薄井研二

薄井研二

(写真:Ground Picture / shutterstock

データの活用は無意味だったのか。データアナリティクス部門の創設で生産性が下がるとき

データを活用して大きく成長する企業もある一方で、成果が出せずにチームを解散させるところもある。その差は何なのか。フリーランスのデータアナリストとしていくつものチームにかかわってきた薄井研二氏は、その答えの一つは組織の関係性にあると考えている。

Updated by Kenji Usui on May, 11, 2023, 5:00 am JST

下請け化がもたらす弊害

まずはデータアナリティクスチームの下請け化という現象について解説します。多くの企業では既に事業を展開している部署の支援組織として、あとからデータアナリティクスチームを設立しています。そのため、組織内の力関係として事業部本体のほうが強く、データアナリティクスチームが弱い立場になりやすい傾向があります。データアナリティクスチームの立ち上がりの時期は事業部に対するドメイン知識が不足しており、事業部側にはデータアナリティクスの知見が不足していることから、事業部が知りたいことを聞いて調査方法はデータアナリティクスチームに一任され調査する、という依頼ベースの仕事の進め方になっていきます。

このようにして事業部が主導権を持っている状態が常態化すると、次第にデータアナリティクスチームは事業部の下請け組織となっていきます。事業部に言われるがままにデータ集計や分析を行うだけの状態です。この状態が長く続くといつまで経っても事業部とデータアナリティクスチームの間にシナジーが生まれず、生産性は上がらないどころかむしろ下がっていきます。

なぜ下請け状態になると生産性が下がってしまいやすいのでしょうか。これには多くの問題があるため一言で説明することは難しいのですが、ビジネスでデータを活かすには分析結果を行動に移し、行動した結果を分析するというサイクルを通して事業部とデータアナリティクスチームの双方が成長していく必要があります。しかし依頼者と下請けという関係性では、前提知識や価値観、優先度の違いから課題感の共有が難しく、お互いの立場の強さや信頼関係から生まれる積極的な意見や提案、その実行の柔軟さや迅速性が欠けてしまうのです。本来、決裁者と分析者は対等な立場であり顧客への還元という共通の目的をもっているはずですがそうはならず、次第に決裁者が顧客のように振る舞いはじめます。外部ベンダーを通したITシステムの開発が難しいように、このような状態では柔軟かつ迅速なデータの活用は難しくなります。

それでは、どのようにしてこの問題を解決していけばいいのでしょうか? 私の考える解決方法は、事業部とデータアナリティクスチームがパートナーとして並走することです。事業部とデータアナリティクスチームが普段から課題を共有し、同じ方向を向いて課題解決に取り組む状態を作り出すことが理想です。

分析とアクションのサイクルを通して成長していくためには、アクションを起こしやすい分析を行い、分析のしやすいアクションを計画していく必要があります。このためにはお互い密な連携が必須です。依頼者と下請けという立場では実現が難しいですが、お互いに並走することで強力なシナジーを生み出すことが可能です。