急な大雨が予報されない理由
カンカン照りかと思ったら、急に空が暗くなり、冷たい風が吹いて、大雨が降りだす……。真夏はこんな天気になることがしょっちゅうある。「朝の天気予報には晴れのち雨のマークは出ていなかったのに!」と傘を持って外出しなかったことを後悔することも多いのではないだろうか。
実は、俗にゲリラ豪雨とも呼ばれるこのような急な大雨は、予報がとても難しい。急な大雨をもたらすのは積乱雲だが、積乱雲の大きさは直径数km~十数kmで寿命は30分~1時間。こういった局所的ですぐに終わる現象を予報するのは今の技術では難しいのである(ちなみに、気象現象の規模と時間はある程度関係があり、大きな現象は長く続き、小さい現象はすぐに終わる傾向にある)。急な大雨が「ゲリラ豪雨」と呼ばれてしまうのも、そういった予報の難しさからきている。
以前も説明したが、天気予報というのは、地球を格子状に区切って、その格子の交差する点(格子点)のところにある気温や気圧、湿度や風などの値(初期値)を計算して出た値から作られている。これを数値予報というが、ひとつの積乱雲のように小さな現象は、格子の一辺の長さが短くないと精度の良い予報を出せないし、一辺の長さが短いということは、格子点の数が多いということなので、計算量も膨大になり、計算に時間がかかる。そのくせ、現象はすぐに終わるから、下手をすると計算が間に合わない。だから、ひとつの積乱雲からの雨は、数値予報では予報が難しく、朝の天気予報で「今日の15時15分ごろに、〇〇県〇〇市〇〇町で〇〇ミリの雨が降ります」というような予報はできないのだ。
「匂わせキーワード」をキャッチすれば、濡れずに済むこともある
では、大雨に降られたら運が悪かったものとあきらめるしかないのだろうか。いや、そうではない。天気予報にはなるべく積乱雲の発生を伝えようとする「匂わせキーワード」があるのだ。それは、「大気の状態が不安定」「大雨、雷、竜巻などの突風に注意」である。不安定というのは、要するに地表から上空に向かう上昇気流が発生するということである(安定している空気は上昇気流が発生しない)。上昇気流が発生すれば、積乱雲が発生しやすくなるので、積乱雲からもたらされる大雨や雷、竜巻などの突風にも注意が必要となるのだ。
というわけで、朝のニュースで「大気の状態が不安定」などのキーワードを聞いたら、その日は空模様になるべく注目し、空が暗くなってきたらパソコンやスマホで雨雲レーダー(もしくは気象庁ホームページの「雨雲の動き」)をこまめにチェックし、雨雲が自分のいる場所にやってきそうかどうかを注視しておくとよいだろう。
急な大雨は、集中豪雨とは異なる災害を引き起こす
梅雨末期にしばしば起こる集中豪雨は、河川の氾濫や土砂災害をもたらし、人命や財産が危険にさらされる。では、急な大雨はどうだろうか。こちらは、集中豪雨とは少し違う種類の災害が発生しやすい。
そのひとつが、内水氾濫である。これは、あまりにも急に大雨が降るため、都市の排水機能を超えてしまい、排水用の水路やマンホールから水があふれるという現象だ。川の堤防が決壊しなくても、内水氾濫で浸水することはよくあるのだ。
浸水が起こると、路面に何があるのかわからないので、外を歩くと非常に危険である。知らず知らずのうちにマンホールのふたが開いていて落ちる可能性もある。また、用水路や側溝と道路との境界も上から見ると同じ水面となり、パッと見ただけではわからなくなるため、うっかり転落して流されてしまうことがあるのだ。
急な大雨の危険ポイントとして覚えてほしいのが、アンダーパスと呼ばれる場所だ。アンダーパスとは、道路が線路などともぐり込むような形で立体交差する場所である。ここには、晴れているときには想像がつかないが、本当に水がたまりやすい。そして、水がたまったアンダーパスに車が突入すると、車が動かなくなる。しかも、水圧でドアも開かない。立ち往生しているうちに水位がぐんぐんと上がって、車内から脱出できずに亡くなる人も多いのだ。だから、大雨が降り続く場合はア ンダーパスは避けなければいけない。
のどかな場所が牙をむくとき
大雨が降ったとき、雨を避けるために雨宿りをする人も多いことだろう。地下街は外が見えないので、雨が降っているかどうかがわからず滞在しがちだし、室内ということもあって、つい雨宿り先としてあえて地下街に入る人もいるはずだ。しかし、大雨が降ったときに地下街にいる場合は、すみやかに商業ビルの2階以上に入った方がよい。当然ながら水は低い場所に流れるため、路面冠水すると、地下街に水が流れ込んで危険だからだ。地下街への階段から水が流れ込み、滝のような状態になっている様子は恐怖である。
住宅地には、小さな川の河川敷が遊歩道として整備され、親水公園になっているところもある。晴れた日はこんな場所を歩くのは気持ちがいいし、ときには子どもを水遊びさせることもあるだろう。しかし、のどかなせせらぎも、大雨が降ると牙をむく。急に水位が上昇するからだ。
2008年には神戸市の住宅を流れる都賀川で痛ましい水難事故が発生した。このときは、大雨でわずか10分間の間に水位が1.3m上昇し、5名が川に流されて亡くなったのである。川の場合はその場所だけでなく、上流で大雨が降っても急に水位が上昇することがある。特に川のそばに警報システムが設置されている場合は、過去にそういった水難事故が起こった可能性がある。いくら晴れていても、警報システムが鳴ったらすみやかにその場所を離れてほしい。もちろん、川のそばに警報 システムがなかったとしても、急に水が濁ってきて水位が上がってきたら、いち早く川のそばから離れるべきである。
ゲリラ豪雨を死語にするために
このように急な大雨は予報が難しいうえ、急だからこその災害も発生しやすい。「大気の状態が不安定」という言葉を耳にしたら、その日は気を緩めずに過ごしてほしいものだ。
なお、気象の研究者たちは「ゲリラ豪雨」を死語にしようと頑張っている。つまり、「予測できない大雨」をなるべく事前に予測しようとしているのだ。そのためにも、雨が降り出す前の段階から大雨を予測しようとしたり、上空で振り出した雨をいちはやく感知する高精度なレーダーを開発しようとしたりしている。そんな研究の発展にも今後は期待したいところである。