森本 裕子

森本 裕子

(写真:Universtock / shutterstock

他人の顔を覚えない人は、自分を「偉い」と思っている?

データを参照することで見えてくる人の心の不思議な動き。今回は、社会的地位と「他人の顔を見ること」の関係を紐解きます。

Updated by Yuko Morimoto on October, 17, 2023, 5:00 am JST

社会的ランクが高い人の目撃証言は役に立たないかもしれない

ダイツ氏は次の研究で、参加者にたくさんの顔写真を見せて、その記憶成績を比較しました。このとき、参加者にはあとで記憶テストがあることは伏せてありました。すると予想通り、社会クラスが高いほど、記憶成績が低くなるという関係が見られました※5。他人の顔に注意を払っていないのだから、当然そうなるだろうなと思わされます。

さて、社会クラスによって顔記憶成績に差があるのはなぜでしょうか? もともとの顔記憶スキルに差があるのでしょうか。それとも他人の顔を記憶するモチベーションに違いがあるのでしょうか。

これを確認するため、ダイツ氏は続いて参加者に「これから見せる顔を記憶してください」と伝えた上で顔写真を見せる課題を行いました。すると、社会クラスによる影響はなくなり、社会クラスが高い人も、社会クラスの低い人と同じように他人の顔を記憶できていました。つまり、他人の顔を記憶するスキルに差があるのではなく、モチベーションに差があるということになります。

ということで、ダイツ氏は犯罪などの目撃証言においても目撃者の社会的ランクを考慮すべきではないだろうかと述べています。犯罪が起きたときに「あ、これ、記憶してあとで思い出そう」と思って記憶することはあまりないでしょう。だとすれば、一般になんとなく信じられているのとは反対に、社会クラスの高い人の目撃証言ほど、正確さが低いという可能性もあるわけです。

さて、この記事の下には私の顔写真が掲載されています。あなたは見るでしょうか、それとも見ないでしょうか。あなたが偉いのなら、きっと見ないことでしょう。だって偉いのだから。……ですよね?

参考文献
※1. Foulsham, T. ,Cheng, J. T.、 Tracy, J. L.、 Henrich, J. & Kingstone, A. Gaze allocation in a dynamic situation: effects of social status and speaking. Cognition 117, 319–331 (2010).
※2. McNelis, N. L. & Boatright-Horowitz, S. L. Social monitoring in a primate group: the relationship between visual attention and hierarchical ranks. Anim. Cogn. 1, 65–69 (1998).
※3. Dalmaso, M. , Pavan, G. , Castelli, L. & Galfano, G. Social status gates social attention in humans. Biol. Lett. 8, 450–452 (2012).
※4. Dietze, P. & Knowles, E. D. Social Class and the Motivational Relevance of Other Human Beings: Evidence From Visual Attention. Psychol. Sci. 27, 1517–1527 (2016).
※5. Dietze, P. , Olderbak, S. ,Hildebrandt, A. , Kaltwasser, L. & Knowles, E. D. A Lower-Class Advantage in Face Memory. Pers. Soc. Psychol. Bull. 1461672221125599 (2022).