森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

そのアドバイスは誰のため?アドバイスは「させていただくもの」

SNSの発達により、人々は見ず知らずの人にまでアドバイスを送るようになりました。なぜそんなことをするのでしょう。実は、アドバイスはする側にメリットが多いことなのです。詳しくみていきましょう。

Updated by Yuko Morimoto on June, 7, 2023, 5:00 am JST

アドバイスのもたらすパワー

アドバイスをすると、関連するモチベーションが高まるだけではありません。シンガポール経営大学のシャロー氏らは、アドバイスをするだけで、他人への影響力を持っている感覚、つまり社会的パワーの感覚が高まることが示されました※3。

ということは、逆の関係もあるのだろうか? と考えたシャロー氏らは、さらに研究を重ねます。そして、予測の通り、社会的パワーを持ちたい、コントロール欲求の強い人ほど、機会があれば他人にアドバイスをすることを示しました。たしかに、積極的にアドバイスをしてくれる人は、わりと社会的パワーに前向きな人たちが多いような気がしますね。

ところで、アドバイスは、聞き入れられる場合もあれば、聞き入れられずに結局相手は別の選択をする場合もあります。シャロー氏らによると、「アドバイスありがとう、でも重要なことだからこれは自分で考えますね」と返された参加者では、社会的パワーの感覚が高まっていなかったそうです。アドバイスをして、それが受け入れられたときにだけ、社会的パワーの感覚を覚えることができる、ということのようです。

アドバイスを無視することのリスク

さてさて、それでは実際のところ、アドバイスはどれくらい聞き入れられるのでしょうか。ハーバード大学のブルンデン氏らは、過去1カ月の間に自分からアドバイスを求めたことのある、様々な業界の正社員119人を対象に調査を行いました。その結果、53%の人が、せっかく受けたアドバイスを無視または軽視したと回答していたそうです※4。半分以上という衝撃のデータに、思わず、「自分からアドバイスを求めたくせに?」と思ってしまいました。

聞き入れられなかった場合は、社会的パワーの感覚は満たされない、という研究を上で見てきました。アドバイスをした人は、自分のアドバイスが無視されたとき、どう思うのでしょうか。きっと……まあ、がっかりはするだろうな、と思いますよね。

ところが、ブルンデン氏によると、悪影響はもっと深刻で、アドバイスを無視された人は、相手に不快感を覚え、相手との関係を見直し、距離を取ろうとするというのです。しかもそれは、自分の専門分野についてアドバイスを求められた時の方が強いようです。相手の専門分野でアドバイスをしてもらうときは、そのアドバイスに従うつもりでいるか、関係を断つ覚悟で無視するか、になるのかもしれません。

また、アドバイスを無視されるわけではなくとも、自分を含めた複数の人にアドバイスを求めていると知るだけでも、相談してきた人の能力が低いと考え、気分を害し、もうアドバイスしてやらない、と考えてしまうそうです。一方で、アドバイスを求める方は、別の人に相談するくらい大したことじゃないだろう、と軽く考えているそうです。恐ろしいギャップが生じています。

ブルンデン氏は、このような齟齬が生じるのは、アドバイスをする側は、相手の選択肢を絞り込んであげようとしているのに対し、アドバイスを受ける側は、自分の選択肢を広げようとしているからではないか、と指摘しています。