森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

既に答えは出ています。夫婦関係を良好に保つ「家計のスタイル」

長年議論の的となっているようなことでも、調査データを基にすでに「答え」が出ている事柄は少なくありません。夫婦の家計を分けた方がいいのか、統一した方がいいのかという問題もその一つです。

Updated by Yuko Morimoto on October, 31, 2023, 5:00 am JST

家計は一つにした方がうまくいく?

結婚するときに決めなければならないことの一つに、家計のスタイルがあります。共有口座を持つのか、お小遣い制にするのかしないのか、生活費のうちどの費目をどちらが払うのか、などなど、細かいスタイルはカップルの数だけあるわけですが、大雑把に、家計をカップルで一つにするのか、一つにしないのか、と分けてみましょう。

さて、ここで問題です。カップルで家計は一つにした方が関係はうまくいくのでしょうか? それとも、むしろ家計を分けた方が関係はうまくいくでしょうか?

コロラド大学ボルダー校のグラッドストーン氏らは、この疑問に取り組みました※1。まず、1,005人の既婚者を対象に行った調査で、参加者のうちどのくらいが家計を共有しているのかを調べます。その結果、65.4%が家計を完全に統一していることがわかりました。一方、すべての家計を完全に分けていたのは12.1%でした。

問題は、この既婚カップルの関係がうまくいっているのかどうかです。参加者の「どの程度現在の関係に満足しているか」に対する回答を分析したところ、家計を完全に一つにしているカップルの関係満足度が一番高くなっていました。家計を完全に分けていると満足度が低く、部分的に家計を共有している場合はその中間でした。どうやら家計は一つにまとめた方がカップルの関係はうまくいくようですね。

もちろん別の可能性もあります。家計を一つにするから満足度が高まるのではなく、実態はその逆で、満足度の高いカップルだから家計を一つにしているのかもしれません。

離婚率が高いのはどちら?

ということで、グラッドストーン氏は、長期にわたるイギリスの既婚カップル調査データを分析しました。家計を一つにしたあとに満足度が高くなるのか、満足度が高くなるとそのあと家計を一つにするのか、どちらなのかを識別しようというのですね。その結果、グラッドストーン氏らの予測通り、家計を一つにしたカップルは、翌年の関係満足度が高くなっていることが示されました。

だったら離婚率はどうだろう? ということで、既婚カップルを対象に家計を一つにしているかどうかを調査してから、12-14年後の離婚率を調べました。そしてまたまた予想通り、家計を別々にしていたカップルの12-14年後の離婚率は30.2%だったのに対し、家計を一つにしていたカップルの離婚率は24.2%と、家計統一カップルの方がその関係が長続きするという結果が得られたのでした。

無理やり口座を統合させても……

口座を一つにするのがいいというのはわかったとして、問題はその次です。無理やりカップルの口座を統合させても効果はあるのでしょうか。それとも、自分たちの意思で望んで統合するのでないと意味はないのでしょうか。

ということで、インディアナ大学のオルソン氏らは、口座を完全に分けていることを条件に、結婚直前または新婚1年以内のカップルに協力を依頼します※2。参加したカップルには、口座を統一するかどうかについて指示し、その後2年間、指示通りに口座を管理してもらいました。

口座統一の効果についてきちんと調べるため、比較対象として「口座について指示されなかった」カップルの関係満足度も調べてありました。まずはこちらのカップルの変化について見てみましょう。何も指示されなかったカップルの関係満足度は、時間が経つごとに低下していきます。この結果自体は、過去に行われた他の研究結果と同じです。ご存知のこととは思いますが、既婚カップルの関係満足度は、新婚から時間が経つと低下するのです。

では2年間、口座を分けたままにし、共有口座を開かないように指示されたカップルの満足度はどうだったでしょうか。すでにご紹介したグラッドストーン氏らの研究結果と一致して、口座を分けるよう指示され、実際に口座を分けたままにしたカップルの関係満足度は、やはり時間が経つごとに低下していました。

ところが一方、共有口座を新設してそれぞれ元々持っていた口座は使わないようにと指示されたカップルでは、関係満足度の低下が起こっていなかったのです。あらびっくり。いますぐ夫の口座を封鎖しようかと思ってしまいますね。どうやら、本人たちの意思ではなく、無理やり口座を統一しても、カップルの関係維持に役立つようです。

日本の既婚カップルでは?

