AIの強みは人間が想定しない状況にも対応できること
昔、アイザック・アシモフというSF作家がいて、いわゆるロボットもののSFをたくさんものした。特に、彼はロボットが絡む刑事もの(いわゆるミステリ)が得意だった(実際、SF作家として、また、同時にサイエンスライターとして、あまりにも高名なため埋もれてしまっているが、アシモフには『黒後家蜘蛛の会』シリーズというれっきとしたミステリの連作があり、これだけで十二分に一流作家とされるだけの出来栄えである)。設定の都合上、彼が空想したロボットの頭脳、ポジトロン頭脳は、作った人間にも動作原理が不明なものとされた。ロボットだけが殺人の目撃者、という刑事ものを書くのに、ロボットの頭を開けたら現場で何が起きたか丸見え、というのでは物語が成立しないからだ。そのときは、作った人間に動作原理がわからないコンピュータなんて、なんてご都合主義的なんだ、と訝ったものだが、実際にAI=機械学習ができあがってみれば、そのとおりなのだからアシモフの慧眼には脱帽するしかない。
この、ちゃんとプログラミングされていないからミスがゼロではないが、人間が想定できない状況にも対応できるというAI=機械学習の特質は従来のプログラムを軸にしたコンピュータとはまったく異なる。たとえば、最近話題の自動運転を例に取ろう。人間がきちんとプログラムするノイマン型の計算機でこれを実行しようとすると、あり得るすべての状況を人間が想定する必要がある。この困難のために、自動運転はな かなか実現しなかった。これはフレーム問題といって広義のコンピュータにおける難問の一種である。
だが、AI=機械学習はそもそも、人間がプログラミングしていないので、100%の精度での動作が保証できない代わりに、人間が想定しない状況にも対応できる(これを汎化という)。このAI=機械学習の進歩なくして、自動運転が現実に実装可能な技術として脚光を浴びることはなかっただろう。