今井明子

今井明子

カンザスの平野に発生した竜巻。

(写真:Huntstyle / shutterstock

竜巻はなぜ避けられないのか

竜巻は台風とはけた違いの強さの風で建物をなぎ倒していくが、事前に予想することは不可能に近い。なぜ、予想できないのか。そして竜巻の印象が強いのは、なんといっても北アメリカである。同じ温帯なのに、なぜ北アメリカの竜巻は強くて多く、日本では少ないのか。気象予報士が解説する。

Updated by Akiko Imai on September, 29, 2022, 5:00 am JST

ケタ違いに強い風が吹く竜巻

秋といえば台風をイメージする人が多いと思うが、実は竜巻も秋の風物詩である。なぜかというと、竜巻は積乱雲から発生するものであり、台風は積乱雲の塊だからである。積乱雲といえば、雷雲の別名が示すように、雷をもたらすものというイメージが強いのだが、竜巻を発生させることもあるのだ。といっても、あまり秋が竜巻シーズンだという印象は薄い。それは日本で竜巻が発生することが珍しいからである。

精度数%の竜巻注意情報

よく、天気予報で「大気の状態が不安定です」というフレーズが登場するが、それが積乱雲が発生しやすいという状況であることは以前にも述べた。この「大気の状態が不安定です」のフレーズの次には、必ずと言っていいほど「落雷や降雹、突風にご注意ください」というフレーズが続く。この「突風」の一種が竜巻だ。なぜ、「竜巻」じゃなくて「突風」というのかというと、積乱雲から発生する突風は、竜巻だけでなくダウンバーストなど、ほかの種類の突風も存在するからだ。

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竜巻の被害で崩壊した家。(写真:Dustie / shutterstock

ちなみに、積乱雲の発生を事前に予測することは難しいと以前の記事でも述べたが、竜巻を予測することはそれに輪をかけて難しい。積乱雲が直径数km~十数kmで、寿命は30分から1時間だが、竜巻は大きなものでも直径が数百メートル程度と非常に小さい現象であるうえ、数分で消えてしまうからだ。現在、日本では突風が発生した後、何か建物などが壊されたあとに気象庁の職員が向かい、その破壊の軌跡を見て、「竜巻が発生したとみられる」と発表している。予測でも実況でもなく、事後報告なのである。ちなみに、竜巻の通った後は線の形をしているが、前述のダウンバーストの場合は円形など、面の形に広がっている。だから、「何か突風が発生したぞ」→調査→被害に遭った場所の破壊跡の形を見て風の種類を判別→発表ということになるのだ。

ただ、予測しにくいとはいえ、一応予報もある。竜巻が発生する恐れが高まっているときには「竜巻注意情報」が出される。ただし、この情報は精度が数%程度と低いうえ、ひとつの県を1~4個程度に分けたエリアで出されるため、竜巻注意情報が出されても自分のいる場所で発生しないことのほうが多い。

家が吹っ飛ぶこともある

竜巻は、強いものだと風速が50m/sを超えることもあり、発生すると車や家が吹っ飛んでしまうこともありえる。「オズの魔法使い」という物語でも、冒頭で家が竜巻に巻き上げられて異国にまで飛ばされてしまう描写がある。荒唐無稽な描写のように思えるが、決してありえないともいいきれないのだ。

竜巻の被害には「藤田スケール」という指標を用いる。これは1971年にシカゴ大学の藤田博士が考案したもので、地震の震度のように、被害状況に応じてランク分けされる。そのランクから風速を推測する。日本ではこれまでF3までの竜巻しか発生したことはなかったが、アメリカではF5のものも発生することもある。それを考えても、アメリカは竜巻大国なのである。

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出典:気象庁HP

スーパーセル型と非スーパーセル型がある

さて、竜巻を生む積乱雲の多くは「スーパーセル」と呼ばれるものだ。このスーパーセルというのは、巨大な積乱雲で、寿命も数時間程度である。通常の積乱雲の寿命は30分~1時間程度であることを考えると、非常に寿命が長い積乱雲といえる。

なぜこんなに寿命が長いかというと、巨大な積乱雲の中で上昇気流と下降気流が共存しているからである。通常は、積乱雲は強い上昇気流によって発生するが、雨が降り出すと雲の中に下降気流が発生し始め、上昇気流を打ち消す。それで積乱雲は衰弱して寿命を終えてしまうのだ。しかし、上昇気流が下降気流と共存して、お互いを打ち消しあわなければ、寿命は長くなるのである。

スーパーセルは上から見ると雲全体で回転しており、その内部には「メソサイクロン」と呼ばれる強い上昇気流を伴う小さな低気圧がある。地上の風がぶつかり合うなどして渦ができ、メソサイクロンがその渦を上昇気流によって引きのばすと、直径が数十~数百mほどの細い渦となる。フィギュアスケートのスピンを見ると、最初に腕を伸ばしているときは回転がゆっくりだが、腕をたたみ、直径を短くすると、回転が速くなる。それと同じ原理で、メソサイクロンによって細く引き伸ばされることで、渦の回転が速くなり、強い風を生み出すというわけだ。ただし、竜巻がすべてスーパーセルから生まれるわけではなく、弱い前線の上にも竜巻が発生することがある。

なぜアメリカは竜巻大国なのか

「オズの魔法使い」の舞台はアメリカのカンザス州だが、実際にこのあたりは日本よりも竜巻が多く発生する場所として知られている。2021年12月10~11日には8つの州で竜巻が60個以上も発生し、Amazonの倉庫が破壊されたことがニュースにもなった。アメリカではあまりにも竜巻が発生するので、竜巻用のシェルターがあるほどだ。地震大国の日本とはまた違った苦労がある。しかし、なぜ北アメリカで竜巻が発生しやすいのだろうか。

その理由は、広大な草原である。竜巻は、平地か海の上でしか発生しない。広い平地がないと、渦が壊されてしまうからである。日本は平野が少ないため、陸上での竜巻の発生数がどうしても少なくなるのだ。冒頭で述べた、「秋は竜巻シーズンである」という記述にピンとこないのも、そういった背景がある。

その一方で、北アメリカには広大な草原があるため、竜巻が発生しやすい。この草原に、カリフォルニアからの乾燥した暑い空気やメキシコ湾からの高温多湿な空気、そしてロッキー山脈を越えて吹き降りる風や高緯度からの冷たい風など、さまざまな性質の空気が混ざり合う。これがスーパーセルの発生のしやすさと関係していると考えられている。

ただ、日本でもスーパーセルが全く発生しないわけではない。2012年に茨木県のつくば市で発生した竜巻は、スーパーセル由来であった。竜巻はめったに発生しないため、年々発生回数が増えているのかどうか、勢力が強まっているのかどうかの傾向はわからない。しかし、日本であってもときにはスーパーセルが発生し、そこから強い竜巻も発生しうるという認識を、頭の片隅にでも入れておくとよいかもしれない。とりあえず、竜巻発生情報が自分の居場所で発表され、竜巻の漏斗雲が見えたら、すぐに頑丈な建物の中に入り、窓のないトイレなどの部屋に隠れてやりすごしてほしい。

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