田中亮宇

田中亮宇

(写真:G-Stock Studio / shutterstock

ITシステムのリスクやコストも
デューデリジェンスされる時代に

ITシステムはすでに単なる便利ツールではなくなっています。それは企業の価値に直結するもの。脆弱なシステムや不備のあるシステムなどを使っていると企業価値が低く見積もられてしまうことすらあるのです。公認会計士の田中亮宇氏が解説します。

Updated by Ryo Tanaka on September, 26, 2023, 5:00 am JST

M&Aの際には、ITシステムのリスクやコストも調査される時代に

M&A(企業買収)は、競争が激しく環境変化が著しい昨今において、企業成長のためには欠かせない手段です。企業が事業統合や企業買収をする中で、価値算定における判断ミスにより、買手である企業の経営自体が揺らぐ事態も多発しています。M&Aにおける伴うリスクを少しでも軽減するためにデューデリジェンス(以下、DD)が存在します。

事業統合や企業買収(M&A)を行う際には、会計や税務、法務、労務といった従来の調査だけでなく、ITシステムやソフトウェア、ツールなどの調査も含まれており、これらは「ITデューデリジェンス(ITの資産査定)」(以下、ITDD)と呼ばれます。

システムが古い、システム同士が連携していないなど、M&Aの後に問題が発生するケースが多発していることから、とくに海外では実施されることが当たり前のカルチャーとなりつつあります。

ITDDを実施する理由は明確です。事業価値や将来の事業計画に与えうるITシステム上の課題を把握でき、IT視点での適切な企業価値の算出の支援及び将来の企業運営を見据えた阻害要因・リスク要因の早期発見をすることができるのです。

実際にITDD業務を担っている私たちは、この必要性を日々感じとっているのですが、実際に経営者の方々の所感はいかがなものなのでしょうか。過去にM&Aを経験したことがある企業の経営者と役員とM&A担当者を対象に、「ITデューデリジェンス業務」に関する調査を実施しました。

ITシステムのリスク把握と買収価格算定のためにITDDをしたい

そもそものITDDの認知度の割合ですが、2022年の調査ではM&Aの担当者らは8割近くが認知しています。また企業買収(M&A)の際には半数以上ITDDを実施したいと回答。もはやM&Aをする際において、ITDDはあたりまえに行われる調査の1つになっているようです。

では、どのような理由でITDDを依頼しようと思っているのでしょうか?

ITDDを依頼または検討したいと回答した方に理由を聞いたところ「ITシステムのリスク把握と買収価格算定(56.5%)」と回答した方が最も多く、次いで「M&A後の統合を見据えた調査(システム統合の是非、スケジュール)(55.8%)」「TSA(システム移行期間)の調整(28.6%)」と続きました。

ITシステムのリスク把握と買収価格算定、M&A後の統合を見据えた調査に関しては半数を超えており、気になっている方の割合が多いことが分かります。

現在のITシステムの状態を確認した上で、今後かかるコストを知りたい

さらにどのような調査をITDDで行いたいかという問いに対しては「ITシステム(ソフトウェア)の構築、作成コスト、年間コストの可視化など(46.2%)」と回答した方が最も多く、次いで「ITシステムの統合可否、統合後のコスト(40.3%)」「ITシステム全体の老朽化度合、再構築の必要性、改修コストなど(31.8%)」と続きました。

コスト面の調査を希望している方が多いようで、現在のITシステムの状態を確認した上で、今後掛かる費用について調査を行いたいと考えていることが分かります。