森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

ブリトニー・スピアーズの噛んだバブルガムに高値がついた理由

蓄積されたデータから見えてくる、人の心の不思議。それはときに一見非合理で妙な働きをします。今回はものに「触れる」効果について紹介します。

Updated by Yuko Morimoto on July, 4, 2023, 5:00 am JST

「なにか」がモノへと伝染するという信念により、ケネディの巻き尺には高値がついた

実は、この中古品への忌避には例外があります。芸能人や政治家などが所有していたモノとなると、今度は「接触した履歴がある」方がむしろ購入意欲が増し、高い金額を払っても良いと思われるようになります。それも、長い間触れていたもののほうがいい。たとえば、ケネディ大統領が持っていた巻き尺、ブリトニー・スピアーズの噛んだバブルガムなどには、オークションでかなりの高値がつけられています。

そしてこれもまた、それが「将来高く売れるから」とか「自慢できるから」だけではなく、有名人の「なにか」がマジカルにモノへと伝染するという信念によるもののようなのです。

イエール大学のニューマン氏らは、人が、自分の尊敬している人の持ち物を買い取りたいと考えることを明らかにしました。そして、その購入意欲が大幅に低下するのは、買い取りの際に殺菌処理を受けて前の持ち主の痕跡を消す、という条件だけであることを発見しました。せっかく元の持ち主に繋がるモノが、殺菌されて痕跡が消されてしまっては意味がない、というわけです。一方で、転売を禁じられても、あるいは自分が所有していることを他人に言えない条件でも、購入意欲はほんの少し低下しただけでした※5。

一桁のシリアルナンバーに価値がある?

モノを通じて元々の持ち主と繋がる、という感覚は、どうやらシリアルナンバーにも表れているようです。私たちは、たとえば100個しかない限定品を手に入れるとき、100番中003番のシリアルナンバーを持つ品の方を、097番のシリアルナンバーを持つ品よりも価値が高いと判断します。わかる!とお思いの方も多いのではないでしょうか。私も「わかる!」派です。ところが、それはなぜですか?論理的に説明してください、と言われると、これがなかなか難しいのです。なんとなくその方が価値があるような気がするから、としか言いようがありません。

イエール大学のスミス氏らは、これもやはりマジカル伝染効果によるものだと述べています※6。たとえ同じ日に制作されたモノであっても、それでもやっぱりシリアルナンバーが1に近い方が、より制作者に近いと感じられるからだ、というのですね。

スミス氏らは、ビートルズのWhite Albumというアルバムの中古オークションデータを分析し、シリアルナンバーが1に近いほど高く売買されていることを発見しました。最も高値がついたのはもちろんNo.1。数字だけでもビートルズに近づきたいのでしょう。みなさん、もしお手元に限定版のなにかがあれば、シリアルナンバーを確認してみるといいかもしれませんよ。