井山弘幸

井山弘幸

(写真:AlexDonin / shutterstock

逆転の発想で儲けたければ、笑わせる方法を考えよう

SaaS事業の広まりは多くの人に一攫千金のチャンスをもたらしている。立ち上げに際して重要になるのは、もちろん事業のアイディアだ。逆転の発想が大発明につながることもある。着想を得るためのヒントを紹介しよう。

Updated by Hiroyuki Iyama on November, 17, 2023, 5:00 am JST

発見は面白い

テレビ番組や漫画のタイトルにもなっている叫び声「ヘウレーカ(heureka)!」は、もとは何かを発見したときの歓喜を表わすギリシャ語で、教育法の一つである発見法、ヒューリスティックス heuristics の語源でもある。いったい誰が歓喜にあふれ「ヘウレーカ」と叫んだのかと言えば、古代シシリー島の浴場で王冠の偽造があったかどうか悩んでいたアルキメデスである。建築家ヴィトルヴィウスが伝える2千年前のアルキメデスの雄たけびは、繰り返し語られ、幾度も戯画化されてきた。邪な細工師の企みを暴く実験を思いついた瞬間、アルキメデスは会心の笑みを浮かべるか、あるいは呵々大笑しただろう。それほど発見行為に笑いはつきものだ。新しいアイディアを思いつく、あるいは巧妙な発想を得るとき、どうしてわれわれは笑うのだろう。笑いやユーモアと創造性との関係について考えてみようと思う。

女房が出てくる自販機

こんなジョークがある。人口千人当たり約3.2人と世界2位の離婚率が問題となっているアメリカの話。ある起業家がユニークな自動販売機を開発した。なんと1ドル硬貨を入れると女房(夫)が下から出てくる。これが大当たりで起業家は巨万の富を得た。この儲け話を耳にした別の発明家はもっと優れた自動販売機を開発したそうだ。オチを語る前に、どんなオチなのかを学生に予想させたときの結果を示そう。

・女房と一緒に結婚証明書が出てくる
・LGBT専用の機械ができる
・ポイントが溜まる
・1ダースの大人買いができる
・返品保証期間が1年つく
・オマケに食玩

なかなかの出来だと思うけれど、もとのジョークのオチは根本的に発想が異なる。
女房(夫)を入れると1ドル硬貨が出てくる機械
であった。このパンチラインの巧妙さはどこにあるのだろう。6つの予想はそれなりに面白くはあるけれども、いずれも「自販機はコインを入れるもの」という先入観を疑おうとしない。人間を挿入する機械など誰しも考えない。誰も思いつかない逆転の発想に感嘆し、こらえ切れずに笑うのである。

そもそも自動販売機の発明はどれほど古代の人びとの耳目を驚かせたことだろう。紀元前215年頃アレキサンドリアのヘロンはコインを入れると聖水が流れる最古の自販機を発明した。もちろん電気仕掛けなど不可能な時代だ。コインを投入するとその重みで梃子がさがり、水槽の蛇口の蓋が開く仕組みになっている。てこの原理は起重機のように、人間の手で重い荷物や岩石をもちあげる仕事に応用されていたが、聖水自販機では人間の手ではなくコインがレバーを押し下げると水が流れる。ここでも発想の転換がなされたのである。

自販機は産業社会が発達した19世紀に多く出現し、タバコ、切手や書籍(禁書販売機なんてのもあった)などが売られるようになるけれども、「コインを投入する」というヘロンの原案はキャッシュレス決済が導入されるまで続いたのである。

もっともコインでないものを入れる実際の装置には、2007年に熊本市慈恵病院に設置された賛否両論の「こうのとりのゆりかご」という名前の「赤ちゃんポスト」がある。育てることができず、やむなく乳児を手放し後事を施設に託す仕組みだ。もちろんお金は出てこない。不在時に荷物を受け取る無人の宅配ボックスも同様である。

女房を入れるとお金が出てくる仕掛にもっとも近いのが、ドライブスルーの質屋だ。たとえば帯広市のグリーンヒルは1990年頃からこのシステムを導入している。人に見られることなく質草を渡せることがメリットである。ドライブスルーを日本で最初に導入したのはマクドナルドではなく、江戸時代嘉永2年創業の山本海苔店である。味付け海苔の商品化も、ドライブスルーも、山本海苔店が最初である。昭和40年代に百貨店に客足を奪われたことがきっかけだと言う。デパートの閉店後も車に乗ったまま海苔を買うことができる方式は当時斬新だった。