森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

既に答えは出ています。夫婦関係を良好に保つ「家計のスタイル」

長年議論の的となっているようなことでも、調査データを基にすでに「答え」が出ている事柄は少なくありません。夫婦の家計を分けた方がいいのか、統一した方がいいのかという問題もその一つです。

Updated by Yuko Morimoto on October, 31, 2023, 5:00 am JST

無駄遣いを減らしたければ、自分の口座を統一する

あのね、わたしは既婚者じゃないし、結婚の予定もないんだよね、という方には、次の研究が参考になるかもしれません。自分の銀行口座をたくさん持つのと、口座を一つにまとめるのの、どちらの方が貯金が増えるでしょうか、というものです。

ユタ大学のミシュラ氏らは、自分の口座が一つしかない場合に比べ、口座を複数持っている場合には、無駄遣いを自分の中で正当化しやすく、その結果たくさん支出をしてしまうのではないかと論じています3。せっかくなので、ミシュラ氏らの研究を少し紹介しましょう。

ミシュラ氏は、研究1で、参加者にいくつかのタスクに取り組んでもらいました。タスクの成績に応じて、あとで使える(あるいは持って帰ることのできる)お金がもらえるのですが、このお金がひとまとまりに表示されている条件(例:100ドル)と、3つに分けて表示されていて(例:50ドル、20ドル、30ドル)お金を使いたいときにはどこから支払うかを指定する必要のある条件がありました。その他の条件はまったく同じです。参加者は、タスクを終了したあと、このお金を使って、いろんなグッズを買うことができました。

参加者が、自分の稼いだお金のうち何%をグッズに費やしたか調べたところ、3つの「口座」からお金を支払う条件では、平均して稼いだ金額の20%が使われていたのに対し、お金がひとまとまりで表示された条件では、グッズに費やされた金額は平均14%でした。

面白いのは、この口座数の効果が、金遣いの荒い人でだけ見られたということです。金遣いの荒い、つまり、お金を使う理由を見つけては支出を自分の中で正当化する必要のある人は、口座が増えるとたくさんお金を使ってしまうというのですね。一方、倹約家の人では、グッズに費やす金額は口座の数に影響されていませんでした。

研究3では「あなたがそのグッズを買う理由を書いてください」と指示しています。自分の頭の中で正当化するのは簡単だけど、理由を文章に書いて説明しないといけないとなると、口座が増えても無駄遣いしづらくなるのではないか? というわけです。実際、他人に購入理由を説明させる条件では、口座数による影響はなくなりました。無駄遣いせず、稼いだ金額の14%だけグッズを買って、残りは家に持って帰ったようです。

もちろん、貯金用口座のようなものを別に持って、そこからは絶対に使わない、というような運用なら話は別でしょう。実際、ミシュラ氏の研究に参加した人のうち、3つの口座にお金が割り振られた人たちの70%近くは、特定の口座からではなく、2つ以上の口座から満遍なくお金を支出していました。ということで、より正確にいうならば、「支出用口座」を複数持つと無駄遣いしてしまいがち、ということになるかもしれません。

まとめると、結婚生活をうまくいかせたいならお互いの口座はなるべく統一しておいた方がよく、お金を貯めたいなら自分の口座もなるべく統一しておいた方がよいということになるでしょうか。なにかを買うたびに他人に購入理由を説明することのできる人ならば自分の口座を複数持っても問題ないようですが、もしも私の夫が頻繁にそんな説明をしてきたら、だんだん愛が冷めそうな気がします。

参考文献
※1. Gladstone, J. J. , Garbinsky, E. N. & Mogilner, C. Pooling finances and relationship satisfaction. J. Pers. Soc. Psychol. 123, 1293–1314 (2022).
※2. Olson, J. G. , Rick, S. I. , Small, D. A. & Finkel, E. J. Common Cents: Bank Account Structure and Couples’ Relationship Dynamics. J. Consum. Res. ucad020 (2023).
※3. Mishra, H. , Mishra, A. , Rixom, J. & Chatterjee, P. Influence of motivated reasoning on saving and spending decisions. Organ. Behav. Hum. Decis. Process. 121, 13–23 (2013).