会社と社員に最適な「いいじかん」を増やす
コニカミノルタと聞けば、複合機、商業・産業印刷機、医療向け製品、計測機器などのメーカーとしてのイメージが強い。そのコニカミノルタはソリューション事業にも幅を広げ、顧客のDX(デジタル変革)を支援する。
DXソリューションの1つの旗印にしているのが「いいじかん設計」だ。会社と社員に最適な「いいじかん」を増やすことを目指した施策である。コニカミノルタジャパンでは、自社で新しいワークスタイルを実現するオフィス空間やIT環境整備を実践した上で、その成果をワークプレースのソリューションとして提供している。また一方で、DXソリューション事業部の創設前からコニカミノルタジャパンが提供していたDXソリューションの1つに、自治体向けの文書管理システムがある。文書を複合機で印刷するだけでなく、デジタル化して管理し、ワークフローと結びつけることで業務効率化を図るソリューションだ。
行政の意思決定や決裁スピードアップは市民サービスの向上につながっていく
地方公共団体などの自治体では多くの文書が発生する。適切な管理と効率的な処理が求められる中で、システム的に文書の管理と処理をサポートするのが文書管理システムだ。コニカミノルタジャパン DXソリューション事業部 ソリューションエンジニアリング統括部 統括部長の木村守宏氏は「各自治体は独自に文書管理規程を設けていて、これらに即した文書管理システムをチューニング、カスタマイズして提供します」と語る。
コニカミノルタの文書管理システムは、佐賀県庁を皮切りにすでに5つの庁で導入されている。「都道府県で見れば、10%以上のシェアを持っていることになります」と木村氏は冗談めかして言うが、実際それだけの支持を得ていることがわかるだろう。
文書管理の対象になるデータは、各自治体の規定で、10年保存、20年保存といった期間が定められている。種類によっては、30年分の文書が貯まり続けるため、書類での管理・処理では業務に負荷がかかる。デジタル化するだけでも、自治体の業務が効率化できるわけだ。その上、決裁を含めた自治体業務は文書管理と連携しているため、ワークフローなど業務効率化の側面も大きい。「市民サービスに直結する部分ではないため見逃されやすいですが、文書管理システムで行政の意思決定や決裁スピードアップが実現できれば、間接的に市民サービスの向上にもつながります」と、その効用を説明する。
「一般に自治体は民間よりも文書の量が多く、決裁する人は毎日多くの文書を開いて処理する作業を繰り返しています。特に都道府県クラスの役職者は文書を決裁することが仕事にならざるを得ません。紙の書類で回していたものをデジタル化してシステムで業務支援するだけでも、大きなDXです」
自治体で進む、文書管理システムの導入
コニカミノルタジャパンが文書管理システムを導入した先行事例となるのが佐賀県だ。
佐賀県は「最先端電子県庁構築事業に係る情報化推進計画」に基づき、2009年からICTの活用による県民や職員の満足度の高いサービスの提供という情報化推進計画を基本方針にしている。「利用者の利便性向上」「行政業務の効率化」および「ITコストの削減」という3つの目標を掲げ、文書管理システムを含む職員ポータルシステム等の刷新を決定した。この構想をコニカミノルタジャパンが具体化し、先進的な職員ポータルシステム等を実現したのだ。
佐賀県の先進性の代表的な例として、職員ポータルシステム等(文書管理システムを含む)刷新にいち早く着目した情報システム化の考え方・体制が挙げられる。変革への障害は多いが、他の自治体でも文書管理システムの必要性を認めれば導入が進む。木村氏は「システム化後、実際に業務適用が進むと職員の負荷は減ります。人口減少で行政の人材も減ることが想定される中、多くの自治体が同様のシステムを使っていけば人材の相互補完も可能です。導入する自治体が増えていくと、システムの統合などに向けての動きが活発になるかもしれません」と横展開の可能性を指摘する。
コニカミノルタジャパンが自治体の文書管理システムの受注、構築を進めていく中で転機が訪れた。ある庁の案件で、もともとコニカミノルタ本体との関係があり派生案件としてコニカミノルタジャパンのソリューション部隊が文書管理システムの構築に取り組むことになっていた。ここでは当初、アプリ ケーションを構築して当初指定のデータセンターに格納してみたが、思うようにパフォーマンスが得られなかった。
大量データ処理のインフラの違いで10倍もの性能差
