佐藤秀明

佐藤秀明

マルケサスの少女。

(写真:佐藤秀明

ゴーギャン最期の地・マルケサス

印象派の画家であるポール・ゴーギャンが最期に選んだ地は、長年愛したタヒチではなく、そこからさらに1500km離れたマルケサス諸島だった。
南太平洋の中心に位置し、まだあまり知られていないこの島々の魅力を佐藤秀明氏の写真で紹介する。

Updated by Hideaki Sato on February, 24, 2023, 5:00 am JST
ウアフカ島のアナホ海岸
ウアフカ島のアナホ海岸。観光客もまばらな夢のようなビーチ。
ヌクヒバ島の風景
ヌクヒバ島の風景。
ウアポウ島の切り立つような岩山
ウアポウ島の切り立つような岩山。この島はまだサンゴ礁が育っておらず、若い島なのだという。
荷物を抱える人々
船の荷物を抱える人々。
道を歩いてゆく人々
道を歩いてゆく人々。穏やかな空気が流れる。
文豪メルヴィルが捕らえられていたタイピバイ村のストア
文豪メルヴィルが捕らえられていたタイピバイ村のストア。
島内の交通手段
島内の交通手段は、馬かカヌーしかない。
島の人々
島の人々。明るい話し声が聞こえてくる。

南太平洋の真ん中。あらゆる大陸から遠く離れた海に浮かぶのがマルケサス諸島だ。フランス領ポリネシアの中心地であるタヒチからも1,500kmほど離れている。

マルケサスが世に知られるようになったのは、ハーマン・メルヴィルの小説『タイピー』がきっかけだ。捕鯨船のなかで奴隷のように扱われることに嫌気が差した主人公が仲間と2人で脱走し、ヌクヒバ島をさまよい、やがて食人族として知られるタイピーたちに捕まり幽閉される。そこでタイピーたちの文化に触れ、主人公たちが異文化を理解していく様は高い評価を受けた。メルヴィルが存命中に評価を受けられたのはこの『タイピー』だけで、代表作の『白鯨』は死後に読まれるようになった。

『タイピー』は小説という形態をとってはいるが、内容はメルヴィルが体験したことに近く、多くの人にとっての「未知の地」のことを知るきっかけになった。

後には船で各地を旅した作家のジャック・ロンドンも『スナーク号の航海』のなかでマルケサス諸島のことを著している。ジャック・ロンドンがヨットでマルケサスを目指したように、現代のマルケサスはヨット乗りたちの憧れの地になっている。

パンの木
パンの木。実がなっているのが見える。
ゴーギャンの絵のような風景
和む人々。まるでゴーギャンの絵のような風景。
パンの実
主食のパンの実を焼く。焼きあがったら中身を潰してポイにして食べる。
キリスト教徒
キリスト教徒たちが来る前は捕鯨船が立ち寄るだけだったが、彼らの暴力的な行いや持ち込まれた病で人口が減った。
髪飾りは花で
髪飾りは花で。
ヌクヒバ島と虹
ヌクヒバ島と虹。

タヒチで多くの名作を残したといわれるゴーギャンは、最期の時は俗化したタヒチではなくマルケサス諸島のヒバオア島で過ごした。ゴーギャンの晩年の過ごし方は現代人の感覚からすればとても褒められたものではないが、ゴーギャンの墓はいつ行ってもプルメリアの花がそっと手向けられている。

ゴーギャンの墓と花飾り
ゴーギャンの墓と花飾り。
ポール・ゴーギャンの墓
ポール・ゴーギャンが眠る墓。

マルケサス諸島はポリネシアの入れ墨文化の発祥の地ともいわれている。そのため入れ墨を入れるためにわざわざハワイのあたりから来る観光客をよくみかける。

僕は昔、ハワイアンがマルケサスにルーツを訪ねるツアーというのに参加させてもらったことがある。島に上陸すると、ハワイアンは最初に島のチーフに這って挨拶に行った。ポリネシアン共通のしきたりのようだった。

ハワイからの観光客
ハワイからの観光客。ファツヒバ島の村長に伝統的な方法で挨拶をする。アロハをカオハというように、言葉に共通語がたくさんある。

かつてポリネシアンは、タヒチ方面からマルケサスへやってきて、やがてイースター島やハワイへ渡っていったといわれている。それと関係してかマルケサスにもイースター島のモアイ像によく似た像がマルケサスに見られる。

イースター島に見られる座像
イースター島で見られるものとよく似た座像。
神殿跡(アフ)
島のいたるところに神殿跡(アフ)が見られる。
座像
イースター島にある座像とほぼ同じ形に見える。
遺跡の石像
遺跡には多くの石像が見られる。

文字通りの陸の孤島であるマルケサスには独自の文化が根付いている。それはときに非常に神秘的であり、訪れた者の心を掴んで離さない。このような地上の楽園のような場所がいつまでもあり続けることを願ってやまない。

人々の暮らしぶり
人々の暮らしぶり。のんびりとした空気が流れている。
ファツヒバ島オモア海岸の夕暮れ
ファツヒバ島オモア海岸の夕暮れ。
船を出迎える人々
船を出迎える人々。子ども達はアイスクリームが待ち遠しい。
月に一度の船が来た
月に一度の船が来た。タヒチからアラヌイ号という貨客船が生活物資を運んでやってくる。島からは唯一の産業であるコプラが積み込まれる。