Kaede

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「キラナ・ショップ」と呼ばれる、小規模の個人商店(インド版コンビニ)。1杯10ルピー(約16円)のチャイ、1枚5ルピー(約8円)のクッキーまで、QRコードを読み取ってキャッシュレス支払ができる

(写真:Kaede

トゥクトゥクも路上で売られている野菜もキャッシュレスで。急速に進むインドのデジタル決済事情

IT大国として名を馳せているインド。当然、デジタル決済が普及し、キャッシュレス化が進んでいる。その実情は日本人の想像を超えているかもしれない。インド・バンガロール在住のKaede氏にインドのキャッシュレス化事情とその背景をレポートしてもらった。

Updated by Kaede on March, 30, 2023, 5:00 am JST

インドのデジタル決済を支える基盤システム

インドのデジタル決済は主に2つのシステムで支えられている。「アーダール(Aadhar):国民識別番号」、そして「統合決済インターフェース(Unified Payment Interface: UPI)」である。

インド版マイナンバー「アーダール(Aadhar)」により、誰でも銀行口座が持てるように

インドのデジタル経済を支える根幹にあるのが、「アーダール(Aadhar)」という国民識別番号制度だ。日本の「マイナンバー」に近いものと考えてよい。

2009年から取り組みが始まった「アーダール」は、国民一人ひとりに生体認証情報(目の虹彩、指紋)と合わせて、国民識別番号を付与する仕組みである。インド政府によれば、2023年1月現在、インド国民の9割以上が「アーダール」を保有しているという。

「アーダール」の導入により、誰でも、とりわけ(インドの人口の大部分を占める)農村部や低所得層の人々は、簡単に銀行口座が開設できるようになった。そして銀行口座に紐づいて発行できる「UPI ID」(UPI:Unified Payment Interface 詳細は下記を参照) 取得をし、デジタル経済圏に参画できるようになった。

「アーダール」を持つことにより、都市から農村部まで、あらゆる所得層の人々が、日々の生活の中でデジタル決済を利用できるようになったのだ。

ちなみに「アーダール」導入前は、低所得層の人々は政府が発行した公的なIDを持っていない、あるいは一部のID(投票者カード、食糧配給カード)だけを持っていない人も多かった。公的に身元を証明する書類が欠けているために、銀行口座が開設できない、経済的困窮層に対する政府の支援金を受け取ることができない人も少なくなかった。「アーダール」は、低所得層、貧困層の人々の金融包摂を進めるインフラとなった。

アーダール(Aadhar)の登録センター。虹彩写真を登録しているところ。虹彩、指紋といった生体認証情報と合わせて、アーダール番号(ID)を登録する。(筆者撮影)

「統合決済インターフェース(Unified Payment Interface: UPI)」

上記で述べた アーダールは、「統合決済インターフェース(Unified Payment Interface:UPI)」という「即時決済システム」の基盤にもなっている。

UPIは、インド中央銀行の主導により2016年に導入されたシステムである。スマートフォンから、365日24時間リアルタイムで銀行口座間送金ができる仕組みであり、インドの主要銀行が出資する、インド国立決済公社(NPCI)が運用している。現在は200以上のインド国内銀行やノンバンクが参加している。

インド決済公社(NPCI)の発表によると、2023年1月だけで約80億件、金額ベースでは約2,000億ドル(約27兆円)の取引がUPI上で行われた。※1

銀行機能にアクセスできない貧困層の金融包摂の目的も含め、取引手数料は原則無料である。その日の取引額上限に達するまでは、何回でも無料で送金可能である。また、全ての取引がUPIのプラットフォームを通過することを規定して、デジタル決済サービスを提供する企業のみに取引記録が保持されることや、不透明な取引プールを持てないようにした。

インドのデジタル決済サービスは、「PhonePe」「GooglePay」「Paytm」の3社による独占市場になっており、インドでのデジタル決済の95%を、この3社が占めている(取引回数ベース)。※2

バンガロール・メトロ。チケット購入やメトロカードのチャージもオンラインで決済できる。(筆者撮影)