ブロックチェーンの可能性
国内外のスポーツ界でテクノロジーを活用した変革の取り組みが進められる中で、ここ数年期待が高まっている技術の1つがブロックチェーンだ。ブロックチェーンは「ビットコイン」などの仮想通貨の基幹技術で「分散型台帳」とも呼ばれる。インターネットなどオープンなネットワーク上で高いセキュリティや改ざん耐性、透明性を実現でき、幅広い用途に応用できる技術だ。特にスポーツ業界においては、このブロックチェーンを応用したNFTとファントークンという2つの技術・仕組みが盛り上がりを見せている。
NFTとスポーツ業界
NFTは「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略称。ブロックチェーンを利用してデジタルデータに唯一無二の価値を付与する技術で、当初はアートやゲームなどの分野で活用されてきた。特に2021年になってから市場が急拡大し、Reutersによれば、2021年上半期のNFT取引量は前年同期比で200倍近い約25億ドルまで拡大したという。
スポーツ業界におけるNFTの代表的な活用事例といえば、カナダのDapper Labが2020年10月にスタートしたNFTトレーディングカードサービス「NBA Top Shot」が挙げられる。NBAの選手たちのプレー動画が記録されたデジタルトレーディングカードを 収集・売買できるこのサービスは、発売から1年で7億ドル(約800億円)以上を売り上げたという。なお、Dapper Labは昨年9月には米NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)ともNFT事業での提携を発表している。また、日本国内では2021年8月、JリーグがNFTを活用したゲームの提供でライセンス契約を結んだことを発表。同12月にはプロ野球のパ・リーグがメルカリと共同でのNFT事業の開始を発表していた。
新たな資金調達手段となるファントークン
一方、ファントークンはスポーツチームなどが発行するブロックチェーンを用いた一種のデジタル資産で、スポーツ業界の新たな資金調達手段として注目を集めている。このトークンは購入者の需要に応じて価格が変動し、チーム運営に関わる意思決定への投票権や限定プロモーション・VIP体験などの報酬が付与されることも一般的だ。2021年8月のBloombergの報道では、欧州の主要なサッカークラブがファントークンの発行で調達した金額が2億ドル(約230億円)を超えたという話も伝えられていた。
ファントークンについては、バスケットからF1、総合格闘技団体、eスポーツまで、多くのスポーツチームが発行しているが、最も事例が多いのはサッカークラブだろう。たとえば、2020年6月にスペインのFCバルセロナが発行した「BAR」というファントークンは発売から2時間足らずで売り切れとなり、同チームは130万ドル(約1億5000万円)を調達したという。また、2021年8月にそのバルセロナのスター選手であるリオネル・メッシがフランスのパリ・サンジェルマンに移籍するという噂が浮上した際には、同チームの「PSG」というファント ークンの価格が急騰。その後、この移籍が実現した際には、同選手が契約金の一部を「PSG」で受け取ったことも話題になっていた。なお、国内のプロスポーツチームでは、昨年1月にJリーグの湘南ベルマーレが初めて発行している。