日本だとどうなの?と思われたでしょうか。なんともありがたいことに、最初にお話ししたグラッドストーン氏は、日本のデータも分析してくれています。

まず、日本の既婚カップルでは「夫のお小遣い以外は妻がすべて管理している」というケースが最も多く、60.4%でした。わかるわかるという感じですよね。このケースを「家計を一部共有している」と定義し「すべての収入は一つにし、それぞれが必要なお金を引き出している」つまり「家計を完全に一つにしている」カップル(13.4%)、および「夫と妻のお金は完全に分けている」カップル(4.7%)と比較しました。

その結果、日本の場合には、家計を完全に分けているカップルの関係だけが他に比べて悪く、家計を一部共有している、つまり夫だけお小遣い制というカップルと、家計を完全に一つにしているカップルの満足度には差がないという結果になっていました。果たしてみなさんのご家庭はいかがでしょうか。

無駄遣いを減らしたければ、自分の口座を統一する

あのね、わたしは既婚者じゃないし、結婚の予定もないんだよね、という方には、次の研究が参考になるかもしれません。自分の銀行口座をたくさん持つのと、口座を一つにまとめるのの、どちらの方が貯金が増えるでしょうか、というものです。

ユタ大学のミシュラ氏らは、自分の口座が一つしかない場合に比べ、口座を複数持っている場合には、無駄遣いを自分の中で正当化しやすく、その結果たくさん支出をしてしまうのではないかと論じています3。せっかくなので、ミシュラ氏らの研究を少し紹介しましょう。

ミシュラ氏は、研究1で、参加者にいくつかのタスクに取り組んでもらいました。タスクの成績に応じて、あとで使える(あるいは持って帰ることのできる)お金がもらえるのですが、このお金がひとまとまりに表示されている条件(例:100ドル)と、3つに分けて表示されていて(例:50ドル、20ドル、30ドル)お金を使いたいときにはどこから支払うかを指定する必要のある条件がありました。その他の条件はまったく同じです。参加者は、タスクを終了したあと、このお金を使って、いろんなグッズを買うことができました。

参加者が、自分の稼いだお金のうち何%をグッズに費やしたか調べたところ、3つの「口座」からお金を支払う条件では、平均して稼いだ金額の20%が使われていたのに対し、お金がひとまとまりで表示された条件では、グッズに費やされた金額は平均14%でした。

面白いのは、この口座数の効果が、金遣いの荒い人でだけ見られたということです。金遣いの荒い、つまり、お金を使う理由を見つけては支出を自分の中で正当化する必要のある人は、口座が増えるとたくさんお金を使ってしまうというのですね。一方、倹約家の人では、グッズに費やす金額は口座の数に影響されていませんでした。

研究3では「あなたがそのグッズを買う理由を書いてください」と指示しています。自分の頭の中で正当化するのは簡単だけど、理由を文章に書いて説明しないといけないとなると、口座が増えても無駄遣いしづらくなるのではないか? というわけです。実際、他人に購入理由を説明させる条件では、口座数による影響はなくなりました。無駄遣いせず、稼いだ金額の14%だけグッズを買って、残りは家に持って帰ったようです。

もちろん、貯金用口座のようなものを別に持って、そこからは絶対に使わない、というような運用なら話は別でしょう。実際、ミシュラ氏の研究に参加した人のうち、3つの口座にお金が割り振られた人たちの70%近くは、特定の口座からではなく、2つ以上の口座から満遍なくお金を支出していました。ということで、より正確にいうならば、「支出用口座」を複数持つと無駄遣いしてしまいがち、ということになるかもしれません。

まとめると、結婚生活をうまくいかせたいならお互いの口座はなるべく統一しておいた方がよく、お金を貯めたいなら自分の口座もなるべく統一しておいた方がよいということになるでしょうか。なにかを買うたびに他人に購入理由を説明することのできる人ならば自分の口座を複数持っても問題ないようですが、もしも私の夫が頻繁にそんな説明をしてきたら、だんだん愛が冷めそうな気がします。

参考文献
※1. Gladstone, J. J. , Garbinsky, E. N. & Mogilner, C. Pooling finances and relationship satisfaction. J. Pers. Soc. Psychol. 123, 1293–1314 (2022).
※2. Olson, J. G. , Rick, S. I. , Small, D. A. & Finkel, E. J. Common Cents: Bank Account Structure and Couples’ Relationship Dynamics. J. Consum. Res. ucad020 (2023).
※3. Mishra, H. , Mishra, A. , Rixom, J. & Chatterjee, P. Influence of motivated reasoning on saving and spending decisions. Organ. Behav. Hum. Decis. Process. 121, 13–23 (2013).