社会主義リアリズムの影響を受けた「太陽の王子ホルスの大冒険」
高畑勲監督作品「太陽の王子ホルスの大冒険」(1968年)は、アイヌの伝承をモチーフにした長編アニメーションである。宮崎駿が初めて本格的に製作に関わった作品でもあった。興行成績はふるわなかったものの、自主上映会を通してアニメーターやファンのあいだで知られるようになった(現在は、動画配信サービスで視聴が可能だ)。
主人公は少年ホルス。父と熊のコロと一緒に荒野で暮らしていた。父親の死をきっかけに、人間の村を探して、そこでの共同生活に加わるようになる。そのころ、悪魔・グルンワルドは人間たちを滅ぼそうと画策していた。グルンワルドは、妹のヒルダに命令して人間たちの心を操って、ホルスを村から孤立させた。その真の目的は、人々を疑心暗鬼にして仲間割れさせることである。しかし、ホルスは人間の連帯の力を信じ、村人たちを統率してグルンワルドと対決し、打ち勝つのだった。
https://www.youtube.com/watch?v=N4TLPi-qgKg
この作品は、明らかに社会主義リアリズムの影響を受けている。主軸となるストーリーラインは、未熟な青年が個人主義を乗り越え、仲間と協力しながら巨悪と戦い、新しい未来を掴んでいく成長物語である。これが多くのビルドゥングスロマンと異なるのは、個人の人生上の〈内面的葛藤〉ではなく、迫り来る敵に対して連帯して闘うという〈行動〉に重きが置かれることだ。
「太陽の王子ホルスの大冒険」でも、物語の前半・後半で主人公ホルスの変化が描かれる。物語の前半の見せ場は、村を襲うオバケカマスとの戦いだ。最初はオバケカマスと村人たちが戦っていたが、一人の男性が亡くなってしまった。彼の妻は村人たちに向かって、一人で立ち向かうのではなく、みんなが協力して戦う重要性を訴える。ところが、ホルスは一人で村を抜け出して、オバケカマスと戦って勝利した。彼は村の英雄となった。この展開について、高畑勲は解説でこう述べている、
主人公であるホルスは力いっぱい生きようとします。しかし全てを一人で解決して来た彼は、村へ入ってからも、力を合わせることの意味やそのむつかしさを彼のセリフほどには理解していないのです。(高畑勲『映画を作りながら考えたこと