雨前線は停滞前線と呼ばれる種類のもので、前線を挟んだ2つの空気の塊の勢力がほぼ同じときに発生し、その場に長期間停滞しやすいという性質がある。天気図では、停滞前線は一本の線の南側に暖気の境目を示す半円が並び、北側に寒気の境目を示すとがった三角形のような形のマークが並ぶ形で表示される。線の両側に半円と三角形のような形を並べることで、前線を挟んだ空気の勢力が拮抗していることを示しているのだ。余談だが、停滞前線とよく似た見た目の閉塞前線のマークは、一本線の片側に半円と三角形のような形が交互に並んでいる。こう表示することで暖気に寒気が追い付いたことを示している。

梅雨前線は、日本の南にある太平洋高気圧と、北にあるオホーツク海高気圧との間にできる。太平洋高気圧はとても大きく、高温多湿な空気でできている高気圧だ。その一方で、オホーツク海高気圧はわりと小ぶりな、冷たく湿った空気でできている高気圧である。

梅雨前線が停滞し始めるとぐずついた天気の日が増えるようになり、気象庁が「〇〇地方が梅雨入りしたとみられる」と発表する。いわゆる梅雨入り宣言である。梅雨入りの時期の平年値は、沖縄で5月10日ごろ、東北北部で6月15日ごろである。梅雨入りすると、ジメジメ、しとしととした雨が降り、それまでの汗ばむような陽気から一転、ひんやりと肌寒い日が増える。いわゆる「梅雨寒」である。この梅雨寒は、オホーツク海から吹き出す北東の涼しい風によるもので、前線付近には静かな雨を降らせる乱層雲が発生している。

そして季節が進むと、どんよりした天気が続くというよりは、蒸し暑い晴れの日もありながら、降るときは降るというメリハリのきいた天候になっていく。梅雨の後半では土砂降りの雨が長時間降り続くことが多い。このような梅雨後半の土砂降りの雨は、積乱雲によってもたらされる。梅雨前線の南のほうから暖かく湿った風が前線に流れ込むことで積乱雲が発生するのだ。積乱雲からの雨なので、ときには雷が鳴ることもある。天気にまつわる言い伝えで「雷が鳴ると梅雨が明ける」というものがあるが、この雷は梅雨前線にできる積乱雲から発生するもののことを指す。

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カルフォルニアのビーチ。人々がサーフィンや散歩を楽しんでいる。2018年撮影。

梅雨前線は、南にある太平洋高気圧の勢力が強まるにつれて北上する。そして、梅雨前線が抜けた地域から「梅雨明け」し、太平洋高気圧の勢力下におさまる。高温多湿な夏の到来である。

以上が学校でも習う梅雨の知識である。しかし、実際はそこまで単純なものではないのだ。

東日本と西日本とでは梅雨の性質が違う

そもそも、梅雨には地域性がある。梅雨前半の梅雨寒は、東日本に顕著な現象である。その一方で、梅雨末期に土砂降りの雨に見舞われるのは西日本のほうが多い。ちなみに、東日本は6~7月より9~10月のほうが降水量が多い傾向にある。実は東日本では、雨の季節は初夏というよりも秋なのである。

高気圧からは時計回りの風が吹く。オホーツク海高気圧からの冷たく湿った風は、ちょうど東日本の太平洋側に吹き付ける。これが「梅雨寒」の正体である。なお、このオホーツク海高気圧からの冷たい北東風は「やませ」とも呼ばれていて、夏になってもオホーツク海高気圧の勢力が強い場合は、東北地方の太平洋側で冷害になりやすい。

また、南からの暖かく湿った風は、太平洋高気圧のまわりを時計回りの方向に回りながら梅雨前線に吹き込む。梅雨前線のある「北」に向かって風が吹くのは、日本列島では西日本付近となる。だから、西日本では前線に水蒸気がたくさん流れ込みやすく、土砂降りの雨になりやすいのだ。これが梅雨に東西差がある理由である。

蝦夷梅雨とは何か

梅雨の地域性ということでいうと、もうひとつ、北海道の天気にも触れておきたい。北海道には梅雨がないとされているが、北海道にも梅雨の季節にぐずついた天気になることがあり、それは「蝦夷梅雨」と呼ばれている。しかし、梅雨の時期は北海道に梅雨前線が停滞しているのではなく、オホーツク海高気圧の勢力下にある。ぐずついた天気もオホーツク海高気圧由来によるものであって、前線によってもたらされているものではないため、蝦夷梅雨は梅雨ではないと定義されている。

ただし、近年では北海道南部でも梅雨がみられることがある。
梅雨前線は、太平洋高気圧の勢力が増すことで北上することは先ほども説明した。梅雨前線が北海道に到達する頃には、通常は北の高気圧の勢力が弱まって、前線の構造を維持できなくなって消える。しかし、近年ではその前線が勢力を保ったまま北海道付近にまで到達することがある。これはなぜなのかははっきりとわかってはいないが、地球温暖化も原因のひとつではないかと考えられている。

梅雨前線は単純な1本線ではない

さて、実は梅雨前線は太平洋高気圧とオホーツク海高気圧に挟まれた1本線というわけではなく、もっと複雑な構造をしていることがさまざまな研究から明らかになりつつある。

まず、梅雨前線は日本付近だけでなく、中国にも長く伸びている。梅雨前線の北をよく見ると、オホーツク海高気圧の西のほうの、中国付近にも高気圧があることがわかる。つまり、オホーツク海高気圧VS太平洋高気圧の単純な境界線ではないということだ。

また、梅雨前線は気温の境目にできる前線だが、東シナ海上の、梅雨前線の南側には水蒸気前線と呼ばれるものも存在する。これは、大陸の温暖で湿った空気と、海上の温暖で湿った空気との間にできると考えられている。水蒸気前線の北と南にあるのはどちらも湿った空気なのだが、大陸上の空気と海の上の空気では水蒸気量が大きく違うため、水蒸気の量の境目ができるのだ。

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南米のギアナ高地を取り囲むオリノコ川。船は水上タクシーで、客や燃料を運ぶ。写真は集落へ買い物に出かけた人などが帰っていくところ。2010年頃撮影。

このように、さまざまな研究によって、梅雨前線とはどうやら単純な一本線というよりは、ある程度幅のある帯の中にさまざまな空気の境目、すなわち前線的なものが存在するのではないかと考えられるようになってきた。

そしてもうひとつ。梅雨前線をよく見るとゆるやかに蛇行した一本線ではなく、時折折れ曲がった形をしていることがある。この折れ曲がった部分はキンクと呼ばれているのだが、ここには「メソ低気圧」と呼ばれる天気図では表示されない小さな低気圧が存在している。メソ低気圧は、梅雨前線上を西から東へと移動していき、それが天気にも影響を及ぼすこともわかっている。

このように、梅雨というものは学校で習ったような単純なものではない。梅雨時は天気予報が当たりにくいのだが、それも梅雨前線の複雑さやいまだに謎に包まれていることが影響していると思われる。個人的には、梅雨の晴れ間は真夏ほど暑苦しくもなく、過ごしやすいので極上のお出かけ日和だと思っている。予報がなかなか当たらないので、それまでの雨予報から一転して、当日にいきなり晴れることも珍しくない。そんなときは、なんだかサプライズギフトをもらったようなときめきを感じてしまうのだ。