そこで国内にデータセンターを持ち、独自のソフトウェア技術を使って高性能なクラウドサービスを提供するNeutrix Cloud Japan(NCJ)の存在を思い起こした。木村氏は「NCJ社長の田口勉さんとは旧知の仲で、いつかNCJのクラウドサービスを使ってみたいと思っていたこともあり、パフォーマンスを確認させてもらいました」と語る。
既存のデータセンターとNCJのクラウドサービスを比較したところ単に移行するだけでパフォーマンスが10倍ほど上がるという大きな効果が得られた。この文書管理システムは、自治体のソリューションとしてはデータボリュームも大きく、システムの複雑性も高い。一方で、システムインテグレーター(SIer)が入って一から構築するほどの規模感でもないこともあり、パフォーマンスとコストのバランスの取れたクラウドサービスが求められた。木村氏は「NCJのクラウドサービスに、ストレージだけでなくコンピュートリソースも含めて移行することにしました。パフォーマンスが高く、低廉なコストで利用できるNCJのサービスと出会えて、助かっています」と評価する。
また現場で対応するエンジニアからも「海外事業者のクラウドサービスよりも安定していて、同じ品質ならば低コストで運用できる」とNCJのクラウドサービスは高く評価されているという。そのうえで木村氏は「自治体のソリューションで使うにあたってこだわっているのは、国内資本の事業者が国内のインフラで提供するサービスという点です。データが国内にあり、外に出ないことの安心感はさらに今後さらに不可欠になっていくでしょう」と指摘する。
NCJのクラウドサービスを利用したインフラは、その後、別の自治体の文書管理システムで採用された。また庁から派生した形で、ある研究機構にもNCJサービスを使った文書管理システムを提供している。
自治体内でデータを分析することで、新しい価値が生まれる
文書管理システムを提供する中で、データやシステムのあり方についても感じることは増えてきているようだ。木村氏は「データや情報は誰のものかを考えなければならないでしょう。データは各自治体のものです。自治体ごとに個別にAI(人工知能)などでデータ分析して、地域の中のクセを把握して業務執行の効率化につなげていくことが可能となります 。さらに異なる自治体との間で分析結果の情報交換などをすることで、新しい価値や気づきが生まれていきます。地域のクセを比較して、ある地域で得られる合理性を、クセが似ている異なる地域が参考にするといった活用の可能性が広がります」と説明する。
どこかの特定の地域でソリューションを提供する際に「要件定義で苦労したことが、実は地域の特性によるクセだった」「特殊な要件と思 ったことが普遍的な課題だった」という意見交換が可能になるというわけだ。「将来的には、総務省が全国を俯瞰して国としてあるべき自治体のオペレーションを整理していく必要があるでしょう。自治体のデータを横串にして活用できれば、民間のデータの分析とは異なった未来が描けるのではないでしょうか」と木村氏は自治体のデータ活用の意義を唱える。
自治体ごとの様式を生かすことも、業務を効率的に進めるためには必要
こうしたデータ活用によるシステムの最適化は、都道府県間だけでなく、都道府県と市区町村などの関係でも価値を生み出す。
「データを分析することで、より合理性を高めるシステム構築の指針が得られるでしょう。都道府県と市区町村で同じシステムを導入したら、市区町村にとっては重すぎる可能性もあり、どの程度のシステムが求められるかを見極めるためにもデータの活用は不可欠です」
一方で、自治体のシステムならではの難しさもある。
「民間ならば、合理性を理由に業務の変革が認められるケースがあります。しかし自治体では、合理性だけを理由に職員の皆さんの仕事を180度転換させることは難しいのです。ルールや手順にある自治体ごとの様式を生かすことも、業務を効率的に進めるためには必要だと考えています」
さらに「自治体の職員にとって、システムは鉛筆などと同じ道具であることも重要な視点です」と木村氏はいう。保守運用も含めて、コニカミノルタジャパンのようなソリューション提供企業が、各自治体の文化に合わせたサポートを続けて、ようやく道具としての使い勝手を提供できる。国内ベンダーとしてのコニカミノルタジャパンのサポートと、安心安全を保てる国内クラウドの活用によって、自治体の文化や特性を生かしながら業務課題を解決するためのソリューションがようやく現実のものになってきているようだ。