自分のために買うときと、誰かへのプレゼントを選ぶとき
どら焼きを買うとき、あなたは質と量のどちらを優先するでしょうか。そんなの人によりけりですよね。それでは、お世話になっている取引先の方に、どら焼きをプレゼントするとなったとき、あなたは質と量のどちらを優先するでしょうか。こちらはだいたい一致するでしょう。量より質。どうも人間は、自分の評判を気にする相手には、量を犠牲にしても質のいいものを渡したいと思うようです。
自分用と他人用では基準が変わるというのは、他の研究でも示されています。見た目がめちゃくちゃかっこいいけど打ち心地のよくないキーボードと、打ち心地はめちゃくちゃいいけど見た目はダサいキーボード。あなたならどちらを選びますか? お察しの通り、多くの人は、自分のためなら性能のいい方を、友達にプレゼントするなら見た目のいい方を選ぶそうです。これは他のものでも同じ。面白みのあるマグカップか、人間工学に基づいたマグカップか。自分用なら人間工学に基づいたマグカップ。友達用なら面白み のあるマグカップ。ということで、研究者はこう述べます。「マーケターよ、娯楽性のあるものはプレゼントとして売れ、実用的なものは自分用として売れ」。
マーケターにとっては有益な助言だと思いますが、実際のところ、もらった方はどうなのでしょうか?
ウィッシュリストは水くさい?
アメリカには、自分が欲しいプレゼントを、ウィッシュリストに登録しておくという風習があります。結婚のときや子どもが生まれるとき、あるいはクリスマスなんかに、自分がもらいたいプレゼントを何種類もウィッシュリストに登録しておいて、贈る人はその中から選んでプレゼントすればいい、というシステムです。自分が欲しいものがそのままもらえるわけで、合理的で素晴らしいシステムだと思われる方も多いでしょう。実際、ウィッシュリストでプレゼントをもらった人のプレゼントへの満足度はとても高いそうです。
ところが、贈り手の心は複雑で、「ウィッシュリストにあるものをそのまま渡すなんて、そっけなくて、考えなしみたいに見えるんじゃないか?」と疑心暗鬼に襲われます。そして贈り手は熟考の上、あえてウィッシュリストになかったプレゼントを選んでしまう。仲がいいほどウィッシュリストを避けるというのですから救われません。もらった側は、なんでリストにないものを、とがっかりしつつ、「わあ!ありがとう!」と反応し、かくして誤解は解かれぬまま、次の機会を迎えてしまうというわけです。
相手の満足度よりも、実は優先したいもの
シンガポール大学のヤン氏と共同研究者は、この問題に取り組みます。ヤン氏らは、参加者の半分に、「最近もらったお気に入りのプレゼント」と「最近もらって残念だったプレゼント」を回答してもらいました。残りの参加者には、最近あげたプレゼントで、お気に入りのものと残念だったものについて回答してもらいます。結果を突き合わせたところ、これがまったく合っていない。プレゼントをあげた方が「最近あげたお気に入りのプレゼント」として挙げていた品物が、出るわ出るわ、「もらって残念だった」リストと一致していたというのです。
なぜそんなことになってしまうのか。ヒントは「もらった人の笑顔にある」とヤン氏らは指摘します。プレゼントをあげる人は、必ずしも相手を満足させたいわけではない。ただただ相手の笑顔が見たい。相手のリアクションが大きくなるプレゼントを渡したい、というのです。手頃な観葉植物をプレゼントした方が、相手は長く楽しめるけど、どうしても華やかな花束を渡したい。身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。
それでは、なにかの事情があって、相手のリアクションが観察できない場合にはどうなるか? 実は、自分が直接相手にプレゼントを渡せない場合には、素直に相手の満足度が高くなるものを渡すらしいのです。プレゼントを成功させるコツが、自分のいないところで相手に受け取ってもらうことだったとは!
ところで、記事を書いていて思い出しました。ずいぶん昔の話ですが、当時お付き合いしていた人に、「臨時収入があったんだけど、なにか欲しいものある?」と聞かれて、「え、今?乾電池が欲しいかな」と言ったら、えらく怒られたのでした 。なるほど、贈る人と、受け取る人、ずいぶんと意見の相違があるものですね。
参考文献
1. Liu, P. J. & Baskin, E. The Quality Versus Quantity Trade-Off: Why and When Choices for Self Versus Others Differ. Pers. Soc. Psychol. Bull. 47, 728–740 (2021).
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