村上貴弘

村上貴弘

(写真:Yaping / shutterstock

ひとり歩きをしている「2 : 6 : 2の法則」。アリの集合知はもっと多様な社会を実現している

2割のアリがよく働き、6割はほどほど、2割のアリはさぼってばかりいる……という話を聞いたことがあるだろう。人間の組織にもなぞらえられ自然から学べる「真実」として語り継がれてきた逸話だ。しかし実は、この法則の通りに動くアリは一部の種だけである。アリはそれぞれの生態や環境に応じて、より多様で最適化された社会で暮らしている。

Updated by Takahiro Murakami on May, 22, 2023, 5:00 am JST

リアルな集合知は多様な社会を実現している

つまり僕のこのデータでいえることは、小さな社会でサボりながらのんびりと平和に暮らしているアリも、大きな社会で比較的一生懸命働きながら、まずまずな忙しさで生活しているアリも、超巨大な社会でアリ社会のみならず熱帯生態系の重要なポジションを占めるほどの規模で働き、富を守りぬき、短い命を燃やすアリたちも、すべてこの地球上にきちんとした居場所を確保しているという点である。

企業経営者の方などが、嬉々としてアリの「2 : 6 : 2の法則」のお話をしている場面を見ると、「いやいや、本当のアリの社会では何でもありなんですよ。その振り幅は、なかなか想像できないほどのレベルに達しているのですよ」と心の中でブツブツ呟いている。我々が集合知や暗黙知と聞いて想像する世界は、膨大なデータを駆使して、トライアンドエラーを繰り返せば最適な社会形態に集約されていくというものだと思うのだが、リアルな集合知の姿は「いろいろな」最適値に沿って、多様な社会が実現されているということだ。

人間の集合知であるGoogleやchatGPT、分散台帳方式で管理されている暗号資産などもかなり多様な世界の創出に近づいているとは思う。しかしながら、やはり人間の価値観を反映したアルゴリズムで構築された集合知は、本来の意味でのセレクションはかかりにくく、あくまで模擬的なものでしかない。道具としての役割は大きいが、そこに道具以上の意味はない。

今年の夏は、chatGPTなんかで遊んでないで、集合知の権化であるアリの社会を森や公園で眺めて学びを深めていきましょう!