森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

そのアドバイスは誰のため?アドバイスは「させていただくもの」

SNSの発達により、人々は見ず知らずの人にまでアドバイスを送るようになりました。なぜそんなことをするのでしょう。実は、アドバイスはする側にメリットが多いことなのです。詳しくみていきましょう。

Updated by Yuko Morimoto on June, 7, 2023, 5:00 am JST

アドバイスは「した」側に効く

お子さんに勉強をさせたい。わかります。ではどうすればいいでしょうか? 勉強すれば、いい成績を取れば、お小遣いをあげる、ゲームを買ってあげる……というような約束をするご家庭もあるでしょう。あるいは、勉強をうまく進める方法について、自分の経験をふまえて、お子さんにアドバイスをする親御さんもいらっしゃるでしょう。さて、ところでそのアドバイス、誰に「効く」でしょうか。

いえいえ、素直な子ほどアドバイスがよく「効く」というような話ではありません。そうではなく、アドバイスは、アドバイスをされたお子さんではなく、アドバイスをした親御さんにこそ、よく「効く」ようなのです。

アドバイスがアドバイスを「した」側によく効くようだ、という研究は、2019年に発表されています※1。研究対象者は、アメリカの高校に通う生徒たち約2,000人でした。このうち半分の生徒は、3学期の初めに、後輩に対して、最適な勉強場所や勉強方法についてアドバイスをしました。その後、「もっと勉強を頑張りたい」という匿名の後輩にやる気を起こさせるような手紙を書きました。この作業には、8分かかったそうです。

たったの8分。それだけのことで、アドバイスをした生徒は、何もしなかった残りの半分の生徒に比べ、3学期の成績が少し上昇していました。しかもこのアドバイスの効果は、生徒の性別や、元々の学業成績のレベルにかかわらず、一貫していました。つまり、一般には「アドバイスを受ける側だ」と思われがちな、成績の低い生徒でも、後輩にアドバイスした後には、成績のいい生徒と同様に成績が上昇していたのです。

同じ研究者によって、一般に、誰かからアドバイスを受けるよりも、誰かにアドバイスを与えたときのほうが、モチベーションが高まることも示されています※2。つまり、勉強に限らず、節約できずに困っている人や、感情コントロールをしたいと思っている人、ダイエットに失敗している人、就職活動で悩んでいる人でも、他人に向かって、自分が困っている側面についてアドバイスをすると、アドバイスをもらうよりも、ずっとやる気が出るというのです。

ところで、自分が失敗していること、自分が自信を持てないことについて他人にアドバイスをして、本当に効果があるのだろうか? と疑問に思われた方も多いかもしれません。実際、アドバイスの効果を予測させると、参加者の多くは、アドバイスをするよりも、アドバイスを受けた方がよほどモチベーションが高まるだろうと考えていたのです。アドバイスをすることの効果について、私たちはあまりよく予測できないようだ、と研究者は締めくくっています。

アドバイスのもたらすパワー

アドバイスをすると、関連するモチベーションが高まるだけではありません。シンガポール経営大学のシャロー氏らは、アドバイスをするだけで、他人への影響力を持っている感覚、つまり社会的パワーの感覚が高まることが示されました※3。

ということは、逆の関係もあるのだろうか? と考えたシャロー氏らは、さらに研究を重ねます。そして、予測の通り、社会的パワーを持ちたい、コントロール欲求の強い人ほど、機会があれば他人にアドバイスをすることを示しました。たしかに、積極的にアドバイスをしてくれる人は、わりと社会的パワーに前向きな人たちが多いような気がしますね。

ところで、アドバイスは、聞き入れられる場合もあれば、聞き入れられずに結局相手は別の選択をする場合もあります。シャロー氏らによると、「アドバイスありがとう、でも重要なことだからこれは自分で考えますね」と返された参加者では、社会的パワーの感覚が高まっていなかったそうです。アドバイスをして、それが受け入れられたときにだけ、社会的パワーの感覚を覚えることができる、ということのようです。

