笑顔はその人の有能さを低く見せてしまう
さて、この「信用」についての議論と対応するように、私たちは他人を評価するとき、他人の「有能っぽさ」と「いい人っぽさ」の2つの次元を特に気にしているようだ、ということが、繰り返し報告されています※2。これは他人に限りません。私たちは、自分自身への印象をコントロールするときにも、有能でいい人であることをうまく他人に印象づけようとします。
ところが、残念なことに、有能さといい人っぽさを同時に印象づけるのはなかなか難しいようなのです。代表的なのが「笑顔」です。笑顔を見せる人はいい人っぽいと思われやすい、という研究は、1940年代から存在しています※3。しかも、微笑みよりも満面の笑みの方がいい※4。素晴らしいですね。では常に笑顔をふりまいていればいいかというと、残念なことに笑顔はその人の有能さを低く見せてしまうようなのです※4。有能そうだと思われたければ、逆に満面の笑みよりは微笑みの方がいいということになります。
さらにプリンストン大学のホロイエン氏らは、いい人だと思われるよう指示された参加者は、自分の有能さを低く見せるような言葉遣いをすることを好むことを発見しました※5。一方、有能な人だと思われるよう指示された参加者は、自分のいい人っぽさを低く見せるような言葉遣いをすることを好んでいました。有能さといい人っぽさは、どちらかしか強調できない、言い換えれば、片方を強調したければもう片方が低いことを強調しなければいけない、という、難しいトレードオフ関係にあるようです。
政治家のポスターから当落がわかる!
ところで、有能さといい人っぽさのどちらかしか選べないとしたら、私たちはいったいどちらを強調した方がよいのでしょうか。これに答える前に、政治家の選挙結果が候補者のポスター写真 からある程度予測できる、という研究を紹介したいと思います。なになに、面白そうだけど話に関係ないじゃないか、と思われるかもしれませんが、あとで話がつながってきますので、少しだけお付き合いください。
「政治家の顔」実験として有名なこの研究を行ったのは、プリンストン大学のトドロフ氏と、その共同研究者たちです※6。トドロフ氏らは、参加者に、米国上院、下院の候補者の「能力」を、顔写真から推測するように求めました。このとき呈示された顔写真は、選挙を一位で通過した政治家と、次点で惜しくも負けてしまった候補者のものでした。実はこの政治家の中には、当時まだ無名だったバラク・オバマ氏が含まれていたという小話もあるのですが、それはそれとして、結果はどうなったでしょうか?
顔写真を見ただけで回答されたはずの、候補者の推定「能力」値は、実際の選挙の勝敗を予測していました。当選した人の方が、次点だった人よりも推定能力値が高かったケースが、だいたい7割前後だったそうです(有能っぽさと得票差の相関係数が0.58でした)。さらに面白いことに、推定能力値が高いほど、次点の候補者との得票比率差が大きい、つまり大勝していた、という関係もあったそうです。私たちは、政治家を選ぶときには政策を重視するようにと言われたりするわけですが、実のところ、ポスター写真から得られた印象にも、ずいぶん引きずられているようなのですね。
ほうほう、有能そうな写真にすれば選挙で勝てるのか!と思った政治家の先生、ちょっとお待ちください。