村上貴弘

村上貴弘

(写真:Badrul MB / shutterstock

穏やかな防衛ラインを形づくることで、大規模な戦闘を回避する

ロシアによるウクライナ侵攻からの戦争状態が1年以上も続き、新型コロナウイルス感染拡大で衰弱した世界経済に追い討ちともいえる大打撃を加えている。なぜ人間は同種内でありながら常に争い、暴力を振るい、殺戮まで犯してしまうのだろうか?集団で生活する生物の宿命なのだろうか?大規模な戦闘を回避する方法をアリの社会に学んでみよう。

Updated by Takahiro Murakami on July, 24, 2023, 5:00 am JST

超大国の軍事バランスは微妙な関係性で成立している

子どもたちの無邪気な疑問には、こう答えるしかない。

「基本的には実力は拮抗しているが、弱ってきたらグンタイアリが勝つ」

この襲撃は、おそらく21年目にしてハキリアリの女王アリが死亡し、コロニーが弱体化したがために起こったものと推定される。超大国の軍事バランスというのは微妙な関係性で成立していることが実態として理解できた。

アリの中には、他種のアリを専門に捕食するものもいる。新熱帯に生息するフタバハリアリ属(Simopelta)は、グンタイアリとは系統的に離れたグループのアリだが小規模な集団で森の中を放浪し、集団で狩りをすることで知られる。あまり研究がなされていないグループだが、このアリたちはオオズアリなどを専門に捕食する「アリ食」のアリである。オオズアリはフタバハリアリの密度が高くなると頭の大きな兵隊アリを多く生産して防御を固める。また、フタバハリアリも食料源のオオズアリを狩り尽くすことはなく、小規模な襲撃をするだけである。つまり、食う-食われるの関係にあるアリ同士であっても、通常は安定した状態を維持できるようなシステムが組まれていることがさまざまな研究から明らかになっている。

アリの防御が成立しない関係も存在する。サムライアリトゲアリ、ヤドリウメマツアリといった宿主のアリに巧妙に入り込んで、コロニーを乗っ取り、働きアリの労働力を搾取する社会寄生種のアリたちは匂いや音を宿主のアリたちに擬態して「なりすまし」として定着してしまう。しかしながら、社会寄生種はそもそも絶対数が少なく、メジャーな存在になることは原理上ありえない。したがって、宿主となってしまうアリたちも、この寄生種の存在を積極的に排除するメカニズムを進化させることができなかったのだろう。

国境線ほど戦闘が激しくなる人間、テリトリーを離れれば排除行動が緩くなるアリ

同種内の攻撃行動の制御に話を戻そう。
ほとんどのアリは、巣の周辺を自らのテリトリーとして認識し、そこに侵入してくるアリを排除する。その排除行動は巣の中心から離れれば離れるほど弱くなり、互いの巣の境界線ではおっかなびっくり威嚇することで、穏やかな防衛ラインを形作っている。国境線の紛争が激しいものになってしまう人間社会とは仕組みが大きく異なっている。どちらが安定した社会を作るかは、論を待たないだろう。

仮想敵を作り出し、自らの脳の中で不安と猜疑心を膨らませるだけ膨らませ、不安定な社会にしてしまっている人間は、真社会性昆虫のアリの社会からまだまだ遠くかけ離れた地点にいる。早く、進化的に安定な戦略まで人間社会も到達したいものだ。世の為政者の皆様、アリの社会から深く学んでほしいなぁ。