松浦晋也

松浦晋也

H3ロケット試験機1号機/先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3) 打上げの様子。

(写真:JAXAデジタルアーカイブス / JAXA

打ち上げ失敗で失われただいち3号。空白化する観測記録は穴埋めできるか

新型ロケットH3の打ち上げ失敗により、搭載していた観測衛星・だいち3号が失われた。実はだいち3号は、発生が予測されている南海トラフ地震を念頭においた観測衛星だった。最新衛星による観測ができなくなった今、大規模災害に備えてできることはあるのか。科学ジャーナリスト・松浦普也氏が綴る。

Updated by Shinya Matsuura on April, 10, 2023, 5:00 am JST

H3打ち上げ失敗で失われただいち3号は、南海トラフ地震を念頭においた機能を備えていた

前回からの間で大きな事件が起きてしまった。新型の「H3」ロケットが打ち上げに失敗した。
H3ロケット初号機は、3月7日午前10時37分55秒に宇宙航空研究開発機構(JAXA)種子島宇宙センターから打ち上げられた。第1段の燃焼終了・分離まで飛行は正常だったが、第2段エンジンが着火しなかったために午前10時51分50秒にミッション達成の見込みなしとして指令破壊コマンドを送信。第2段と搭載した衛星は、フィリピン東方沖合いの海面に落下した。

搭載されていたのは、JAXAの地球観測衛星「だいち3号」。JAXAは「だいち」シリーズを、2005年から打ち上げている。だいちシリーズの開発コード名はALOS(エイロス:Advanced Land Observation satellite)、日本名は「陸域観測技術衛星」。これから分かるように、主に陸上を観測する新しい技術を開発し、試験し、利用方法を探ることを目的としている。

初代だいちは、レーダーと光学センサーを相乗りさせた重量4トンの大型衛星だったが、その後レーダーと光学センサーを分離することになり、2014年にはレーダー衛星の「だいち2号」が打ち上げられ、現在も運用されている。

先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)実機
先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)実機(画像:JAXAデジタルアーカイブス)

だいち3号は高分解能と広視野を両立された光学衛星。全世界の陸地の地図を作成する基礎データの収集と、大規模災害発生時の状況把握という2つの目的のために開発された。特に、衛星姿勢を急速に変更しつつ地上の観測を行う機能を持ち、1回の日本劣等上空通過で、関東から九州にかけての太平洋沿岸を一気に観測することが可能。近い将来の発生が予測されている南海トラフ地震を念頭に置いた機能だった。

だいち3号は、初代だいち以来の、日本の政府機関による高分解能地球観測衛星だった。初代だいちは2011年に運用を終了しており、現時点で日本の高分解能地球観測衛星は12年近い観測の空白を作ってしまっている。H3打ち上げ失敗でだいち3号が失われた結果、日本政府による地球観測の空白は、さらに何年も延びることとなってしまった。

初代だいちも、打ち上げは大幅に遅れた

過去、JAXAの前身のひとつであった宇宙開発事業団(NASDA)の頃から、日本の高分解能光学センサーを搭載した衛星は、茨の道を歩んできた。

もともと日本の高分解能光学センサーは、様々な土壌の分布や、人間による土地利用状況のデータを得て、各種地図を作成することを目的としていた。そのための最初のセンサーが、地球観測衛星「みどり」(1996年打ち上げ)に搭載された「高性能可視近赤外放射計(AVNIR)」だ。AVNIRはモノクロ画像で最大分解能8m、多波長で観測するカラー画像は分解能16mだった。

みどりは1996年8月17日に打ち上げられたが、打ち上げ後10カ月で太陽電池パドルが破断するという事故を起こして1997年6月30日に運用を終了せざるを得なくなった。

続く高分解能光学衛星が初代だいちだ。モノクロで最大分解能を2.5m、かつステレオ撮影により地形の高低差も映し出すことができる光学センサー「PRISM」と、分解能10mで多波長観測を行う光学センサー「AVNIR II」、さらに合成開口レーダーの「PULSER」を搭載していた。同衛星は当初は2001年度の打ち上げを予定していた。しかし、打ち上げに使うH-IIAロケットの開発が2年遅れたことで2年ずれ込み、さらに2003年にH-IIA6号機が打ち上げに失敗したことから再度2年遅れた。結局打ち上げられたのは、2006年1月24日だった。