森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

イノベーティブさが株価を下げる!?クリエイティビティの功罪

DX社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は、クリエイティビティの落とし穴について考えてみます。

Updated by Yuko Morimoto on January, 11, 2023, 5:00 am JST

アイデアは新しければ新しいほどいい……とは限らない

どうすればクリエイティブなアイデアが得られるのかについては、多くの心理学研究があります。最近であれば、関西学院大学の大塚氏と共同研究者らによって、テントの中にいると創造性課題の成績が上がるぞという結果が報告されています。講義室にテントを張って、屋内でもテント効果があることを示したというのですから、研究自体もクリエイティブですよね。

新しく、クリエイティブな、そしてイノベーティブなアイデアは、「当然いいものだ」と思われているように思います。果たして本当にそうでしょうか。例えば、あなたは社内から提案された研究開発プロジェクトを選定する役割だとします。あなたはどんなプロジェクトを承認するでしょうか? 斬新なアイデアによる高度にクリエイティブなプロジェクトを承認するでしょうか? それとも、それなりにクリエイティブなところもあるなというくらいのやや新しいプロジェクトを承認するでしょうか?

この問いに、インペリアル・カレッジ・ロンドンのクリスクオーロ氏とその共同研究者たちは、企業におけるプロジェクト選考の実際のデータから答えを示しています。ターゲットにしたのは、40カ国以上で事業を展開していて、数千人のエンジニアを抱える某企業というのですから、なかなかの規模ですね。この企業では、創業以来、研究開発のための資金を確保し、配分し続けてきているそうなので、研究開発プロジェクト選定もかなり上手なはずです。研究者たちは、この企業のプロジェクト選考会議に参加させてもらい、選考プロセスを観察しました。

その結果、プロジェクトの新規性が低い場合には、当然のことながら不採択になりやすいことがわかりました。新規性がないのですから、研究開発とは言えないということでしょうか。そして、なんと、新規性が「高過ぎる」場合にも、プロジェクト提案が不採択になりやすいことがわかりました。新規性と資金獲得額には逆U字型の関係があり、最も多くの資金が分配されるのは、新規性が中程度、そこそこの新しさがあるくらいのプロジェクトだったというのです。

どうやら、研究開発プロジェクトを審査するのに慣れた審査者でも、新しすぎるアイデアはなかなか評価しにくいもののようです。地動説を唱えたガリレオや、進化論を唱えたダーウィンがなかなか受け入れられなかったのも、当時その考えが「新しすぎた」からでは?というふうに考えることもできるかもしれません。

不確実なときはクリエイティブなアイデアにネガティブになる

新しいアイデア、クリエイティブなアイデアというのは、実は扱いが難しいものなのです。クリエイティブなアイデアを取り入れた場合、失敗するかもしれないし、リスクがどこにあるかわからないし、誰かから批判されるかもしれないし、最後まで貫き通せるかどうかもわかりません。そういう状態を、受け入れられる人もいれば、受け入れられない人もいます。また、状況によっても態度は変わるようです。

ペンシルバニア大学のミューリャー氏とその共同研究者らは、不確実性の高い状況に置かれた人は、新しいアイデアに対してネガティブな気持ちになるのではないかと考えました。ということで、参加者の半分には、「後でくじを引いてもらって、結果次第では追加で報酬を払いますね」と伝えます。これらの参加者は、不確実性が高い状態に置かれているわけです。残りの参加者には何も伝えません。こちらの参加者は、不確実性は特に高くありません。

その状態で、「あなたはクリエイティブなことっていいと思いますか?」と明示的に尋ねます。実はこの問いでは参加者の差はありません。みなさん、「クリエイティブなのはいいと思います!」と回答するのです。ところが、クリエイティブなものに対する暗黙の態度を測ってみると、不確実性の高い状況に置かれた参加者は、暗にクリエイティブなものを悪いと感じているということが示されます。つまり、不確実性を減らしたい(くじが当たるかどうか早く知りたい)と思う状況にいると、新しいアイデアや、クリエイティブなものに対して、主観的には前向きなつもりで、実は暗にネガティブな気持ちになってしまっている可能性があるのです。

イノベーティブだと株価が下がる!?

そうはいっても、イノベーティブな方が絶対いいよ!と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そうなのです。イノベーティブな企業の方が、もちろん業績は良いのです。カリフォルニア大学のハッセルフン氏らは、フォーチュン500社の経営者が、四半期ごとの決算説明会で、自社のクリエイティブさやイノベーティブさをどのくらい多く表明したかを調べました。経営者が、クリエイティブさやイノベーションをたくさん表明した場合、将来的に、その企業の財務パフォーマンスは高くなっていました。

ところが、大変興味深いことに、決算説明会でクリエイティブさやイノベーティブさを多く表明した企業の株価は、決算会の後3日間、むしろ下がっていたというのです。株式投資の方々が、イノベーティブさをネガティブに評価したのだろうなと察することができますね。

さて、ところでみなさま、人と会話する時には、新しくて、相手をワクワクさせるような話題を準備しなければと思っていませんか?

まさか、と思われた勘の良い方、その通りです。実は、人間は、本当に新しい話はあまり聞きたくないらしいのです。ところが、本人に聞いてみると、「いえ、新しい話が聞きたいです」と答えます。話す方も、新しい話の方が聞き手は楽しんでくれるに違いないと信じています。それなのに、自分の知っている話を聞いたときの方が、全然知らなかった話を聞いた時よりも、相手の話が面白かったと感じるらしいのです。

誰かと会話をするときに、面白い話をする人だと思われたければ、相手の知らないことばかり話すよりも、共通の話題について話すほうがよいかもしれません。

参照リンク
1. 大塚栄輔, 破田野智己, 張帆, 杉本匡史, 山﨑陽一, 長田典子, キャンパス内のテント空間が創造性に及ぼす影響 (2022), (available at https://ist.ksc.kwansei.ac.jp/~nagata/data/2022_JSKE_1B1-04.pdf).
2. P. Criscuolo, L. Dahlander, T. Grohsjean, A. Salter, Evaluating Novelty: The Role of Panels in the Selection of R&D Projects. AMJ. 60, 433–460 (2017).
3. J. S. Mueller, S. Melwani, J. A. Goncalo, The bias against creativity: why people desire but reject creative ideas. Psychol. Sci. 23, 13–17 (2012).
4. M. P. Haselhuhn, E. M. Wong, M. E. Ormiston, Investors respond negatively to executives’ discussion of creativity. Organ. Behav. Hum. Decis. Process. 171, 104155 (2022).
5. G. Cooney, D. T. Gilbert, T. D. Wilson, The Novelty Penalty: Why Do People Like Talking About New Experiences but Hearing About Old Ones? Psychol. Sci. 28, 380–394 (2017).