アドバイスを無視することのリスク

さてさて、それでは実際のところ、アドバイスはどれくらい聞き入れられるのでしょうか。ハーバード大学のブルンデン氏らは、過去1カ月の間に自分からアドバイスを求めたことのある、様々な業界の正社員119人を対象に調査を行いました。その結果、53%の人が、せっかく受けたアドバイスを無視または軽視したと回答していたそうです※4。半分以上という衝撃のデータに、思わず、「自分からアドバイスを求めたくせに?」と思ってしまいました。

聞き入れられなかった場合は、社会的パワーの感覚は満たされない、という研究を上で見てきました。アドバイスをした人は、自分のアドバイスが無視されたとき、どう思うのでしょうか。きっと……まあ、がっかりはするだろうな、と思いますよね。

ところが、ブルンデン氏によると、悪影響はもっと深刻で、アドバイスを無視された人は、相手に不快感を覚え、相手との関係を見直し、距離を取ろうとするというのです。しかもそれは、自分の専門分野についてアドバイスを求められた時の方が強いようです。相手の専門分野でアドバイスをしてもらうときは、そのアドバイスに従うつもりでいるか、関係を断つ覚悟で無視するか、になるのかもしれません。

また、アドバイスを無視されるわけではなくとも、自分を含めた複数の人にアドバイスを求めていると知るだけでも、相談してきた人の能力が低いと考え、気分を害し、もうアドバイスしてやらない、と考えてしまうそうです。一方で、アドバイスを求める方は、別の人に相談するくらい大したことじゃないだろう、と軽く考えているそうです。恐ろしいギャップが生じています。

ブルンデン氏は、このような齟齬が生じるのは、アドバイスをする側は、相手の選択肢を絞り込んであげようとしているのに対し、アドバイスを受ける側は、自分の選択肢を広げようとしているからではないか、と指摘しています。

アドバイスを受けるとき、アドバイスをするときの心得

ということで、他人にアドバイスを求めるときには、アドバイスを聞き入れなかったときには対人的なリスクがあることを覚えておいた方が良いでしょう。相手の専門分野についてであればことさらです。反対に、「あなたにだからご助言いただきたいのですが」なんて言って、実際にそのアドバイスに従えば、好印象を獲得することも可能かもしれません。

一方、アドバイスをするときはどうすればいいでしょうか。アドバイスをすることで社会的パワーを得たいのであれば相手にそのアドバイスを聞き入れさせた方がいいでしょうが、それでは相手との社会的関係に悪い影響が生じてしまうこともありえます。先に書いたような、アドバイスをして自分のモチベーションを高めるのが目的であれば、誰か架空の(自分と同じ問題で困っている)人を想定して、その人に向かって真摯なアドバイスを書いてみるのがいいのではないでしょうか。それで少し、自分のモチベーションが上がるはずです。

さて。今まさに、みなさまに向かってアドバイスをいたしましたが、決して社会的パワーを求めてのものではありません。みなさまが聞き入れてくれなくても、悪い評価をしたり、距離をとったりはしませんので、どうかご安心くださいね。

参考文献
1. Eskreis-Winkler, L. , Milkman, K. L. , Gromet, D. M. & Duckworth, A. L. A large-scale field experiment shows giving advice improves academic outcomes for the advisor. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 116, 14808–14810 (2019).
2. Eskreis-Winkler, L. , Fishbach, A. & Duckworth, A. L. Dear Abby: Should I Give Advice or Receive It? Psychol. Sci. 29、 1797–1806 (2018).
3. Schaerer, M. , Tost, L. P. , Huang,L.、 Gino, F. & Larrick, R. Advice Giving: A Subtle Pathway to Power. Pers. Soc. Psychol. Bull. 44, 746–761 (2018).
4. Blunden, H. , Logg, J. M. , Brooks, A. W. , John, L. K. & Gino, F. Seeker beware: The interpersonal costs of ignoring advice. Organ. Behav. Hum. Decis. Process. 150, 83–100 (2019).