森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

YouTubeを観すぎると、過剰な自信家になってしまう?

蓄積されたデータから見えてくる、人の心の不思議。それはときに一見非合理で妙な働きをします。今回は他人の成功場面を見ることがもたらす心の動きについて紹介します。

Updated by Yuko Morimoto on August, 1, 2023, 5:00 am JST

繰り返し成功場面を見せられると「自分にもできそう」という気持ちに

こうした「見ただけで自分にもできそうな気がする」効果は、飛行機の操縦に限りません。しかも、繰り返し他人の成功場面を見るほど、「自分にもできそう」という感覚が強くなっていくようです。

シカゴ大学のカーダス氏らは、机の上のお皿やグラスを倒さずにテーブルクロスを引くことができるか、とか、ダーツを投げて的のど真ん中に当てることができるか、とか、マイケル・ジャクソンみたいにムーンウォークができるか、といったような課題について、参加者に「自分にもできそうか」を予測させました。いずれの場合も、事前に一度だけ他の人が成功している場面を見るよりも、繰り返し成功場面を見た後の方が、「自分にもできそう」という気持ちが強くなっていました※3。

ということは、初心者を教育するときに「お、自分にもできそう」と思わせるには、誰かがうまくそれをやっている場面を、できれば何度も見せるといい、と言えるかもしれません。ただし、実際にスキルが上昇するわけではないようで、たとえばダーツを投げさせてみると、何度もビデオを見た人も、1度だけビデオを見た人も、成績に変わりはありませんでした。

テレビやYouTubeが勘違いを増長させる?

カーダス氏らは、現代ではテレビやYouTubeを通じてプロがなにかを簡単そうにやっている場面を手軽に見られるようになっており、そのせいで人は自分にはあれもこれもできるという気持ちになりやすいかもしれない、と述べています。私にも大いに身に覚えがあります。なんとなく、でっかいお魚を捌いたりできる気がするし、DIYで便利な棚を作るのも難しくなさそうだし、やったこともないゲームもうまくプレイできそうな気がしてしまう。これは現代のテクノロジーのせいなのでしょうか。しかし一方で、「言うは易し、行うは難し」ということわざを鑑みれば、昔から人類は「自分にもできそう」と勘違いし続けてきたのかもしれないなぁとも思えます。

ところで、カーダス氏らはさらに、3本のボウリングピンをジャグリングできるか、という課題を用いて研究を行っています。他の課題と同じく、単に動画を見た後には「自分にもできそう」と思っていた参加者たちですが、ボウリングピンを両手に1分間持たされた後では、ぐっと自信を失っていました。イジワルな実験ですが、参加者の気持ちを想像して笑ってしまったのは私だけでしょうか。

参考文献
※1. Smith, M. Rumble in the jungle: what animals would win in a fight? YouGov https://today.yougov.com/topics/society/articles-reports/2021/05/13/lions-and-tigers-and-bears-what-animal-would-win-f (2021).
※2. Jordan, K.、 Zajac, R. , Bernstein, D. , Joshi, C. & Garry, M. Trivially informative semantic context inflates people’s confidence they can perform a highly complex skill. R Soc Open Sci 9, 211977 (2022).
※3. Kardas, M. & O’Brien, E. Easier Seen Than Done: Merely Watching Others Perform Can Foster an Illusion of Skill Acquisition. Psychol. Sci. 29,521–536 (2018).