Kaede

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「キラナ・ショップ」と呼ばれる、小規模の個人商店(インド版コンビニ)。1杯10ルピー(約16円)のチャイ、1枚5ルピー(約8円)のクッキーまで、QRコードを読み取ってキャッシュレス支払ができる

(写真:Kaede

トゥクトゥクも路上で売られている野菜もキャッシュレスで。急速に進むインドのデジタル決済事情

IT大国として名を馳せているインド。当然、デジタル決済が普及し、キャッシュレス化が進んでいる。その実情は日本人の想像を超えているかもしれない。インド・バンガロール在住のKaede氏にインドのキャッシュレス化事情とその背景をレポートしてもらった。

Updated by Kaede on March, 30, 2023, 5:00 am JST

インドのデジタル決済を後押しした、2つの要因

上記で説明した、インドのデジタル決済を支えるシステムの整備に加え、デジタル経済への移行を後押しした2つの要因を以下に紹介したい。

例えるなら「5000円札と1万円札が、明日から無効になります」

2016年、インドのモディ首相は、マネーロンダリングや偽札撲滅を目的として、高額紙幣の廃止を突然発表した。当時のインドルピーの高額紙幣であった、「500ルピー札と1000ルピー紙幣の利用を、政府発表の翌日から廃止する」という施策である。

これが日本で起きたならば「5000円札と1万円札が、明日から無効になります。今持っている紙幣は銀行に行って預金してきてください」というもので、想像しがたい大変革である。この政策が発表された当時、筆者は日本のインド系外資企業で働いていたのだが、日本に住んでいたインド人の同僚たちから、インド国内の混乱を聞いていたのをよく覚えている。

高額紙幣の廃止は、それまで現金中心であったインドの小規模事業に大きなショックと混乱を与えたが、キャッシュレス化への移行を促すきっかけになった。

新型コロナの広がりで「非接触」が広がった

2020年以降の新型コロナは、インド国内のあらゆる層の人々にとって、デジタル決済への移行をさらに促した。

インド政府は、上記に述べた国民識別ID「アーダール」を基に、経済的困窮者への金銭支援や、世界最大規模のワクチン接種を進めた。それまでインフォーマル経済で、現金中心で生活していた低所得層でさえ、「アーダール」の登録、「銀行口座の開設」が必須の状況になった。

筆者は、2020年のパンデミック直前にインド・バンガロールに移住したため、コロナ禍の間も長らくインドで生活をしていたが、コロナ以降、都市部では特に身の回りのサービスのデジタル化が進み、利便性、衛生的な観点から「キャッシュレス化」が大きく進んだことを身を持って体感した。

「アマゾン・フレッシュ」をはじめとするオンライン・スーパーマーケットが普及し、オンライン診療サービスも発達。都市部では、個人経営による零細商店や薬局でも、あらゆる商品・サービスの取引のオンライン化が一気に進んだ。

注文したい商品や、常用薬などを、WhatsApp(インドで最もポピュラーなメッセージアプリ)で送り、デジタル決済アプリで支払いをして、配達サービスで玄関口まで届けてもらうことができるようになった。

バンガロールは、インド国内の中でも最もデジタルサービスが浸透している都市のひとつであり、新型コロナ以降、あらゆる物やサービスがスマホ一つで利用できるようになった。デジタル決済は、その根幹となっている。

インドで最もポピュラーなオンライン・スーパーマーケットのひとつ「Big Basket」。コロナ禍で一気に利用者が増えた。このようにバイクやトラックで注文した品を配達する。(筆者撮影)
ムンバイのローカル列車でも、10ルピー(約16円)の運賃支払はキャッシュレスに。(筆者撮影)

今回紹介した、デジタル決済サービス(Paytmなど)を利用するには、インドに銀行口座を保有していることが基本条件となる。日本からインドへ短期出張や観光で滞在する場合は、この変化を実感することは難しいかもしれないが、今後インドを訪れる機会があれば、デジタル決済が、あらゆる場所・人々の間で浸透しているか、ぜひ見てみてほしいと思う。

参照リンク
※1 Where Digital Payments, Even for a 10-Cent Chai, Are Colossal in Scale(The New York Times)
※2 With 96% Share, PhonePe, Google Pay & Paytm Dominated UPI Transaction Count In December(Inc42)